TALKING ABOUT ARCHIVES Vol.09

The Apartment 大橋高歩氏が掘りおこすアーカイブ (Part 3)

国内外におけるヴィンテージのTHE NORTH FACEの盛り上がりは勿論、様々なブランドのヴィンテージギアとその復刻に対して大きな影響力を持つショップである、東京・吉祥寺の『The Apartment』。海外から来日するファッション関係者が必ず訪れるお店の一つであり、世界的に見てもアーカイブというシーンを語る上では決して欠かせない同店のオーナーである大橋高歩さんは、今どのようなブランド、ジャンルのアーカイブに注目をしているのだろうか。第三回目となる今回は、アメリカの様々なブランドがリリースする、テディーベアにフォーカスを当てたお話を伺います。

- Discovering the new archives Teddy Bear

Archives Teddy Bear
Archives Teddy Bear

--- こんなに色々なブランドからテディーベアがリリースされているんですね。

「そうなんですよね。元々、Poloのテディーベアはたまに買っていて、お店を始める段階で4匹くらいいたんですよ。ヴィンテージのPoloも扱っていたんで、ディスプレイみたいな感じで飾っていて。そのあと、葛西のインポートメインの洋服屋さんにたまたま入ったら試着室にNauticaのパンダのぬいぐるみがあるのを見つけたんですよ。これなんだ!? って思って、店員のおじさんに聞いたら、販促品みたいな感じのものだって教えてもらって、売って欲しいって頼んだけど気に入ってるから売れないって断られて、それがずーっと気になっていて。他にも、もう潰れちゃったんですけど、吉祥寺のカフェに開店祝いにTHE NORTH FACEの店員さんから貰ったっていうTHE NORTH FACEのテディーベアいて。THE NORTH FACEは凄い好きで、色々見ていたのにそのクマのことは知らなかったんですよ。その辺から、いろいろなブランドでもテディーベアってあるんだなって思い出して。店で取り扱っているブランドのテディーベアを探してみたら、取り敢えず一通り全部あるってことが分かって」

--- へー!

「あまり詳しくないんで予測なんですけど、アメリカのホリデーシーズンにテディーベアをプレゼントする習慣があるので、そういう文化が背景にあるからアメリカのブランドは一通りテディーベアがあるんですかね。それで、見つけたら買うようになって、それ以外にも譲って貰ったりして、だんだん増えて来た感じですね」

-- なるほど。それこそ、ブランドのカタログとかに掲載されているようなアイテムでは無いんでしょうか?

「そうですね。カタログには載って無いですね。ホリデーのギフト商品だったり、販促品だったりだと思うので、把握するのは難しいけど、見てると楽しくて。Ralph Laurenだったら、steiffが作っているポロベアがずっとリリースされているので、しっかり系統立てて把握している人もいそうですし、もしかしたら、カタログとかもあるかもしれませんね。あと、L.L. Beanのベアに関してはコレクターの人がいると聞くので、その辺りも系統立っているでしょうね。でも、Ralph Laurenのsteiffのテディーベアは、洋服から何からRalph Laurenの実際の洋服と同じ生地を使って作り込んである、凄いクオリティーのものだったりするんですけど、意外とTOMMY HILFIGERとかはチープだったりして。だから、ちゃんと作っているところもあれば、本当に配る程度のお土産っぽいものもあったり、色々あるんですよ」

Archives Teddy Bear
Archives Teddy Bear

--- THE NORTH FACEのヌプシを着てるテディーベアなんかは、ファンの中では人気の一品なんでしょうか?

THE NORTH FACEのベアに関しては、向こうの連中も存在をあまり知らないと思うんですよ。このヌプシのやつも日本のやつなんですよ。僕も何個か持ってるんですけど、向こうのコアなコレクターでも持ってなかったりして探して欲しいって言われて。探すと、たまに持ってる人とかいるんですけど、THE NORTH FACEは少ないですかね。その反面、Poloのは入手し易いですね。数もたくさんあると思いますし」

--- Ralph Laurenが一緒にテディーベアを製作しているsteiffっていうのはどういうブランドなんですか?

「僕が持ってるRalph Laurenのテディーベアは、ホリデーの時に香水とかを買うとオマケで付いてくるやつなんですけど、steiffのやつは向こうで定価が380ドルとかして、しっかりとした箱の中に入っていて、洋服も全身RRLとか、全身Polo SportsとかRLXを着ていたり、作りが凄いしっかりしているんですよ。Tiffanyもsteiffとテディーベアを作っていますね。テディーベアの権威みたいなブランドですかね。ガラスのコップでいうBaccaratみたいな。そういう認識です。あまり深掘りしてないんですけど(笑)。このSupremeのテディーベアもsteiffとのものですね」

Supreme Bear made by steiff
Supreme Bear made by steiff

--- Poloのヴィンテージディガーの人たちで、こういうテディーベアも集めてる人はいるものなんですか?

「どうなんですかね… 集めてるかもしれないですけど、誰かにテディーベアが並んでいるのをバーっと見せてもらったりしたことはないですね。そんなに高いものでもないですし、発見しやすいんで、好きな人は見つけたら買うみたいなノリだと思うんですけど、たまに何コレ? っていうようなのがあったりするんですよ。身長が120cmくらいあるポロベアーのぬいぐるみとか。ポロベアーの着ぐるみとかもありますね。それは多分、クィーンズで開催される、テニスのUSオープンの時にPoloのスペシャルショップとかが出るんで、そういう時とかに使われてるんだと思いますけど、そういうよく分からないものもありつつですね」

--- 元々、大橋さんがPoloのテディーベアを購入していた切っ掛けというか、ベアーグッズに注目した切っ掛けはなんだったんですか?

「大元を辿ると、Kanye Westが出てきたことなんですかね。彼がデビューしたことが自分の中ではとても大きくて。本当に衝撃的っていうか、改めてあのタイミングでHip Hopって凄い面白いなーって思うようになったんですよね。Kanyeが当時Poloを着て、バックパックを背負ってっていう、懐かしい感じのスタイルだったんですけど、そのバックパックはLOUIS VUITTONだったりして、何これ!? みたいな感じでかなり衝撃的で。そのタイミングで、Poloのベア柄のニットを買ったんですよね。Poloのラガーシャツとかも、そのちょっと前くらいまでは少しダサいというか、あまり気分じゃないというか…」

--- 勿論、B-BOYファッションの一つとして常にあるものでしたけど、落ち着いていた時期なのは確かですよね。

「そうですね。自分もそれまでRawkusとかの方が好きだったのが、反動みたいな感じで一気にバーンて弾けて、Ruff RydersからJay-Zみたいな大箱っぽいノリが好きになって、スローバックのジャージとかをその頃は着てましたね。けどちょっと飽き始めていた時期でもあって。50 Centとかもとにかく好きだったんですけど、とにかくダサいなっていうか、冷静に考えてみてもダサいっていうのが分かり始めていた時期だったんで、そのタイミングでのKanyeの登場は凄い衝撃で。あそこで改めて、Poloってこういう感じだと面白いなって思って」

--- しかも、あの感じが当時のメジャーど真ん中からバーンて出たのが衝撃的でしたよね。

「そうですね。Jay-Zとかのリンクの中からでしたもんね。そういうことで、やっぱりHip Hopって価値観を更新していく感じが面白いんだなって、強く思わされたんです。それで、Poloのベアーのセーターとか、ボーダーのラガーシャツとかを買って着るようになって。90年代からそうなんですけど、ラッパーがこれ着るんだ! みたいな面白さが大好きで。高校生のとき、昼飯前に生協に寄ったら、Woofin’ていう雑誌の第一号が売ってて、表紙がMethod Manだったんですけど、Mizunoのリストバンドを付けていて。Method ManのイニシャルのMに合わせただけっていう、シンプルな理由だと思うんですけど、滅茶苦茶やられたんですよ。自分が今追っかけているHip Hopっていう文化のファッションって、滅茶苦茶面白いなって思って。そういう衝撃みたいなものを色んなタイミングで感じますし、今も例えば若い人とかを見ていると、そういう驚きを持って来る人って格好良いな〜って思いますね。凄くHip Hop的に正しいというか」

Polo Bear & Kids wear
Polo Bear & Kids wear

--- Poloのベア系の子供服に関してはどういう流れで注目しはじめたんですか?

「これは子供が生まれてからですね。Poloのベアーのニットって、無限に種類があるじゃないですか。それこそカシミアを使った超高いものもありますし、凄い有名なベアの柄もあって。そのベアのニットが、店を始めたときはそこまで高くなかったと思うんですけど、ちょっと経ったくらいの時からポロのヴィンテージのニットの値段がバーって上がって、買えなくなってきたんですよね。でも、子供用のはまだお手頃だったし、自分も子供も生まれたタイミングで。小さい子供って形とかもポロベアみたいじゃないですか(笑)、座ってる姿とか。それで、ポロベアを着せたら似合うかなって思って、向こうに買い付けに行ったときとかに、現行で出てるやつをお土産で買って着せてっていうことをしていたら、色んな種類が集まってきたんで、面白いなって思ってその延長で集めちゃったっていう感じですね」

--- コレクションの中には、Kanyeの1stアルバムの頃のマーチャンダイズのTシャツもありますね。やはりKanyeの登場は、大橋さんのファッションスタイル自体にも大きな変化を与えたんですか?

「そうですね。要は90年代とかに着ていたものを、初めてスローバックしたんですよね。例えば90年代の後半とかって、一部の人の中ではオールドスクール回帰みたいなものがあったと思うんですよ。自分はあれが凄い苦手で。懐古主義みたいな感じだし、あんなのおっさんの趣味でしょって感じで。そもそもHip Hopってバックしていくものじゃないし、前にいかないと意味がないと思っていましたし。もちろん、2000年代に入ったタイミングとかで、皆がスローバックジャージとかを着てるタイミングで、昔のムスリムワッチキャップとかを被りたいな、懐かしいなっていう気分もありつつも、そっちに戻るのってHip Hop的に正義じゃないというか、良くないなっていう感覚が自分の中で凄いあって。でも、Kanyeが出てきたときに、音もサンプリングのあの感じになってて、色々スローバックしてるんだけど、スローバックした視点を真逆に持っていって新しくするっていうのが、本当に凄いなって思って。それが切っ掛けでMissy Elliottのオールドスクール回帰っていうか、Kangolのハットを被ったりしてるのも全部理解出来るようになって。スローバックってこういうことなんだ! って」

The North Face Bear
The North Face Bear

--- この南極横断シリーズっぽいベアたちは、THE NORTH FACEからリリースされているものなんですか?

「1989年に南極横断て、6カ国合同で、犬ゾリで南極を横断するっていうプロジェクトがあって、日本人でも舟津圭三さんっていう方が参加しているんですけど、その隊長がアメリカ人のウィル・スティーガーっていう人で、その人のグッズみたいなものが一杯出てるんですよ。スウェットだったりTシャツだったり。このテディーベアは、そういうグッズの一種で、THE NORTH FACEからリリースされているものでは無いんですよね。ウィル・スティーガーのベアっていう感じですかね。日本の企画のベアを沢山集めて、向こうのやつにプレゼントすると、代りにこれが送られてきてみたいなことが何度もあって集まってきました(笑)」

Nautica Panda
Nautica Panda

--- このNauticaの人形も、大橋さんが昔葛西の洋服屋で見つけたというパンダですね。

「これは自分が最初に見つけたものと同じものですね。その葛西の店で見たときから、なんでパンダだったんだろうなってずっと頭に残っていて。ある時に、レイシズムに対抗する存在として、パンダをモチーフにしたポスターを見たんですよ。パンダってブラックもホワイトも入っていて、アジアの生き物じゃないですか。それを理解したら、凄い面白いなって思ったんですよね。パンダってクマ科じゃないですか。アメリカのブランドはベアを出すし、Nauticaも勿論アメリカのブランドなんですけど、アジア系のアメリカ人がやってるブランドなんですよ。そういうバックグラウンドがあるから、あそこはパンダをチョイスしてるんだって思って。そうやって後効きで理解して、あれ欲しいなーって思いが強くなって、色んな人にあれ欲しいんだよねって言って回っていたら、あれをたまたま見つけた人がプレゼントしてくれたんですよね」

--- 他にも大橋さん的に面白いと思うテディーベアはありますか?

「Helly Hansenのは洋服の造り込みも含めて凄いしっかりしていて面白いですね。あと、Nautica以外にもベアじゃないブランドもあるんですよ。Marmotだったらマーモット(注:齧歯目リス科マーモット属 に分類される動物の総称。主に山岳地帯に生息)だし。あと、自分は持ってないんですけど、THE NORTH FACEで、Basecamp Duffleっていう、グラフィティーライターたちが好きな、ターポリンのデカいリュックがあるじゃないですか、あれが自分は凄い好きで、あれって名前の通りベースキャンプに持っていくダッフルバッグで、エベレストに登るときに、水牛みたいなやつの両サイドに乗っけて荷物を運んだりするんですよ。それをモチーフにした、水牛のやつがあるんですよ。それを向こうのやつで持ってるやつがいて、なんでも良いからトレードしてって頼んでいるんですけど、トレードしてくれなくて。そういう、ベアだけじゃなくて、別の動物のぬいぐるみっていうのも面白いですよね。もっと深掘りしていったら凄いのとか出てくるような気がしますね。面白いやつが」

大橋 高歩

NYのカルチャーと密接にリンクするファッション、ライフスタイルを提案する吉祥寺のセレクトショップ、the Apartmentとthe Apartment SOHOのオーナー。

http://www.the-apartment.net

Photography_ Haruki Matsui
Text_ Maruro Yamashita

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