TALKING ABOUT ARCHIVES Vol.18

小木”POGGY”基史が読み解く、アーカイブとファッションの関係 vol.02 feat. 権守健一(BOW WOW)(後編)

 モードからストリートまで、現在のファッションとは切り離せない存在である”アーカイブ”。”アーカイブ”という存在がブランドのクリエイションにどのような影響を与えているのか、小木”POGGY”基史氏が対談形式で読み解く新企画。第二回目のゲストは、長年古着業界で働いた後に自身のブランドであるBOW WOWを立ち上げた権守健一氏。BOW WOWのフラッグストアであるC30にて行われた対談の模様をお届け致します。

C30

権守「藤原ヒロシさんたちの凄さの一つとして、インポートのアイテムの店や雑誌での推し方の異常な格好良さっていうのもあると思うんですよ。分かりやすいところだと、John Smedleyをサラッと混ぜてたりとか。そういうところで、一番上手く消化されて日本に伝わったのがSTUSSYだったんじゃないかなって思うんですよね。その中でもあんまり目に出来ないものを持ってこようと思って、ズールー マスクのデザインのスタジャンを」

--- このタグも初めて見たんですけど、どれくらいの年代のものなんですか?

権守「これは90年ぴったりで、80年後半とそのあたりのアイテムだけ、このタグが使われていて」

--- 当時のSTUSSYってどういう見え方だったんですか?

権守「自分は90年代中頃から注目し始めたので、この当時のものは後追いになってしまうんですけど。白タグくらいからがリアルタイムだったと思うんですけど、Boonとかそういう媒体でも押されまくっていて、今よりも全然値段が高くて、なかなか買えないアイテムっていう印象でしたね」

POGGY「Diorがあったことでまた注目されそうですよね。昔のSTUSSYは」

C30

--- STUSSYというブランドがずっと持っている魅力のようなものってなんだと思いますか? 一貫するものがあると思いますか?

権守「自分は、STUSSYを立ち上げたShawn Stussy自体が、Futuraとかと同じような存在に見えているんですよ。ずっと。あの文字のフォント。今はファッションに置いちゃっているだけで、Diorでの取り入れられ方とかを考えても、アートの文脈で語られるようになったら面白いんじゃないかと思っていて。それありきで、洋服が格好良いんじゃないかなって思うんですよね。サイズバランスとかも変で、絶妙な形なんですよね。でも、サングラス見たことあります? 80’sとかの。Shawnが本当に作っていたやつ。90年代に“Michael”とか“Naomi”とか、大ヒットしたモデルリリースされましたけど、掘っていくとその前があって、何個か持ってるんですけど、クオリティーが凄いんですよ。自分もサングラスの生産を請け負っていたことがあるので分かるんですけど、ここまでどうやるんだ? みたいな。生産国もバラバラなんですけど。良いものを作ることを求めて、ずっと旅してるみたいな。生み出すために凄く動いているんだなって」

--- POGGYさんにとっての、Shawn Stussy及びSTUSSYの魅力を教えて頂けますか?

POGGY「STUSSYもさっきのMalcom McLarernと近くて、Shawn Stussy自体が、当時Comme des Garconsをミックスして着ていたりとか、ただのサーフブランドじゃなくて、そこに品の良さとかがあるんですよね。STUSSYの昔の広告とかを見ても、スーツを着ている広告があったりとか、どこかにトラッド感がちゃんとあるところが好きです。あとは、お店をCHAPTって呼ぶところとか、東京だったらヒロシさん、イタリアだったらSLAM JAM、ロンドンだったらGIMMIE FIVEみたいに、世界中にクルーを作って、世界中に波を起こしていた感じが凄いですよね。今でも皆現役で活躍されていますし。GIMMIE FIVEからはKIM JONESが出てきたりとか、ちゃんと時代を受け継いでいる感じも素晴らしいですよね」

--- 権守さんがコレクトしているSTUSSYはどのあたりの年代のものなんですか?

権守「欲しいのは、80年代初期のブランドのスタートの頃のものだったり、80年代のものはなるべく何でも欲しいくらいですね(笑)。でも、90年代後半でも名作とかいっぱいあるし、今のアイテムも格好良いと思っていますよ」

C30

POGGY「これ、欲しいんですよ〜」

権守「NIGOさんや藤原ヒロシさんも当時紹介したりしていたんですけど、91年にNYで発売されたCarharttとのコラボアイテムです。Shawnフォントの刺繍が入ったアイテムって、今となってはいっぱいあるんですけど、これがそれの最初のものなんです」

POGGY「この後にTommy Boyとのコラボだったんですか?」

権守「そうですね、この後です。あれも、Tommy BoyのロゴもHazeが描いてるじゃないですか。その上にShawn Stussyが文字を描いてる訳だから、その合作っていうのも、凄いアイテムなんですよね」

--- ここに刺繍されているのはNEW YORK、LOS ANGELS、TOKYOの3つの地域ですけど、これは当時その3箇所にしかお店が無かったっていうことですか?

権守「らしいですね。Chaptのある場所ですね。この刺繍シリーズで、この後に既製品のシャツに刺繍を施したシリーズのアイテムがあって。Special Editionて入ってるんですけど」

C30
C30

--- 初めて見ました! これは当時普通に販売されていたんですか?

権守「らしいですね。でも、何があるのかハッキリしてなくて。色々なアイテムがあるらしいんですが」

POGGY「この辺りは手放すつもりはないんですか?(笑)」

権守「え(笑)」

POGGY「日本のワークウェアにも刺繍してたような記憶が。昔のSTUSSYって。その頃に影響を受けて自分も、2Gで寅壱のワークパンツに刺繍を入れたパンツを作ったんですよね」

権守「成る程ですね。そうなるんですね! 自分もそのパンツこの前買わせてもらったんですけど、なんかそういう感じが。藤原ヒロシさんたちの周りでもありましたよね、ただの古着に何かカスタムするみたいな。自分もそういうのはちょっとやってました、自分のブランドで(笑)。STUSSYはお店でも色々Oldを押すようにしていて。今年はもっと凄いことになるんじゃないかなって」

C30

権守「今日持ってきた古着は、お店のことと、自分のやってるブランドのことに紐付けていけたらなっていうアイテムなんです。この春夏から、MUROさんと一緒にRECOGNIZEというブランドをスタートさせるんですけど、このジャケットもそこに関連付けられるなって思って。この、MUROさんが昔やっていたSAVAGEというお店と、HAZE、Carharttのトリプルネームのジャケットは、さっきのSTUSSYとTommy Boy、CarharttのジャケットのデザインをしているHAZEありきで作っていると思うんです。SAVAGEのロゴもHAZEのデザインで、フロントにもHAZEのロゴが刺繍されていて、HAZEの直筆サインも入っています。MUROさんがミックステープを作り始めてから20周年の時にリリースしたジャケットです。サインはHUFが主催でHAZEのエキシビジョンをやったときにサインを貰いました」

C30

--- 現在、権守さんがBOW WOWの洋服を作る上での原動力みたいになっているのが、こういう当時のアーカイブだったりするんでしょうね。

権守「本当にそうですね。自分はデザイナーって全員そうだと思っているんですけど、違う人もいるかもですけど、例えばKarl Lagerfeldでも、Hedi Slimaneでも、海外で色々話を聞いたりしていると、皆同じお店の同じものを目がけて買いにいったり、古着を追い求めているような気がするんです。自分の会社名も、DITC(注:Diggin In The Cratesの略称)っていうんですけど…」

--- それは凄いですね(笑)。

権守「その名前を決めたのはMUROさんと出会う前なんですけど、MUROさんのことが好き過ぎて(笑)。Diggin In The Cratesってのはレコード箱を掘るっていう意味ですが、掘るっていうことを洋服には勿論、何に対してもやっていきたいっていう会社にしたかったんです。なので、古着はやっぱり洋服を作る原動力になっていますね」

--- POGGYさんから見て、本日権守さんが紹介して下さったようなアーカイブアイテムたちはどのような形でBOW WOWのアイテムに落とし込まれていると思いますか?

POGGY 「さっきもおっしゃっていた、モロなサンプリングも勿論ありますし、それとは全く違うようなアイテムも勿論展開されていますし。でも、背景に見えるカルチャーみたいなもののバランス感が面白いですよね」

C30

POGGY「それにしても、HAZE格好良いですよね〜」

権守「本当にそうなんですよ。もっともっと日本でも盛り上がって欲しいなと思っていて」

POGGY「HAZEに一番最初に会ったのが、2000年代の初めの方にSHIPSがやっていたコンセプトショップDIGSで個展をやっていたタイミングなんですよね。当時、マルジェラの身頃がレザーで袖がニットの茶色いニットを着ていて、それにHAZEにサインをして貰ったんですよ。けど、お金が無かったときに売っちゃって… 今になってみて滅茶苦茶後悔してるんですけど(笑)。高校生の時も、バットマンロゴにHAZEって入っているTシャツを持っていましたし。PUBLIC ENEMYのロゴも、HAZEがベースを作って、最終的なところをCHUCK Dがまとめたみたいなんですよね。その後も、Brooklynでお会いしたり、先日16でのショーでもお会いしたり。OGの人たちはやっぱり今でも凄いですよね。いやーあのマルジェラのニットがどこかで出てきたら、是非僕に連絡をして欲しいです(笑)」

一同(笑)

権守「MUROさんとスタートさせるRECOGINZEのロゴもEric Hazeに描いて貰っていて、それも今日紹介させて貰ったアイテムと関連付けれるところなんですよね」

権守健一氏

--- 権守さんの中で、手元にずっと残していく古着と、手放すことになる古着の差っていうのはどこにあるんだと思いますか?

権守「新品も古着でも、自分は愛嬌が一番大事だと思っていて。それもあるかもしれないですね。残っているものは、自分にとって愛嬌のあるものだと思います」

--- 最後に、これまで長年古着にまつわる状況を見てこられた権守さんにとって、現在の古着、アーカイブを巡る状況をどのように捉えているのでしょうか?

権守「自分は古着もファッションとして見ているんですが、古着って意外と新品よりも流行に左右されまくると思うんですよ。流行りが滅茶苦茶あって。ヴィンテージを凄い集めていた時期もあるんですけど、やっぱり少し感覚が違うなって思って。常に刺激を追い求めているっていう感じなんですよね。ドーンとくるものを探していて。そうなって来ると、裏側に何かが見えるようなものが面白いんですよね、やっぱり。90年代って、そういうものばかりだった気がして。この先は、90年代のあの感じが残るのかなって思いますね。次はどうなるんですかね?」

POGGY「Virgil Ablohが言ってましたよね、「ストリートウェアに未来は無い。これからはアーカイブの時代だ」みたいなことを」

権守「小木さんは今どこを見ているんですか? 色んなところ見てますよね(笑)」

POGGY「売り手の新品と古着の境目みたいなものが、どんどん無くなっていくんじゃないかなと思うんですよね。権守さんのいう90年代〜00年代初頭のカルチャーの込もったアーカイブシーンは海外でも盛り上がってきていますし、サステナブルの側面からもアーカイブはもっと見直されていくと思います。Virgilが言っていた真の意味は分かりませんが、LOUIS VUITTONのようなところが過去のアーカイブも販売するコーナーを作ったら面白いですよね。オフィシャルリメイクとかもあったら衝撃です。過去の村上隆さんとのコラボを探している人は今でも多いですし、偽物を買うリスクやアフターケアの心配も無くなりますからね」

権守 健一

ヴィンテージ、Hip Hopをはじめとする様々な音楽、そして裏原のカルチャーと多岐に渡るバックグラウンドを持つ、BOW WOWのディレクター。この春夏より、King Of Diggin’ことMURO氏の新ブランド RECOGNIZEをサポートしてローンチ。

小木“POGGY”基史

1976年生まれ。1997年に「UNITED ARROWS」でアルバイトを始め、プレス職を経て2006年に「Liquor,woman&tears」をオープン。2010年には「UNITED ARROWS & SONS」を立ち上げ、ディレクションを手がけている。2018年に独立し、昨年リニューアルオープンした渋谷PARCO内の「2G」のファッションディレクターを務めるなど、新たな動きにも注目が集まっている。

Photo_ Shiga Shunsuke
Text_ Maruro Yamashita

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