TALKING ABOUT ARCHIVES Vol.11
SKITオーナー鎌本勝茂氏が語るフェイクカルチャー (Part 2)
前回フェイクカルチャーの片鱗について語ってくれた鎌本氏。ことスニーカーに関しては、「廃れることのないカルチャー」だと語った氏は、続いてフェイクを持つことで起こり得るその先と責任の重さを物語ってくれた。全てはより良くより楽しいファッションライフを送るため。この想いに耳を傾けて欲しい。
---前回、洋服に比べて、スニーカーのフェイクの方が多く、見極めが難しいと仰っていましたが、その理由はどういうものでしょうか。
「一つは前回お話しした、作りやすさの違いによるものです。もう一つは、スニーカーよりも洋服の方が、プレ値がつきにくいことです。LOUIS VUITTON×Supremeの二度とないようなコラボだったり、ブームが起こったりという二次的な要因がないと値段が上がることはそうありません。しかも落ちていくのも早い。フェイクが完成する頃には暴落しているリスクがあるから、あまり手を出さないんです。後は日本人に関して特に言えるのでしょうが、今はブランド主義的な背景もあり、特にハイブランドになると、消費者は直営店で買いたいという思いを持っている人も多いですから、アーカイブ商品を狙う以外にリセールショップや古着屋に行く人は少ないかなと思います。スニーカーに関しても一番いいのは直営店や代理店で買うことなんですけどね(笑)。並ばないと買えないことやすぐ完売する現状があるということ、ファッショントレンドに“90年代”というキーワードがある以上、本気で欲しいけど買えなかった人達は、リセールで購入せざるを得ない、購入した方が手っ取り早いというのはありますね。」
---そうなると、フェイクでもいいから欲しいという人も多そうですね。
「昔からそういう考えを持つ人もいると思います。フェイクとわかって買う人もいるんですが、「払ったお金がどこ使われているのか」ということを考えてみて欲しいんです。フェイクを作っている会社や人の背景には、どうしたってネガティブなものがあるわけですから、そこに加担してしまっていることをわかって欲しいなって。そうすれば、どうしても欲しかったからとは言え、フェイクを買う前に一度手が止まると思うんです。」
---その最たる例がこのモデルだと。
「そうです。これはジョーダンIVのDBモデルというもので、DBというのはアメリカのドーレンベッカー小児科病院のチャリティプロジェクトのことで、NIKEが継続的に実施しているチャリティスニーカー企画です。このスニーカーは、スニーカーにプリントされているアフロの少年(当時入院していた患者)がデザインしたもので、この売り上げの全てがドーレンベッカーに寄付される、というものです。スーパーマンのロゴも商標をオフィシャルから獲得していて、アメリカ限定で販売され、レアモデルになりました。これもあっという間に完売して、プレ値がついてしまって、同時にフェイクも出てしまったんです。2011年のモデルだったかな。こういうチャリティ企画でさえ、アメリカに転売ヤーが赴いて大量に買い占めてしまって。まあ実際に買っているからお金はチャリティに入っているんですが、持ち帰って日本や諸外国でプレ値販売する目的だと考えると、複雑ですよね。二次流通の時点で10万円とかで売られていて、定価の5倍以上の値段がついている。それを見たフェイク業者が、儲けられると思って作ってしまうんですよ。」
「でもフェイクはチャリティではありません。NIKEが善意で行った企画を利用して個人で儲けようという考え方。本来チャリティに入るべきお金が逆に反社会勢力の人達に流れて、組織はそのお金を使って戦争地域で武器を輸送している。ここまで考えるとフェイクと知って買ってしまうことで、本人はそうは思っていなくても、「テロに加担しているかもしれませんよ」と言いたくなってしまう。偽善でもなんでもなく、ただ事実として。だったら買わない方が良くないですか? と。純粋に欲しいと思うなら、正規店や信頼できるリセールショップで購入することを勧めたいです。」
---そういう意味でも真贋の見極めは必要ですね。
「誰だって、テロに加担したくないじゃないですか。無自覚で買ってしまったことは仕方ないことです。そもそもフェイクが横行していることが問題ですから。でもそれはフェイクでも売れてしまう現状があるからで、事前知識として持っておくべきものを、OR NOTを通して伝えられるといいなって思います。」
---このモデルでは具体的にどういったところが見極めのポイントなんですか?
「わかりやすいのは、このアフロの少年のロゴサイズです。実際のモデルよりも大きかったり、小さかったりします。ただこれも実際のモデルのサイズを知っていないとできないことではあります。大事なことは、信頼できるリセールショップやユーザーを見つけることと、個人売買に関しては“疑うこと”です。」
---査定で「フェイクです」と伝えるとどんな反応されますか?
「全てではないですが、フェイクと知ってて持ってくる人が多いですね。どこがそうなのか、と入念に聞いてくる人もいます。どうやらフェイクを見極めることを生業とする人が増えてきているみたいです。だからそのポイントを知って、自分達のスキルにしようと考えて、わざとフェイクを持って来る人が増えているんだと思います。」
---真贋を見極める業者が増えるというのも、フェイクカルチャーが盛り上がっている証拠と言えますね。
「そう思います。だから具体的な部分は僕らも仕事ですから提示できないんですが、伝えられる範囲なら一部の人ではなく、みんなが知っておくべきだと思うので、この場を借りて伝えられたらなと思います。みんなが知識として持っておけば、フェイク商品も減っていくかもしれません。「フェイクなら安く人気アイテムを買えるから」という気持ちもわかるんですが、そのお金の行き着く先がネガティブなものとわかれば、誰もそこに加担したいとは思わないはず。フェイクを作っている時点で、それを購入したお金はいい回り方をしません。スニーカーカルチャーをより大事にしたいし、日本のカルチャーとも言えるものだからこれをみんなで共有して、より良いものにしていきたいと思っています。再三お伝えしていますが、一番間違いないのはオークションでもリセールショップでもなく、正規店で、正攻法で購入することです。こういうことを、リセールスニーカーショップをやっている自分が言うことではないとわかっているんですが、だからこそ勧めたいですね。」
「コレクションしたい」、「どうしても欲しいモデルがある」といった様々な理由でファッショニスタを魅了するスニーカー。スーパーフェイクの起こりと、個人間のやりとりができるネット社会の繁栄が相まって、フェイクが容易に手に入る時代になった。そんな今だからこそ改めて考えたい。「本物かどうか見極められないけど、欲しかったものだから買おう」という感覚が、反社会勢力に加担してしまう可能性を秘めている、自分の払ったお金の行方が想像を遥かに越えて悪い方向に向かってしまうかもしれない。「壮大でイメージが沸かないかもしれないが、実は身近に戦争やテロがあることを改めて感じて欲しい。そして何より、妥協してフェイクを買うことよりも頑張って本物を手にする喜びを、大いに楽しいんで欲しいです」と氏は語り、フェイクの認識を改めさせてくれた。
SKIT 吉祥寺
営業時間 : 11:00~20:00
住所 : 東京都武蔵野市吉祥寺南町1-18-1 D-ASSET吉祥寺1F
TEL : 0422-47-6671
https://www.k-skit.com/
鎌本 勝茂
1978年青森県生まれ。
全国4ヶ所に居を構える、スニーカーショップ「SKIT」のオーナー。
珍しいアイテムや良心的な価格設定で、
スニーカーヘッズのみならず海外からも注目を集める。