TALKING ABOUT ARCHIVES Vol.02

The Apartment 大橋高歩氏が掘りおこすアーカイブ (Part 1)

国内外におけるヴィンテージのTHE NORTH FACEの盛り上がりは勿論、様々なブランドのヴィンテージギアとその復刻に対して大きな影響力を持つショップである、東京・吉祥寺の『The Apartment』。海外から来日するファッション関係者が必ず訪れるお店の一つであり、世界的に見てもアーカイブというシーンを語る上では決して欠かせない同店のオーナーである大橋高歩さんは、今どのようなブランド、ジャンルのアーカイブに注目をしているのだろうか。第一回目となる今回は、日本が世界に誇るアウトドアブランド、mont-bellを紹介して頂きます。

- Discovering the new archives "mont-bell"

The Apartment 大橋高歩氏
The Apartment 大橋高歩氏

---大橋さんがmont-bellのアーカイブアイテムに注目した切っ掛けはなんだったんですか?

「自分は買い付けの時とかに着心地の良い洋服を求めるんですけど、mont-bellはそれこそインナーダウンだったりとかを着ていたり、mont-bellのキャップが好きで毎シーズン何かしらのキャップは買ったりしていたんです。それに、アメリカで色んなやつに会ったりしていると、意外とmont-bellを着ている人って多いなっていうことに気付いたんですよね。勿論それは海外でも感度の高い人たちで、海外からの評価が凄く高いなっていうのを感じるようになって。見え方が日本と海外で違うと思うんですよね。日本ではもっとファミリー向けなニュアンスも大きいと思うんですけど、海外だと本当にプロダクトとしての評価が付いているんですよ。

そうなってきたときに、古いmont-bellってどんなものがあるのかなって探っていったら、アイテムのディテールとかが、突然変異っていうのか、ちょっと想像出来ないようなディテールのものが出て来たり、凄い特殊なところに特化したアイテムとかが出てきたりしてきて。今でもハンテンみたいなダウンだったりとか、ちょっと変なアイテムがありますよね。ああいうのとかも、例えば10年後とか20年後とかに、面白くなって来そうじゃないですか。そういう目線で古いものを見たときに、面白いものが結構あって。まだ見つかっていない感じっていうんですかね。見つかっていない面白いものっていうのが色々ありそうだったので、そこら辺を掘り起こしてみたいなと思ったのが切っ掛けですね」

---それこそ、THE NORTH FACEPatagoniaのようなブランドと比べても、遜色の無い面白さがあったんですね。

「そうですね」

---海外でmont-bellを着ている人っていうのは、流石に現行品を着ているんですよね?

「現行ですね。ヴィンテージのmont-bellを着ている人には会ったことがないですね。現行のものを求めて、日本に来たときにmont-bell storeに行く海外の人多いですね。古いmont-bellっていうのは、まだ彼らの目に入ってないだけだと思うので、今後見つかってくると、どんどん面白がられてくるかもなっていう可能性を感じます」

---いわゆる、日本のアーカイブ市場的にもそうですよね。

「そうですよね。本当に。これまでにうちのお店でも、細かくヴィンテージみたいなのをちょこちょこっとは扱ったことがあるんですけど、先日初めて、ある程度の形でまとめてmont-bellを打ち出してみました」

---やはりある程度のボリュームで打ち出すことで、お客さんへの伝わり方も変わって来ますか?

「そうですね。単発だと、そこにある意図をあまり読み取ってもらえないっていうことがあって。最近だったら、00年くらいのARC'TERYXとか、古いmont-bellをお店で打ち出すときに、それが単品でポッて出ると、お客さんには何かが混じってるくらいの感じで、ノイズみたいになっちゃうのが、ある程度まとまって見せることによって、何かここに対して意図があるんだろうなって読み取ってくれるんで、その為にある程度量を揃えるっていうのはありますね。打ち出したいアイテムに関しては、凄い意識をしています」

The Apartment mont-bellアーカイブ
The Apartmentが打ち出す、mont-bellのアーカイブ
The Apartment mont-bellアーカイブ
The Apartmentが打ち出す、mont-bellのアーカイブ

---mont-bellはどの辺りの年代のものを掘ってるんですか?

「基本的には、80年代の終わりから90年代が多いんですけど、すっごいぐっと面白くなるのって、最近だったりもするんですよ」

The Apartment mont-bellアーカイブ
mont-bellの”Bug Proof Anorak”

「これとか最近のアイテムだと思うんですよ。”Bug Proof Anorak”っていうアイテム名なんで、虫除けのアノラックなんですけど、これなんて本当にモードのブランドとかがランウェイのアイテムとして出していてもおかしくないようなデザイン性だと思うんですよね。mont-bellに関してはまだ勉強中ですね(笑)。頭の中でまだmont-bellが系統立てれてないんですよ。突然変異で変なアイテムが出て来たりとかし過ぎていて。いまいち読めないので、研究中なんですよね。古いのも新しいのも面白いものが多くて(笑)」

The Apartment mont-bellアーカイブ
The Apartment mont-bellアーカイブ
mont-bell裾にジャケットが収納されたジャケット

「他のブランドでも、裾に座布団では無いですけど、拡げてその上に座れる生地が収納されたジャケットとかもあるんですよ。最初はこれも同じことだと思ったんですよ。けつが濡れないようになってると思ったんですけど、広げたらジャケットが出て来て(笑)。やはり実用性はあまり無かったのか、このディテールを他のアイテムで見たことはないんですけどね(笑)」

---mont-bellは掘るのがとても難しそうですよね。

「日本のボロ屋とかを掘ったりすると、たまーに出てくるんですよね。ちゃんとした古着屋だとあまり無いんですけど(笑)。本当にゴミの山みたいなところから、たまーに出てくるって程度なんですよ。遠出したら国道沿いを覗いてみて、家具とかなんでもまとめて置いてあるようなお店ですね」

---アウトドアブランドだけど、ファミリー向けの要素もあるし、間口が広いから珍品も生まれやすいんでしょうね。

「あとは、値段とクオリティーのバランスが、mont-bellは突出しておかしいっていうか。GORE-TEX使っててこの作りでこの値段はあり得ない、みたいなことが平気であるんで。だから現行品も凄い面白いですよ。外人が来て、今日はどこ行くの? って聞くと、mont-bellって皆言いますし、本当に凄いブランドですね」

The Apartment mont-bellアーカイブ
The Apartment mont-bellアーカイブ
The Apartment大橋高歩氏 / mont-bellのアーカイブ

---今の時代にはアーカイブを意識する流行が確実に存在するじゃないですか。InstagramでもSupremeのアイテムの元ネタをポストするアカウントが人気だったり。そういう流れっていうのはまだ続くと思いますか?

「そうですね。自分はファッションていうのはよく分からなくて。いわゆるデザイナー的だったりアーティスト的な0から1を作り出すっていう感性が自分の中には全く無くて。元々Hip Hopが凄い好きだったっていうのが大きいと思うんですけど、レアグルーブみたいな概念が凄い好きなんです。人がまだ価値を見出していないものに魅力を感じるんです。アーカイブを集め始めるときも、皆の中での価値観が逆転するところ、逆に面白い、みたいなタイミングになりそうだなっていう辺りで集め始めます。なので、mont-bellは3年前だったら余り面白くなかったっていうか。なので、集めといて、面白くなるまで待ってるブランドとかもあったりして(笑)。価値観とか流れ的に、いまはこの辺が面白いかなって感じですね。

“dig”っていう言葉も、今またちょっと捉えられ方が変ってきてるなって思うんです。価値のあるものをスリフトとかで安く買うみたいな感じのことを“dig”っていう風に若い人たちは使ってることが多いと思うんですけど、自分の中では全然違って。皆がまだ無価値と感じているものを掘り出して、そこに違う価値を付加していくっていうのがディガーだなと思います。そういうのって、それこそSupremeとかRalph Laurenとかのモノの作り方がそうじゃないですか。だから、そういうブランドで育った僕みたいな世代は、ゼロから生み出されたものよりも、気付いたら好きなモノの全てに元ネタがあった世代なんで、その世代以降の人たちにはアーカイブを意識するのがずっと続いていくと思いますね。勿論、もっとアーティスティックにゼロから何かを生み出す人ってのも絶対いなくならないだろうし。今はアーカイブの方に寄り過ぎてるくらいなので、もっと0から1を作り出す人が出てきたら面白いなって思いますね」

大橋 高歩

NYのカルチャーと密接にリンクするファッション、ライフスタイルを提案する吉祥寺のセレクトショップ、the Apartmentとthe Apartment SOHOのオーナー。

http://www.the-apartment.net

Photography_ Haruki Matsui
Text_ Maruro Yamashita

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