TALKING ABOUT ARCHIVES Vol.10
SKITオーナー鎌本勝茂氏が語るフェイクカルチャー (Part 1)
スニーカーカルチャーに限らず、人気のあるものには必ずフェイクが存在する。10年ほど前まではわかりやすいフェイクが多かったが、業界が進化するとともにフェイクも進化を遂げ、スーパーフェイクと呼ばれる一見すると本物と遜色ないものが横行するように。そんなフェイクカルチャーの実態を90年代ストリートをリアルに生きてきた鎌本氏に伺った。
---昨今のフェイク商品の拡大でお店への持ち込みも増えましたか?
「もともと多かったんです。でも昔はフェイクと知らずに持ち込んでいる人が多かった。情報もそれほど出回っていなかったので本物の細部まで見ている人もいなかったんですよ。今ではSNSでのリーク情報やネット販売の流行で、細部まで誰もがわかるように拡散されている世の中なので、ニセモノとわかって持ってきている人が増えたように感じますね。」
---目的が買い取りから査定になっていると。
「そうですね。持ち込まれたものはなんでも無料査定をしていますので、フェイクであればフェイクだとお伝えしてどうするかを聞いています。ただ、ここ最近うちで一番業務に弊害が出ているのが、何十足も持ってきて、査定だけして全て持ち帰る。というような、売るつもりはないけど、真贋の査定だけをしてもらうために持ってくるお客様が増えていることですね。査定を有料にすることはできないので致し方ないです。」
---いつ頃からフェイクは始まっていたのでしょうか。
「スニーカーにとどまらず、Supremeなどでもそうなんですが、偽物が一つのカルチャーになってしまっているんですよ。一概にこれ、とは言えないのですが、カルチャーを辿っていくと、始まりは、ヴィンテージブームの92〜3年です。それから95年にエア マックス 95が出たタイミングでまたフェイクが出てきて。日本でエア マックス 95のブームが来る前から、フェイクはすでに出回っていて、人気シリーズは片っ端からフェイクが量産され、特に日本を中心にアジアで流行していました。」
---その理由はなんですか?
「あらゆるカルチャーや海外で人気のものがすぐに入ってくる日本の風土と、日本人の蒐集癖が相まって、日本はカルチャーとしてスニーカーの流行が本当に早かったんです。当時は日本でブームになったモデルだけフェイクが作られていて、アジア各国でそれが売られていました。今は完全に中国市場で様々なフェイクが作られていますけど、当時は日本でのブームを見て"カネ"になると思ったバイヤーが昔の資料をもとに韓国や台湾で作らせていたんです。」
---このジョーダンXIも同様ですか?
「そうです。95年に発売されたモデルなんですが、96年にはフェイクが多く出始めていました。エア マックス 95のブームの直後でしたから、本物は発売後即完売。それもあって4〜5倍くらいの値段でプレ値がついていたので、フェイクも余計に売れてしまって。当時フェイクが載っているファション誌も多くありましたから、それが後押ししたんじゃないかな。今に比べてフェイクの見極めも簡単でしたが、素人目にはわからないと思います。難しくなったのはここ7〜8年です。」
---当時メーカーから注意喚起はなかったんですか?
「当時は全くなかったですね。NIKE本社から注意喚起がWEBサイトで公開されたのもここ最近の話です。スーパーフェイクと呼ばれるものが多く輩出されるようになってからだと思います。工場は違っても同じ機械を使っているので、ほぼ同じものが作れる環境ができてしまったので。特に曖昧なことがありすぎて、取り締まることもできないものですから、メーカーとしても対応が難しいと思います。だから微妙な差などを、手を替え品を替えで作りオリジナル独特の対策をしていました。」
---どういうところが見極めのポイントだったんですか?
「メーカーも対策としていろんなことをしています。NIKEはサイズタグのところにQRコードを入れたりとか。当時に出たフェイクで最も簡単なもので言えば、サイズタグの数字フォントが違うとか。NIKEオリジナルのフォントでやっているので、どう見ても表記が違うんですよね。今のフェイクでは一緒になってしまっているんですけどね……(苦笑)。」
---サイズタグの数字フォントは昔から変わっていないんですか?
「いや、毎回変えているんです。出るスニーカーによって変わっているんですが、それをフェイクは追っかけで作っていく。ストックもそんなにないですし、僕らプロが見てようやくわかるレベルになってきてしまっています。中国のNIKEの工場でサイズタグだけを一枚数百円で売っているなんて噂も耳にします。タグだけ本物だとさらに難しくなります。通常工場のセキュリティも厳重なので、手ぶら入場しか認められていない。そんな中で隙を見て窓から見本を投げて下でフェイク業者が受け取る、なんて話もよく聞きますね。」
「問題なのは、フェイクの売り方が変わったことです。昔は買い手もフェイクだとわかるレベルだったので、本物よりも安い値段で売っていました。でもこのスーパーフェイクが出回ってからは、買い手がフェイクだとわかっていない場合が多くなったので、プレ値のまま売られることが多くなりました。被害額で言えば相当な額になっています。しかも売り手である業者も見極められないことが出てきているので、大手チェーンの買取屋さんなんかに行けば、数十店に1店には必ずジョーダンのフェイクが置いてあるほど。しかもフェイクとわかっていないから本物の値段で売られています。敢えてそういう店舗を狙って売りに来る人もいるみたいです。フェイクを売ることを店舗はしてはいけないので、これがかなりの大きな事件になってしまっています。当然と言えば当然ですよね。ウチみたいに専門分野があるわけではないですから。僕も洋服のフェイクを見極めろと言われても難しいですから、それと同じです。」
---今のヴィンテージブームもフェイクカルチャーの底上げに一役買ってしまっていそうですね。
「そうです。販売員も当時のカルチャーを通ってきていない人が多いですから、リセールショップで普通にヴィンテージアイテムとして売られてしまっているのをよく見かけます。『こういうの見たことないけど、どこかのタイミングで発売されたオリジナルなのかな』と思われてしまって、90年代に出たジョーダン IのフェイクとかがSNSで『入荷しました!』なんてアップされていますから。逆に言えば僕もそれは同じです。僕より20個も上の年齢の人たちが通ってきたカルチャーはわからないから、本物がなんなのかを知らない。フェイクしか見たことがないからそれが本物だと思い込んでしまう。だから60〜70年代のものは僕にはわかりません。リアルタイムを知らないので。古着屋においてあるバンドTとか特に本物かどうかの判定は難しいと思います。まあ古着屋に関して言えば、消費者が求めているベクトルが違うので、あまり気にならないのかもしれませんが。」
---一般の人でも見分けられるスーパーフェイクのポイントはありますか?
「一つ目は箱と付属されるものですね。ジョーダンXIで言えば、このプラスチックのカラーカバーです。素材感が本物とは全く違います。本物のこのザラザラとした感じは出せないのか、触ればすぐわかります。靴の素材は同じものを作れるんでしょうけど、箱やフィルムで同じものを作ることはできないんだと思います。あくまでも現時点での話ですけどね(苦笑)。スニーカー本体よりも箱やフィルムのような付属品の方が僕らはわかりやすいですね。」
「このポイントはジョーダンに限らず、NIKEのスニーカーであれば全て見分けられます。ヴェイパーマックスやエア フォースシリーズでもなんでも。逆に言えば、箱がないと格段に難しくなります。買う時のポイントとしても、箱があるものから見ていくのがいいと思います。と言いつつ僕らの取り扱っている商品は箱がないものが多いんですよね(笑)。海外から買い付けているものが多いという理由なんですけど、言っている事と違っていて恐縮です(笑)。」
「二つ目は、トゥ部分の透け感の違いです。これはジョーダンXIだけの特徴なんですが。なんでこれを紹介しているのかと言えば、ジョーダンXIのフェイクが特に多いからです。メルカリなどの個人売買アプリでもよくジョーダンXIのフェイクを見かけますし。実際にあった話で言えば、僕らから本物を購入して、『サイズが合わなかった』と言ってニセモノを返品してくる人もいました(笑)。僕らがニセモノを売ることは絶対にないので、それははっきりと伝えましたが。」
---個人から買う際にはここを気をつければいいと。
「一概にそうとは言えません。オークションサイトやメルカリなどではWEBなどから本物の写真だけを掲載して、実際配送される物はフェイク商品ということが多々あります。こうなってしまうとオンラインで買うことは、一定のリスクが伴ってしまうんです。個人で売っていて、生の写真がないのは特に注意が必要です。逆にジョーダンXIを個人で売るのであれば、このポイントを写真で掲載しておくことがオススメです。」
---転売をはじめとする個人売買ができるツールが増えてしまったことで、便利になった反面ニセモノで儲けられる時代になってしまったんですね。
「それは大いにあります。しかも一個一個の値段が大きいですし。スーパーフェイクのレベルが上がってきている今ですから余計に。昔はインソールにプリントされたNIKEのスウッシュの向きが全く異なっていたりしたので、見極めは簡単だったんですけどね。」
---洋服に比べてスニーカーの方が見分けるのは難しいんですか?
「一概にそうとは言い切れませんが、難しい気がします。洋服に比べてスニーカーは同じ素材を集めやすいんです。履きやすさや履き心地といった、快適に履く事を前提に作られていますから、メッシュやレザー、クッションなんかも手に入りやすい大量生産のものが多い。そうなると当然フェイク業者も同じ素材を集めやすい、ということになります。洋服はブランドによってこだわりや独特のデザインがあるので、同じ素材を見つけることが特に困難だと思います。そうなると単純に労力と利益が伴わないことが予想されるので、そもそも洋服のフェイクを作ること自体が少ないんじゃないかなって思います。サイズ幅も今はビッグシルエットが人気なんて言われているから、同じブランドでもその時々で規格が異なりますし、どのサイズが売れるかというのもブランドも人もそれぞれですから。その点スニーカーは、多くは変わらないですし、コレクターなら履かないから大きいサイズでも売れる。作りやすくて、サイズも関係ない、その時々のトレンドに合わせればいい上に、トレンドが後退する不安も服に比べて少ない。そうなればフェイク業者もスニーカーに力入れるのも納得という気がします。」
日本におけるスニーカーカルチャーが成熟して不動のものになったタイミングにスーパーフェイクが出回るように。カルチャーの起こりやブームに合わせて、必ずフェイクがついて回り、常に同じ土俵にいる背景があるため、廃絶することは不可能だと語る鎌本氏。トレンドになればなるほどフェイクカルチャーも同じレベルで盛り上がっていってしまうジレンマに悩まされる中、OR NOTは氏の話を通して、フェイクカルチャーと真摯に向き合っていきたい。
SKIT 吉祥寺
営業時間 : 11:00~20:00
住所 : 東京都武蔵野市吉祥寺南町1-18-1 D-ASSET吉祥寺1F
TEL : 0422-47-6671
https://www.k-skit.com/
鎌本 勝茂
1978年青森県生まれ。
全国4ヶ所に居を構える、スニーカーショップ「SKIT」のオーナー。
珍しいアイテムや良心的な価格設定で、
スニーカーヘッズのみならず海外からも注目を集める。