DRIES VAN NOTEN2019 S/S COLLECTION

デザイン界の巨匠が生んだ 色彩表現の再解釈

色彩の魔術師、ドリス・ヴァン・ノッテン。彼の色彩やテキスタイルへのこだわりは、他のデザイナーと比べても群を抜いているといえる。2018A/W シーズンでは、毒気のある独特なマーブルプリントのアイテムが登場していたが、このプリントも実はドリスが一から作り上げたもの。油性塗料を水面に垂らし、専用の道具を使って引き伸ばしたり、散らしたりして、偶然にできた模様を写し取るという“ペーパーマーブリング” という通常紙に使われる手法を用い、それをテキスタイルに落とし込んでいた。

まさに狂気ともいえるドリスの色彩への執着心。今シーズン2019S/Sのランウェイにおいては、マーブルプリントとは打って変わり、波模様のような“うねり”をビビッドなカラーで表現したアイテムを多数登場させていた。そのコレクションを見ていた誰もがその色彩の力強さと美しさに心を奪われたはずだ。

ただ、今回はドリス自身が考案したプリントではなく、とある建築家/デザイナーの作品の比率や配色を作り変えて落とし込んだものだった。自身であれほどまでに美しいプリントを作り上げることのできるドリスが、自分では作れないと感じ、コレクションにまで取り入れたいと思うほどの色彩感覚の持ち主とは一体全体誰なのだろうか? そのデザイナーの名は、ヴェルナー・パントン。1926年にデンマークで生まれ、王立美術アカデミーで建築を勉強した後、巨匠アルネ・ヤコブセンの建築事務所で働き、1955年には29歳という若さで自身の建築デザイン事務所を設立するなど華々しいキャリアを持つ人物だ。惜しくも1998年にこの世を去ってしまったが、ミッドセンチュリーを代表するデザイナーのひとりとしてデザイン界の歴史にその名を刻んでいる。たとえ彼の名前も知らない人でも、彼が1960年に発表した代表作「パントン・チェア」を一度は目にしたことがあるはずだ。

木材を使った北欧の伝統的な技法ではなく、あえてプラスチック素材のみを使用したその作品は、その斬新なフォルムも相まって当時のデザイン界に多大な影響を与え、そして今なお多くの人を魅了し続けている。
「パントン・チェア」をはじめとし、家具や照明、さらには空間までも、その独自の色彩感覚と近未来的デザインによって作り上げてきたパントン。その彼の世界観は、死後約20年を経てドリスの手によってランウェイに持ち込まれた。「新鮮で色に溢れたコレクションにしたかった」というドリスは、ヴェルナーの遺族にコンタクトを取り、服に落とし込んだ時により美しくなるような比率に変えたいという申し出をしたという。その結果、ヴェルナーの革新的な色彩感覚はそのままに、ドリスの優れたテーラード技術が掛け合わさった素晴らしいコレクションに仕上がった。時空を超えて実現した、二人の色彩の魔術師によるDries Van Notenのコレクション。その服に袖を通すことで、アートを着ることができる喜びを感じたい。

Text_ SOHEI OSHIRO


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