TALKING ABOUT ARCHIVES Vol.31

アーカイブによって育まれる視点(後編)

モードからストリートまで、現在のファッションとは切り離せない存在である“アーカイブ”。“アーカイブ”というジャンルは、勿論ファッションだけに限らず、雑貨や生活必需品に日用品など様々なものが含まれています。今回は、小木“POGGY”基史氏が、古着のみに留まらず家具や雑貨なども取り扱う中目黒のジャンティークのオーナーである内田斉氏と対談を行い、現在のファッションとアーカイブの関係性を探りました。

ジャンティーク 内田氏、poggy氏

--- ではここからは、本日ご紹介して頂くアイテムについてそれぞれお話を伺えればと思います。先ず最初のこれは、鍵ですよね?

内田「こういう古い鍵って、どうにもならないガラクタなんですよ」

--- 確かに物としての本来の意義は失われていますもんね。

内田「そこに魅了されてしまうんですよ。だから自分にとって、要らないものをどうやって人に紹介するかっていうルーツ的なもので。色んな鍵があるんですよ。時計の鍵もあれば、家の錠前もあるし、ヨーロッパ中世のもあって。中には250ドルくらいしたものもあるんですよ。あとは、フォードの20年代の車の鍵とか」

ジャンティーク 内田氏、poggy氏

POGGY「確かにフォードって書いてありますね」

ジャンティーク 内田氏、poggy氏
ジャンティーク 内田氏、poggy氏

内田「これも一応鍵っていうことで一緒にしたんですけど、手作りの鍵なんですよ。アルファベットを合わせて開けるタイプのやつなんですけど、実際に鍵としては使わないからネタをバラすと、PETZって入れると開くんですよ。PETZって、子供の頃によく食べた、お菓子のPEZのことじゃないかなと思うんですけど。こういう手作りのやつ、手書きでも良いんですけど、古着とか家具、雑貨とか含めて、一点ものの良さっていうのは紹介していきたいんですよね」

--- 一点ものには、それぞれがストーリーを持っていたりしますからね。

内田「鍵じゃなくてもいいんですけど、元々用途が決まってたものを、別の文脈で大事にしてしまう変なところがあって。何故大切にしてしまうんだろうっていうテーマをもとに実験をしたんです。そうすると、同じような感覚を持った方も来られるわけです。そこが面白いんですよ。皆さんの古着屋さんと違うところはそういうところなのかもしれないですね。なんか、誰かが引っかかれば良いんですよ」

--- 大多数の人には無用なものでも、そこに対して面白みとかを感じ取れるっていうのは、とても豊かなスタンスですね。

内田「それは洋服に関しても一緒ですよね。そういうとこは大事にしていってもらいたいなって」

--- そこが、自分で何かを選べるということにも繋がりますからね。

内田「そうなんですよ」

ジャンティーク 内田氏、poggy氏

POGGY「可愛いですね、地球儀。小さくて。子供の部屋にあったら可愛いですね」

内田「地球儀を集める癖がありまして。ボーッとする時に見たいんですよね。別にヴィンテージじゃなくてもいいんですけど、地球儀を見ながら常に生活したくて。あそこ行きたいな、ここ行きたいなっていう感じで眺めていて。子供の頃から、世界を旅するのが一生のテーマなので、自分にとってのルーツ的なものですね。ジャンティークを始めたときも、買い付けに飽きたら色んな国に行けるように、どこでも買い付けに行けるシステムにしていて。そんな私物ですいません。100年くらい前のやつです。デスクにあったら可愛くないですか?」

--- 今ちらっとお話しされていましたが、ジャンティークの買い付けってのは、定期的にどこかに行ってという感じなんですか?それとも、内田さんが思い立ったタイミングで、行きたい国に買いに行くって感じなのでしょうか?

内田「やっぱりどうしても仕事なので、年間スケジュールが決まってるんですよ。この時期はNYとか、NYからLAとか、ロンドンとか決まってるんですけど、一発変わったことしたいなって思って、一回くらい計画に無かった買い付けをしたり、しなかったり」

POGGY「これって、でもアメリカだけじゃ買えないですよね」

内田「そうなんですよ」

POGGY「ちゃんとヨーロッパだったり、イギリスも行ってるんですか?」

内田「ターンブルアンドアッサーとかは、本国行った方が、買えるじゃないですか。そういうのは、買って来ますね」

POGGY「しかも結構旧タグのやつとかもありますよね」

内田「そうなんですよ。高いんだけど、欲しいから買ってるみたいな。そうしないと、やっぱり勉強にならないんですよね」

POGGY「僕もこの前、ターンブルアンドアッサーのシャツを買わせてもらって、イギリスのシャツとかに関して、旧タグとかの感覚ってあんまりないですよね(笑)。イギリスの紳士の方達って、シャツをボロボロになるまで着たりするじゃないですか。それはそれでかっこいいですよね。きれいなスーツの中にボロボロのシャツっていうのは」

内田「せっかく行ったから、ターンブルアンドアッサーのお店も行ってみたんですけど、あんまり面白くなかったんですよ。でも、下着を買ってみたんですよ。そしたらシーアイランドコットンの下着が売ってて、めちゃめちゃ高かったんですけど、気に入ってます」

POGGY「ターンブルのトランクスですか? 僕も愛用してます」

内田「いいですよね。高かったっすね」

POGGY「ですよね(笑)」

内田「普通のコットンと比べて、全然違うんですねよ。やっぱ良いんだなーと思って。それまでブルックスのショーツだったんですけど。変えました。」

POGGY「高いですよねー(笑)。でも、改めて考えても、ジャンティークの買い付けは大変ですよ。間違いなく。古着に詳しくない僕でも大変なのが分かりますもん(笑)」

ジャンティーク 内田氏、poggy氏
ジャンティーク 内田氏、poggy氏

--- お次はこのバスタオルですね。

内田「皆さんTシャツとかでグラフィックを見ることが多いと思うんですけど、バスタオルで見れるグラフィックです」

POGGY「NO PARKING?」

内田「はい。僕の中では、サンタクルーズあたりのビーチに、これをかけたお姉ちゃんが歩いてて、車乗った兄ちゃんがパーキング探してるっていう絵を、多分70年代ごろ、だからアメ車もデカいなぁとか、派手なパラソルが置いてあったりとか、Tシャツじゃなくてもグラフィックは取れるんだよっていう。バスタオルを。わかりやすく2個、持ってきたんですけど。意外とタオル面白くないですか?薄いタオルなので、だいぶ当時からしたら粗悪なものなんですけど」

POGGY「綿ですもんね、今のプリントのタオルってポリエステルが多かったりしますよね」

内田「よくもらうタオルあるじゃないですか、なんとか工業って書いてある。あの薄さに似てますよね。全然タオルって人気ないんですけどね(笑)。色々あるんですけどねぇ」

--- 見方を変えると面白さに気付けるって感じですね。

内田「なんでもそうですよね。これを買いに行くぞって皆さん決まってる人が多いと思うんですけど、自分はそうじゃない方向で」

--- 自由に色々物を見れますもんね。

POGGY「コロナになって、単品買いのお客様が増えてきてるんですよ。それに実店舗じゃなくオンラインに移行しているから、コーディネートで買うというよりはより単品買いの世界になっていて。目的がないと外出しなくなって来てるんですよね。だから、内田さんが仰る通り、これを買いに行く、みたいな世界になると、発想力がやっぱだんだん弱くなってきますよね。ジャンティークのようなお店に来て、色んなスイッチをオフにして自由にものを見るっていうのは凄く大切ですね、改めて…」

ジャンティーク 内田氏、poggy氏

--- これはベルトなんですか?

内田「ベルトじゃなくてもいいんですけど、ジャンティークはアメリカ物も得意ですけどヨーロッパものも好きで、ジャンルを特定していないんですね。そこに、ネイティブとか民族とかトライバルのものも合わせると、凄くジャンティークらしいなって。これはホピ族の物で、アメリカのインディアンの物なんですけど、これも僕の中ではオーセンティック、トラディショナルなものなんです。用途があって作られているものなので。そういうものが入ることによってすごくホッとするというか、色々混ざって並べると、うちらしさが出ると思っているんです。日本で言うと藍染とか刺し子とか、いろんな国にある、そういうものを紹介をしていきたいですね」

--- 内田さんが最初にやりたかった、家の中の物をそのまま持ってきたみたいな感覚にも繋がることですよね。普通、家の中って、いろんな国や年代ものが混ざって置いてありますし。

内田「ヒースローの空港のイミグレーションの人種の多彩さとか凄いじゃないですか。やべー俺全然普通じゃんって思うくらい凄い人がいっぱいいるじゃないですか、あれを洋服で表現すると、ホッとするんですよ。なんでもありというか、ただそれだけなんですけど。ここが青くなってるのはインディゴに巻いてたなとか考えたりとか、この玉の中に何が入ってるんだろうとか、フリンジの長さの意味とか。色んなことが考えられるんですけど、それだけで十分魅力的で 」

POGGY「まさにあれですね、チープシックの本の世界」

ジャンティーク 内田氏、poggy氏
ジャンティーク 内田氏、poggy氏
ジャンティーク 内田氏、poggy氏

--- 最後はこちらのスエードのオーバーオールとブーツですね。

内田「スエードなんですけど、要するに、色が乗っかってくるというか、元々すごくきれいなものに、その人の用途で、汚れが乗っかってくる。そういうのを紹介したかったんですよ。内側を見るとこっちがスエードなんですけど、履きこまれたことによって、どっちが表側かわからなくなってるっていう」

ジャンティーク 内田氏、poggy氏

内田「デニムもそうなんですけど、501がなんで人気が出たかっていうと、生とかリジットとかいうじゃないですか、洗った時に、変化するんですよね。だから、初めて買った時の状態が100じゃなくて、120とか140に変化していくっていうのが魅力だと思うんですよね。乗っかってくっていうのかな、そのスエードの上に、思い出なのか愛着なのか、そういう部分が。そこが僕の中では、ヴィンテージの大切なものなんですよね。これは元々20年代のオーバーオールで、多分溶接用とかなんじゃないかな。火花が飛んでも大丈夫なようなディティールになっていて。着てみるとまた良い感じなんですよ。皆さんデニムは紹介すると思うんですけど、そうじゃない分野の古着で面白いんじゃないかと」

POGGY「札幌にプレシャスホールっていうクラブがあって、ハウスのレジェンドの人達が来日すると必ずその札幌のクラブでDJするんですけど、デヴィッド・マンキューソがサウンドシステムをアドバイスしているクラブで。札幌って、東京と違って湿度があんまりないので、音の返りがいいらしいんですよ。だから札幌のその箱でしか聞けない音があるみたいで。それと一緒で、レザーもLAで着込まれたレザーと、東京で着ていたやつとではまた違いますよね。味の出かたが」

内田「あるねえ。ヨーロッパの湿度や気候というものもあるし」

POGGY「そういうのも、面白さのひとつではありますよね」

内田「はい、古着の面白さというか、一点ものの面白さ。そういう意味では、このブーツには年代も書いてあるんですよ」

--- 1825!? 約200年前(笑)

内田「もしかしたらストラップがあったかもしれないね… ここが一枚革ってありえないじゃないですか、絶対これ履きづらかっただろうな」

POGGY「最初痛いでしょうね…」

内田「こういうのを紹介したいんですよね、多分見たことないんじゃないかなって思いますけど。もう一つのは多分1900年くらいのものなんですけど、似た形なんですよ。100年くらい経ってアップデートされていて、マルジェラみたいな雰囲気の。甲が割とナローで、凄い格好良いんですよ」

--- こういうのを購入される方って、自分で履く為ではなさそうですよね? コレクションなんですかね?

内田「作る方が一番多いですよね。うちはもしかしたらそっち寄りなのかもしれないです。一般の若い子にも何コレ?って思ってもらって、何コレっていう引っ掛かりから入ってもらって、結果的に同じところにいれれば良いかな。それで、他のお店に行っても、自分のジャッジが出来る様になって貰えたら良いなと思って今回は紹介させてもらいました」

POGGY「ありがとうございます! とても勉強になりました!」

小木“POGGY”基史

1976年生まれ。1997年に「UNITED ARROWS」でアルバイトを始め、プレス職を経て2006年に「Liquor,woman&tears」をオープン。2010年には「UNITED ARROWS & SONS」を立ち上げ、ディレクションを手がけている。2018年に独立し、昨年リニューアルオープンした渋谷PARCO内の「2G」のファッションディレクターを務めるなど、新たな動きにも注目が集まっている。

内田 斉

1969年生まれ、群馬県出身。原宿の老舗古着店「サンタモニカ」で18年間勤務。独立し2005年、中目黒に「ジャンティーク」を立ち上げ、古着だけにとらわれず、様々なアーカイブを展開するスタイルが、ファッション業界を中心に絶大な支持を集める。2019年、地元・群馬県高崎市に2号店「ジャンティーク 内田商店」をオープン。今年の3月より「ジャンティーク」のECもスタートさせる。

Photo_ Shiga Shunsuke
Text_ Maruro Yamashita


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