TALKING ABOUT ARCHIVES Vol.05

The Apartment 大橋高歩氏が掘りおこすアーカイブ (Part 2)

国内外におけるヴィンテージのTHE NORTH FACEの盛り上がりは勿論、様々なブランドのヴィンテージギアとその復刻に対して大きな影響力を持つショップである、東京・吉祥寺の『The Apartment』。海外から来日するファッション関係者が必ず訪れるお店の一つであり、世界的に見てもアーカイブというシーンを語る上では決して欠かせない同店のオーナーである大橋高歩さんは、今どのようなブランド、ジャンルのアーカイブに注目をしているのだろうか。第二回目となる今回は、PatagoniaTHE NORTH FACEなど、アウトドアブランドがリリースしてきたキャップにフォーカスを当てたお話を伺います。

- Discovering the new archives "Outdoor Caps"

The Apartment/THE NORTH FACE & Patagonia Cap
The Apartment/THE NORTH FACE & Patagonia Cap

--- 大橋さんがTHE NORTH FACEのコレクターだというのは既に周知の事実だと思いますが、Patagoniaも同じくらい蒐集されているんですか?

「夏物は結構Patagoniaを集めていますけど、基本的にはキャップに特化していますね。後はちょいちょいベストを集めていたりとか。でもそれも今でこそって感じはありますね」

---Patagoniaのキャップに注目する切っ掛けみたいなものはあったんですか?

「自分が高校生くらいの頃って、B-BOYが5パネルのキャップを被ったり、お洒落な人たちだったらSupremeの”CAMP CAP”を被るような流れがあったんですよ。その流れのなかで、自分の頭にフィットするのがPatagoniaの”SPOONBILL CAP”だったんですよね。それで一つ買ったのを、凄い気に入ってずっと被っていて。それがPatagoniaの一番最初って感じですね。でも、正直Patagoniaというブランド自体にそこまで思い入れがあった訳じゃないんです。自分は当時からTHE NORTH FACEが好きでよく着ていました。当時の自分のイメージでいうと、THE NORTH FACEはHip Hopの世界でもハードな人とか、ちょっと不良感のある人たちが着ていたイメージで、自分はそういう雰囲気が好きだったんです。けど、THE NORTH FACEのキャップがとにかく形が悪くて(笑)。日本人と欧米人で頭の形が全然違うから、THE NORTH FACEのキャップは本当に頭に合わないんですよ。だから、キャップだけはPatagoniaを被ってたんです」

---確かに、PatagoniaTHE NORTH FACEって、当時のB-BOYのファッションにおいても分断している感じがありましたよね。Patagoniaのなかでも”SPOONBILL CAP”だけをチェックしていたんですか?

「そうですね、基本的にはPatagoniaって古着好きの人たちのなかでは柄が入っているものが人気だと思うんですけど、自分は結構単色がずっと好きで、合わせ易いアースカラーの単色のものを中心にチェックしていましたね。それと並行して高校一年生の時にNew EraのFittedを初めて被るようになって、高三くらいからはNew EraのYankeesのキャップばかり被るようになったんです。Patagoniaが少しナードなイメージというか、自分の好きなHip Hopの感じと少しズレてるなって思うようになったタイミングだったこともあり、だんだん被らなくなってっていう感じですね。だからだいぶブランクが空いてるんです」

---当時の日本のファッションシーンにおけるPatagoniaの受け入れられ方と、大橋さんの捉え方では違いがあったということですね。

「当時Patagoniaを着ている人たちはBirkenstock履いて、Manastashの短いショーツを合わせたりしているイメージで、そういうのって自分は全く通っていなかったんで。Patagoniaってそういう人たちのものっていう認識があったんで、ちょっとアンタッチャブルな感じっていうか。凄い好きなんだけど、ちょっと距離感があったんですよね。当時のHip Hopカルチャーには無いものっていうイメージでした」

---それが大橋さんのなかで解禁されたのはどういうタイミングなんですか?

「それでジャケットとかはずっとTHE NORTH FACEを着て、キャップがNew EraのYankeesだったり。赤×黒のTHE NORTH FACEを着たらNew EraのCincinnati Redsを合わせたりとか。そういうムードが自分のなかではずっと続いてて。でも、”SPOONBILL CAP”自体は好きなんで、見つけたら買っていたんですね。そんなこときにNYのヴィンテージギアコレクターの奴らと繋がりが出来てきたら、そいつらの中にも”SPOONBILL CAP”を集めてるやつがいたんですよ。あー、やっぱりこいつらにとってもこれってアリなんだ! って思って。NYのコレクターがPatagoniaをチェックしてるっていう発想がそもそもなかったんですけど、彼らから古い写真を見せてもらったら、Poloのベアの服に”SPOONBILL CAP”を合わせたりしていて、「高校の頃こんな感じだったよ」って言われたりして。”SPOONBILL CAP”は本当にクオリティーが高いし、あれはヤバいよっていう評価をされていたんですよ。自分はNYのカルチャーに影響を受けているから、僕にとっては向こうのカルチャーが正解なんです。それで、自分の中でもアリになったんですよね。本当にここ数年のことですね」

The Apartment Patagonia SPOONBILL CAP
Patagonia ”SPOONBILL CAP”

---これはいつ頃のモデルなんですか?

「(カタログを見て)97年のものですね」

---やはりアウトドアブランドの歴史を振り返るにはシーズンごとのカタログを参照するのが一番だって言いますよね。

「そうですね。自分の頭の中に、ざっくりと自分が見て来た地図ってあるじゃないですか。でもあれって、意外と前後してたり曖昧なんですよ。で、僕自身は昔のことを振り返るときって、自分が撮ってた昔の写ルンですの写真とかを見て、その写真に記載されてる何年何月っていうところで、97年にこれを被ってる! みたいな記憶の照合をしてたんですけど(笑)、そんなに写真もないので、あとは思い込みだったりとかしていた部分もあって。こういうカタログを向こうのコレクターから譲ってもらったりするようになってから、段々と自分の中で地図が整理されて来ましたね」

---今日拝見させて頂いたもの以外にも、沢山のアウトドアブランドのキャップをお持ちでしたが、やはり常にチェックされているんですか?

「アウトドアブランドのキャップって、ガンガン使用することに耐えれるんですよね。New Eraのキャップとかって洗えないじゃないですか。でも、アウトドアブランドのキャップって洗えるのが多いですし、素材も良いし、普通にクラブとかに被って行って汗かいても気にならないしっていう感じで、ずっと好きで。あとはNew Eraは決まった形があるじゃないですか。でもアウトドアのキャップって、本当に年代によっていろいろなディテールが出てきて、そういうのが面白かったりするんで。実際に自分で被れないものでも凄い面白く感じるんですよ。作りが面白いから買ったりとか。その中でも、”SPOONBILL CAP”は全ての部分で別格で。作りの上でも本当に凄い完成されたキャップですね」

---それは現行のものでもですか?

「今のものには今のものなりの良い部分があるんですけど、自分的には90年代後期くらいのが一番完成されてますね。00年くらいも凄いです。”SPOONBILL CAP”には内側の汗止めの部分に伸縮性がある時期と無い時期があるんですよ。それでも全然違って来ますし。自分たちでも帽子を作りたいっていうときに、”SPOONBILL CAP”を凄い研究したんですけど、この帽子って本当に凄い部分が滅茶苦茶いっぱいあることが改めて分かったんです。
帽子って伸縮性があり過ぎても、頭をギュっとおさえられないからダメなんですけど、ある程度伸縮性が無いと頭にキツ過ぎちゃうじゃないですか。”SPOONBILL CAP”は人間が帽子を被る時にテンションがかかる場所に伸縮性をもたせているんで、凄い被り心地が良くて。汗止めにも伸縮性をもたせているので、全体的に頭に一番テンションがかかる部分が伸び縮みして、ほかの部分は伸び縮みしないようにしてるんです。割とイージーな作り方で帽子の被り心地だけ考えると、シェルの部分にウレタンをちょっとだけ混ぜちゃうんですよ。そうするとギュンギュンに伸びるじゃないですか。そうすれば被り心地が良くなるって思いがちなんですけど、汗をかくとウレタンが劣化しちゃって切れちゃうから、寿命が2〜3年になっちゃうんですよ。だけど、Patagoniaはメインの部分には絶対にウレタンを混ぜないんで。伸縮性のバランスも絶妙だし」

---なるほど。この”SPOONBILL CAP”はMade in USAですが、大橋さんは生産地へのこだわりはありますか?

「基本的には90年代のMade in USAにこだわるんですけど、生産国が違っても、この時期のこれが凄い良いとか、そういうのもあるので、いわゆるMade in USA信仰みたいなものはそんなに無いですね。でも、やっぱり90年代のMade in USAはやっぱり良いなって思います。単純にモノが良いんですよ。お金をかけて作られているんですよね。素材から違うと思います」

The Apartment THE NORTH FACE -GORE-TEX CAP
THE NORTH FACE -GORE-TEX CAP
The Apartment THE NORTH FACE -GORE-TEX CAP
THE NORTH FACE -GORE-TEX CAP

---このTHE NORTH FACEのキャップはどのようなところがポイントなのでしょうか?

「アメリカ人のヴィンテージギアコレクターって、GORE-TEXが滅茶苦茶好きなんですよ。GORE-TEXの機能がどうこうっていうよりも、GORE-TEXはスペシャルなものっていう捉え方で。で、GORE-TEXっていうロゴが入っているキャップっていうのがあまり無いんですよ。これはGORE-TEXっていうロゴが入っていて、なおかつTHE NORTH FACEで珍しく被れる形っていうことで、評価の高いキャップなんですよ。リイシューしたいってTHE NORTH FACEも思っていると思うんですけど、ツバの部分がコストが高くなっちゃうんだと思うんですよね。だからなかなかやれないんだと思います。ソフトビルなんで、それ結構大事なことなんですけど、こういうアウトドアのキャップって柔らかいソフトビルが多いじゃないですか。これが硬いやつだと、最終的にツバにダメージが出て来ちゃったり、折れちゃったりするんですけど、あれはソフトビルなんで、凄い状態も良いままだし、古いものでも被れるんですよね」

The Apartment 90's THE NORTH FACE CAP
90's THE NORTH FACE CAP

「これは日本で出ていたモデルなんですけど、この柄のテイストとか、配色とかも凄い今の気分なんですよね。これも珍しくとても形が良いキャップで、THE NORTH FACEのなかでも数少ない名作キャップなんです。さっきのがUSのTHE NORTH FACEの名作で、これが日本のTHE NORTH FACEの名作っていう感じで。90年代の物なんですが、凄い良いシリーズです。某セレクトショップもこれを元ネタに別注を作っていましたね」

The Apartment Mountain Smith CAP
Mountain Smith CAP
The Apartment Mountain Smith CAP
Mountain Smith CAP

---Mountain Smithといったらカバンのイメージですが、キャップもリリースしていたんですね。

「Mountain Smithって元々バッグしか作っていないじゃないですか。で、多分、帽子の生産を同じ地域の友達の会社とか、知り合いの会社に、帽子を作ってよみたいな感じで作ってるんですよね。後ろのストラップに自分たちのブランドカラーのイエローを使って、みたいな安易な作り方だと思うんですけど、Better™️のAvi Goldを含め海外のヴィンテージギアコレクターから滅茶苦茶連絡が来たアイテムなんです」

The Apartment Patagonia VENTED BROADBILL HAT
Patagonia ”VENTED BROADBILL HAT”
The Apartment Patagonia VENTED BROADBILL HAT
Patagonia ”VENTED BROADBILL HAT”

---これも”SPOONBILL CAP”と同じくPatagoniaのアイテムですね。

「これは”VENTED BROADBILL HAT”っていうモデルで、同じく97年リリースです。当時って謎な帽子を被ってる感じのB-BOY感があったんですよ(笑)。リアルタイムに買って、被ってたんですよね。でも、やはり謎過ぎてすぐに被らなくなっちゃって(笑)、夏のキャンプのときとかに被ってたんですよね。今だったらちょうどトレンドっぽさもあるし、被れそうだなって思っています。これも”SPOONBILL CAP”と同じく、本当によく出来てる一品ですね。このタイプのキャップって、後ろをどうするかって難しい問題で。ただ垂らしてるだけだと、日本軍みたいな感じだし。結構多いパターンだとロールさせたりなんですけど、Patagoniaってこういうところも本当に凄くて。なんとなく被って、ちょっと上げるだけでも成り立っちゃうんですよね。後ろのバイザーがおりてこなくて。微妙な角度と生地の厚みだと思うんですけど、ガチガチで硬くもないけど、柔らか過ぎもせず、凄い絶妙なバランスで、本当に凄い作りなんですよ」

---最後になりますが、大橋さんにとっては、クオリティーの圧倒的な高さという側面から集めていたPatagoniaの”SPOONBILL CAP”が、蓋を開けてみたらNYのヴィンテージギアコレクターにも愛されていたアイテムだったというのは、やはりとても面白いですよね。

「カルチャーの裏打ちどうこうっていうのとは別に、本当にクオリティの高いプロダクトは、そういうディテールとかを凄い気にする人たちにとっては、国境を関係なく評価されるということを実感します。PatagoniaのSpoonbillに関しては、本当にそういう感じです。Aviも初めてうちに来たときにこのキャップを見て、「これがベストキャップだよね」って言ってて、やはりそう思うんだ〜って。そういう連中は皆このキャップを評価しているんですよね。やはりチェックしているんだな、皆似てるな〜って思います。で、結局向こうもそういうところで、お前分かってるなって評価してくれるんだと思います。単に、NYのカルチャーに詳しいというだけじゃなくて、お前は分かってるな本物を、みたいな感じで。そうやって共感して繋がっていくんですよね」

大橋 高歩

NYのカルチャーと密接にリンクするファッション、ライフスタイルを提案する吉祥寺のセレクトショップ、the Apartmentとthe Apartment SOHOのオーナー。

http://www.the-apartment.net

Photography_ Haruki Matsui
Text_ Maruro Yamashita

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