TALKING ABOUT ARCHIVES Vol.25

小木”POGGY”基史が読み解く、アーカイブとファッションの関係 vol.03 feat. 藤原裕(BerBerJin)(後編)

 モードからストリートまで、現在のファッションとは切り離せない存在である“アーカイブ”。“アーカイブ”という存在がブランドのクリエイションにどのような影響を与えているのか、小木“POGGY”基史氏が対談形式で読み解くこの企画。第三回目のゲストは、ヴィンテージデニムに関して、あのリーバイス®が頼りにする存在であるBerBerJinの藤原裕氏。ヴィンテージ好きなら誰しもが訪れる、原宿のとんちゃん通りにあるBerBerJinより二人の対談の模様をお届け致します。

--- Championの後付けパーカーですね。

藤原「BerBerJinに入る前からChampionが好きで。これは一度うちの店で売ったんですよ、10年以上前に。そのお客さんがサイズが合わなくなったっていうことで、買い戻す形になって、買わせてもらったものなんです。いわゆるランナーズタグで、巻いてる仕様ですね。通常は全部貼り付けなんですが、巻いてるのが30年代後半のもので」

POGGY「30年代…」

藤原「僕はインディゴが好きなので、ネイビーも好きで。後はこの色褪せ感。後付けパーカーの中でも最強と言われる、Vが両方で、ポケットがセパレートで、バックプリント。後付けパーカーの中でも全部が盛り込まれてる感じの、ハイ(笑)。ただジップアップ仕様に切られてカスタムされていたので、価格的には安かったんですけど。実は、手に入れてから店で1回も着てなくて。着ると絶対お客さん達から「売ってくれー」って言われると思うので(笑)。
それに、どうせ着るなら、同年代のジッパーをちゃんと見つけて付け直してからが良いなと思ってます」

POGGY「ジップアップにされてなくて、この状態で出てきたら幾らくらいなの?」

藤原「昨年も今年も、この両Vセパレートは1枚もうちでは出してないんですよね。最後に1枚出たときで、398,000円でしたけど、昨年くらいからスウェットが凄い高騰していて。古いのは特に。これとか、2トーンの物とかってなってくると3桁いっちゃうくらいになっていて。マニアが加熱しちゃってて」

--- それは何か理由みたいなのが?

藤原「やっぱり最近だと、Instagramがマニア同士が繋がるツールになっていて、そこで情報交換やこんなの持ってるよっていう自慢大会が行われるので。そこに、更に昨年はChampionの100周年ていうこともあって、ヴィンテージのスウェットにフォーカスした雑誌が発売して。そこから周りがざわつき始めて、全くモノが出てこなくなりましたね。Championに関しては、今はリバースウィーブもすごく加熱していますね。何年か前から、いわゆるリメイクブームもあって、リメイク用にリバースウィーブが何千枚もぶった切られていたんですけど、ここに来て本物というか、普通のリバースウィーブも売れ始めてきています。ユニセックスで女の子もダボっと着るようになってるし。うちも毎月結構な枚数を仕入れるんですけど、毎月売り切れていて。それくらいチャンピオンは相変わらず売れてますね」

POGGY「あと、& BerBerJinだと、敢えてボロボロのやつを提案してたりしていて、そういうのも面白いんですよね。良い感じのボロボロのやつが逆にあんまり無くて」

--- そういうのって、自分で狙ってボロボロにするのはやっぱり違いますか?

POGGY「難しいんですよね。(味が)出ないんですよ…」

藤原「破ったりとかでするときも、横に線がビシっていっちゃったりとか…」

POGGY「本当に着込まないと出ないんですよね」

藤原「ワーク系のアイテムは好きで、一時期かなり買いこんでました。
このショップコートも、自分にぴったりなサイズで、ちょっとこのミリタリーチックな、グリーンのヘリンボーンのやつがとても良いなと。キャンツヒルっていう30年代後半〜40年代あたりのブランドのものなんです。元々、別のチェンジボタンが2個だけ付いてたので、それを残りの分も探そうと思ってたんですけど、なかなか出てこなくて。そしたら、チェンジボタンでも一番有名な、カーハートのハートボタンが家に3つあって。その後も知り合いの人から運良く譲ってもらえたり、お店に入荷して運良く売れ残ったものを買えたりして5個全部揃ったので、カーハートのハートボタンでカスタムしてます。しかも、これは20年代後半くらいのボタンなので、カーハートって文字が入ってないんです。もうちょっと後のボタンだと、カーハートって入ってるんですよ。カーハートって入ってるボタンを付けると、これがいかにもカーハートになっちゃうなと思ったんですけど、この古いハートボタンだったらアリかなと」

--- こだわりですね。

藤原「やっぱりこのハートのボタンて見た目もデザインとしても最高に可愛いですし、こういう汚いジャケットですけど、女の子受けはいいなぁみたいな(笑)。自分も、小木さんもカーハート好きですし。これももう5年ぐらいは着てるんですけど、本当に売ってくれ売ってくれと良く言われます」

--- 基本的に藤原さんはこういったヴィンテージのアイテムって、ご自身で着れるものっを買われているんですか?

藤原「僕はほとんどそうですね。着てなんぼっていうか」

POGGY「着てるもんね」

藤原「着れなくなってしまったものはあるんですよ。サイズじゃ無くて、着ると奪われるっていう(笑)。売ってくれ売ってくれのアレが凄まじいので、着れないなーっていう」

一同:笑

POGGY「それの最たるものが、これですよね」

藤原「うちはフェイクアルファと系列店になってからもう13年経つんですけど、“501XX”を1本たまたま譲って頂いたことがあるんですよ。それは10年くらい穿いてるんですけど、ちょっとジャストサイズではなくて。自分もデッドストックから自分で穿くっていうことをちゃんとやってみたいなってずっと思っていて、僕のマイサイズはパッチサイズで34の33ってのが分かって、そこから探し始めました。
生まれ年が欲しくて探したんですけど、自分は77年生まれで、その頃のはデニムの素材がイマイチ良くなくて。色の濃いところから自分で育てたいと思っていたし、もう77年製は諦めて、70年代生まれの中から探し出したのが、74年製のこの一本なんです。8年くらい探しましたね。デッドストックを色々見た中でも一際濃かったんですよ、地の色が。自分で糊付けして、40歳の誕生日におろしたんですけど、2年間頑張って穿いたらどうなるかと思って。お店で働くときは毎日穿いて。毎日駅まで10分くらいピストバイクに乗っているので、そういうアタリが出たりして。あとはもう本当になにも気にせず。酒もこぼすわ、朝方5時くらいにラーメンをこぼすわ。こっちだけ黒いんですけど何かあったんですか? とか言われながら(笑)。
1年7ヶ月経った頃に、股の部分が破けはじめちゃったんですよ。で、色んな人に意見を聞いたら、これ以上穿くとどんどん破けてきちゃうから、っていうタイミングだというので、そこで穿くのをやめました。
最初のワンウォッシュはホコリを取るだけで、そこから1年7ヶ月履穿いたところで洗って。なのでこれ2回しか洗ってないんですよ。ツーウォッシュっていうと普通は濃いデニムをイメージすると思いますけど、どれだけ摩擦で色が落ちていくっていうのを自分で実証しました(笑)」

POGGY「デニム好きな人って、こういうヒゲがすごい好きで。ヒゲって、当時ワークウェアとしてデニムを買って、そのままずーっと穿いてるからこういう色落ちが出るんですよね。それをユタカくんは自分で今の時代にやってみたっていう。僕とユタカくんの共通の先輩が、僕が独立した時に僕の生まれ年の76年製のデニムをプレゼントしてくれたんですよ、ユタカくんが探してくれたデッドストックのを。で、今僕も穿いているんですけどなかなかここまではまだいかなくて(笑)」

藤原「小木さんが毎日同じジーンズじゃダメですもんね(笑)」

POGGY「たまに穿いてますよ(笑)。自分はわざと、アイロンをかけてセンタープリーツを入れて色落ちさせようとしてて。生まれ年のデニムを楽しめるのは、多分今42歳以上の人の特権ですよね」

藤原「そうですね」

POGGY「それより若い皆さんの生まれ年だと多分良い色落ちしないんですよ…」

藤原「そうですね。70年代後半になってくると新しい染めの技術だったり、生地が変わったりっていうことで、色落ちがのっぺりして来てしまうんですよね。それがどこから変わってるかというと、僕が今まで見てきた限りだと75年ですね。76年あたりから色が変わってきちゃうんです」

--- 小木さんから見て、こういうヴィンテージアイテムのファッション的面白さって言うのはどのようなところにあると思いますか?

POGGY「ユタカくんもさっきも言ってましたけど「着る」ことの楽しさですかね。本当のマニアの人のなかには、自宅で着ないで眺めるみたいな人もいると思いますが、自分たちはそういうスタンスでは無いので。ボタンを付け替えて楽しんだり、自分の生まれた年代のものを一から穿き込むっていうのが、凄い楽しいですよね。良い感じのボロボロ感みたいなものを探すのも楽しいし」

藤原「あとは、やっぱり1点モノっていうことも、重要ですよね。小木さんも今日着られてますけど、カーハートのブラウンダックにしても、この雰囲気のこの色と全く同じものがあるかと言ったら、無いと思うんですよ。色々な要素にグッとくるものがあって、小木さんも選んでいると思うので。僕も大体古着とかヴィンテージを買う時って、大体一目惚れで。これをずーっと探してた! っていうような買い方は本当に何点かくらいで、大体は一目惚れで買い物をしちゃうんです。その感覚で、やっぱり一点モノっていう魅力に僕は取り憑かれてるなっていつも思うんですよね」

藤原 裕/Yutaka Fujiwara

日本を代表するヴィンテージショップ、BerBerJinのディレクター。とりわけヴィンテージデニムに関する知識に定評があり、2015年にはヴィンテージのリーバイス501についてまとめた書籍『THE 501®XX A COLLECTION OF VINTAGE JEANS』の共同監修も務めている。2018年からは、ヴィンテージデニムの魅力を伝えるべく、自身のYouTubeアカウントも運営中。
https://www.youtube.com/channel/UCexbqeATcS0nViTHqOzJYLg

小木“POGGY”基史

1976年生まれ。1997年に「UNITED ARROWS」でアルバイトを始め、プレス職を経て2006年に「Liquor,woman&tears」をオープン。2010年には「UNITED ARROWS & SONS」を立ち上げ、ディレクションを手がけている。2018年に独立し、昨年リニューアルオープンした渋谷PARCO内の「2G」のファッションディレクターを務めるなど、新たな動きにも注目が集まっている。

Photo_ Shiga Shunsuke
Text_ Maruro Yamashita

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