2019S/Sのモードの行方

テーラードの逆襲

 目まぐるしく変わるファッションシーン。2000年代に世の中を席巻したエディ・スリマン時代のDIOR HOMMEに代表されるロックなタイトシルエットは、2010年代入るとストリートの興隆によってビッグシルエットに打って変わった。ラグジュアリーブランドのストリート化。それは間違いなくファッション史に残る一大事件であった。これまで“モード”と“ストリート”とは相反する存在であり、互いに決して交わることはなかったのだから。ただ、1990年代のリバイバルや、カニエ・ウエストやエイサップ・ロッキーらの出現、そしてSNSの台頭による派手さ重視の価値観によって、その垣根は完全に取っ払われてしまった。ラグジュアリーブランドはこぞってストリート畑のデザイナーを起用し、キャンペーンビジュアルにラッパーを登場させ、サンプリングという手法を受け入れた。その流れは加速し、ついにモード界の重鎮であるLOUIS VUITTONまでもがSupremeとコラボレーションを果たすこととなる。LOUIS VUITTONSupremeが組むなんて、“モード”と“ストリート”が迎合するなんて、10年20年前に一体誰が想像しただろう? ただ現に、今世の中はラグジュアリーブランドのロゴアイテムにビッグシルエット、そしてスニーカーといったスタイルで溢れかえっている。

 しかし、だ。2020年代を目前に、その流れは終焉を迎えつつある。いや、むしろモードの世界では今シーズン2018A/Wで終わりを迎えたと言っていい。その理由は2019S/Sのランウェイを見れば一目瞭然だ。そこで数多くのラグジュアリーブランドが打ち出したのは、これまでのビッグシルエットやストリート要素ではなく、テーラードに身を包んだシックでエレガントな男性像だった。一番顕著だったのが、それまでビッグシルエットやロゴモノの流行の最先端にいたデムナ・ヴァザリアのBALENCIAGAだ。これまでのハイボリュームから180度転換し、“ネオ・テーラリング”をテーマに掲げ、クリストバル・バレンシアガへのリスペクトを強く感じるコレクションを発表していた。今思うと、2018A/Wで重ね着を模したこれまでにないほどのスーパービッグシルエットのアイテムを出したのも、「ビッグシルエットはこれで終わりだ」というデムナのメッセージだったに違いない。

デムナだけでなく、LOUIS VUITTONのアーティステックデザイナーに就任したヴァージルもそうだ。彼がコレクションのファーストルックに選んだのは、美しい真っ白なダブルブレステッドジャケットだった。デムナやヴァージルだけでなく、多くのデザイナーがストリートとの決別とテーラードの復興に乗り出している。

 さらにこの流れに輪をかけるかのように、エディ・スリマンもモード界にカムバックを果たし、CELINEでお得意のテーラードスタイルやタイトシルエットを打ち出した。なぜ、デザイナーたちはテーラードにシフトし始めたのだろう? 単にこのストリートのムードに飽きてしまったということももちろんあるだろうが、根本の理由は他にあると思う。それは、どんどんトレンドのサイクルが加速し、新しいものを強制的に求められ、情報が飽和したこの時代において、デザイナーたちがメンズファッションにおける確固たる価値観やその本質に向き合い始めたからに他ならない。そして彼らはテーラードにその答えを見つけたのだ。それはもしかすると、今アーカイブとして80年代のCOMME des GARÇONSGiorgio Armaniが再注目を浴びていることと似通っているのかもしれない。デザイナーも消費者も、ロゴやコラボだらけのネームバリュー的な要素より、もっと深い、本質的なものを求め始めているのだろう。いずれにせよ、次の春夏シーズンから新たなテーラードの時代が幕を開ける。もしシーンを先取りしたいなら、この秋冬から今すぐテーラードに袖を通すべきだ。

Text_ SOHEI OSHIRO


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