TALKING ABOUT ARCHIVES Vol.04
SKITオーナー鎌本勝茂氏が語るアーカイブストーリー(後編)
前編では、カルチャーを知ることの大切さや知ることで得られる楽しみを語ってくれた、SKITオーナー鎌本氏。第二弾となる後編では、そんな氏が思うアーカイブ市場とセカンド・ディストリビュートの魅力について伺った。今の時代ならではの苦悩とその中でどうなっていくのか、氏の見地には興味深いものがあった。
- アーカイブの魅力
---前回では、Air Jordan 1について語って頂きましたが、やはりNIKEがトップ市場なんですか?
「そうですね。僕が靴を売り始めてからはずっとトップです。adidasが上に行った、なんてこともなかったと思います。近づいた時期はあるんでしょうし、ジョーダンブランドだけには勝ってた時期もあると思うんですけど、NIKEそのものが下に行くことはなかったと思います。その理由は出し続けている数とアイデアセンスが全く違うから。定番のもの、例えば、adidasはStan Smithを5年間製造しませんとか、そういうマーケティングで販売して話題を集めたりしていたんですが、Air Forceはそんなに長い間製造されない、なんてことはないですし、売れなくてもカラーバリエーションを出します。何よりスポーツメーカーなので、優秀なスポーツ選手を獲得する動きがズバ抜けて優れているからだと思います」
「前回お話ししたAir Jordan 1のオリジナルもちょっと前だったら15万くらいだったんですが、今はもう30~40万の間くらいになっているんです。レアはレアなんですが、実は結構出てくるんですよ。これも普通に買えたというか(笑)。コレクターが当時からいましたし、みんな履かないでとって置いているので、デッドストックはデッドストックのまま残っていて、履かれている状態の方が少ない。それで市場に状態の良いAir Jordan 1が出てくるんです」
---数が溢れると価値が薄れる気がするのですが
「昔からずっとそう言われていて、実際価値が下がることもあります。ただ、あくまで価値をつけているのは僕ら消費者であって、メーカーではないんです。メーカーとしては売り続けなければならないですから。だから売り上げを立てるためには数多くリリースして当たり前というか、物の数が溢れてセールになったとしてもそれはそれ、というか。メーカーにしてみれば、モノの価値は自分たちの知らないところの話なんですよ」
---NIKE以外のモデルで鎌本さんの考える価値のあるスニーカーはなんですか?
「2004年に発売されたVANSとRAF SIMONS、COMME des GARÇONS、Coletteのフォースネームコラボのスリッポンです。この年にCOMME des GARÇONSが、パリのセレクトショップであるColetteを初めて日本に持ってきたんです。その時にポップアップストアをやることになって、そこで販売される限定品のデザインをラフ・シモンズが手掛けたものです。100足限定でこのスリッポンが販売されたんです」
---今のように並びが出たんじゃないですか?
「そうでもなかったと思います。特に当時はVANSで並びができる、なんてことはなかったんじゃないかな。今より情報が出回ることもなかったですから。実際これは後から『数が少なかった』ということで市場価値が高まったんです。今はすぐSNSで情報が回って、『なんだかわからないけどレアらしい』という噂だけでも勝手に価値が上がっていきますから。レアかどうかも決まっていない段階でレアにするのは、メーカーではなくて、それを発信する情報社会とそれを見る消費者です。本当に価値があるかどうかの知識よりも口コミが先行して、こういった真のレアモノには辿り着けなかったから、後になってどんどん値段が上がるんです」
---今後のアーカイブ市場はどうなっていくと思いますか?
「今日本人の間では、プレ値で買うっていう動きがひと昔前に比べて少なくなってきているんです。定価で買おうっていう考えの人たちの方が多いというか。自分で売っていて思うのですが、プレ値で15万のスニーカーが欲しいかって言われたら、そこまでじゃないかなって。プレ値はついても市場としてはそこまで大きくならないと思います。これって目に見えないブームだったりするんです。すごい高値でついている靴も、高値がついている割には履いている人を見ない。それだったらまだadidas YEEZYの方が、ブームは終わったと言われている割には履いている人をよく見るので、そっちの方がブームなんじゃない?って思うんですよ(笑)」
---上昇していく市場というよりは横ばいで続いていくイメージですね
「そうですね。高い価値の話題だけが前に出ているだけで、実際価値がついているといってもごく一部ですし、何百足もあるわけじゃない、出てくる数十足だけに高い値段がついているだけで。それでもAir Jordan 1 OGはすぐ定価の倍の値段がすぐついたりするので、異常な方だとは思いますけど、一部のモデルだけだとも思います。ただ、当時十何万も出して買った人とか今どうしてんのかなって思いますけどね(笑)。価値が上がっていくと思うかもしれませんが、時計や車に比べて、下がっていくことの方がこの市場は多いので。靴は時とともに壊れていきますし」
---セカンド・ディストリビュート(二次流通)の魅力ってなんですか?
「自由なところですかね。ただ、今は意味合いが二分化されてきていると思います。僕がやりたかったことって、『靴を買いすぎちゃった』とか『もう履かないから』という理由で売りたい人から買取りをして販売する。その方向の二次流通だったんです。それに、新作や現行モデルもいいものは多いですし、それは正規店で買う方がいいと思っています。ただ、2,3年後にそれを欲しいと思っても正規店には置いていないことが多い。その人にとっては2年前のモデルだって初めて目にしたら新作じゃないですか。だから2,3年後でも当時の良い靴を見つけられる、そんな状況が常にあることが、二次流通の魅力だと思いますし、僕らがやるべきことだと思っています」
---二次流通というカルチャーは日本が強いと思うんです
「そうですね。日本が最初だっていう自覚はあります。海外にこういうカルチャーはなかったですから。特にスニーカーの二次流通に関して言えば、アメリカでフライトクラブという委託スニーカーの先駆けのお店があるんですけど、昔ここの人たちがうちの店に来て色々システムを聞いてきたことがあったんです。それからしばらくしたら、日本のテレビ番組で『NYで今ブームになっている、委託をやっているお店がある』と放送されて。その店内の映像を見て、最初うちの店かと思ったんですよ。シュリンクされたアイテムや内装が全く同じ作りでやっていて、びっくりしたのをよく覚えています。蓋を開けたらフライトクラブで。それがどんどん有名になって、それからフライトクラブをやっていた人たちが独立してスタジアムグッズという別の委託スニーカー店を出したり。今やアメリカの地方都市にも二次流通ショップは溢れるほどあります。元々僕らがやっていたことが向こうでも成功するんじゃないかと思って、持って行ったんでしょうね。実際それで大成功を収めて、日本発の二次流通市場が本場アメリカで一大事業になって、今や日本よりアメリカの方が二次流通市場の中心になってますよ」
---そんな市場の中で今後価値が上がると思う靴はありますか?
「NIKE SBが出しているダンクが今後間違いなくくるだろうって思います。過去のダンク含めて、異常な盛り上がりを見せてくれるんだろうなって」
「ここ何年かダンクの市場って死んでいたんですよ。ただ、2年くらい前かな? SBのチームが、プロモーションを変えたと思うんですよね。なんかある日突然トラヴィス・スコットが昔のダンクを履いていたりとか、向こうのアイコン的な人たちがわざと写真に収まるようなところで履き始めたんです。注目されている人達が急に身につけていることで、ブームの兆候が出始めています。日本にはまだそこまで波は来ていないんですが」
「死んでいる市場が盛り上がるのって、僕らからするとすごい楽しいことなんです。それを裏で盛り上げているのは自分たちだって自負がありますから。実際にNIKEの販売店では過去に発売されたDUNK SBを売っているところがないので、市場に出回っているものは、二次流通のお店が売っているものがすべて。それで盛り上がってくれると、より楽しいです」
「転売という文化を二次流通とするなら、今は一億総転バイヤー時代と言える」と語る氏からは、セカンド・ディストリビュートの意味を改めて教えられた。昨今のファッショントレンドやブームがリバイバルを重ねている背景にはアーカイブの本質やカルチャーを、リスペクトを持って次に繋げる、セカンド・ディストリビュートの本懐が根付いているのかもしれない。
SKIT 吉祥寺
営業時間 : 11:00~20:00
住所 : 東京都武蔵野市吉祥寺南町1-18-1 D-ASSET吉祥寺1F
TEL : 0422-47-6671
https://www.k-skit.com/
鎌本 勝茂
1978年青森県生まれ。
全国4ヶ所に居を構える、スニーカーショップ「SKIT」のオーナー。
珍しいアイテムや良心的な価格設定で、
スニーカーヘッズのみならず海外からも注目を集める。
Text_ HAYATO HOSOYA