TALKING ABOUT ARCHIVES Vol.03
SKITオーナー鎌本勝茂氏が語るアーカイブストーリー(前編)
18歳で上京し、22歳の時にわずか10足のスニーカーを持って雑居ビルにSKITをオープンさせた鎌本勝茂氏。オープンから18年を迎えた今では、東京・大阪・宮城・福岡の4店舗を構えるほどに。ストリートファッションのリアルを生き抜いてきた氏が語るアーカイブの魅力を、前後編の2部構成でお届け。前編では氏の遍歴からアーカイブの楽しみ方を紐解く。
- カルチャーを知ることの魅力
---今これだけ人気のスニーカーですが、鎌本さんがスニーカー好きになったきっかけは?
「僕の場合は『元気が出るテレビ』でした。番組の中でやっていたダンスや3on3が、世の中でものすごく流行った時代があって。確か91年。その頃に少年ジャンプでSLAM DUNKが始まるんですよ。さらにバルセロナオリンピックでNBAのドリームチームが出た時は見入ってしまいましたね。だから、スニーカーっていうより、バスケやスポーツやカルチャーから先に入っていたかな。Street JACKやBoonのような雑誌が大人気だった時代だし、高校生の時には、Air Max 95の一大ムーブメントもあった。だからハマるきっかけが溢れていたんですよ」
---今では全国4店舗並ぶオーナーである、ご自身のターニングポイントとなったスニーカーを教えて下さい
「始まりはバスケとAir Jordan IX(写真上)でした。Air Jordanを知ったのは僕が中学生の頃で、その時点で既に学生が買える値段ではなかったんです。その時の、買いたくても買えなかった執着心が『将来靴屋をやる』きっかけになりました。お年玉を2~3年貯めて94~5年にようやく買えたんです。僕の始まりの一足です。こういうシグネチャーシューズを履けばその人になれると思っていたんですよね。ジョーダン履けばジョーダンみたいになれるって(笑)」
「いろんな靴を履くきっかけになったのがASICS(写真中)です。アムステルダムのセレクトショップが別注したモデルで、2008年に買いました。昔からNIKE、adidasは履いていたんですけど、ASICSは通ってこなかったんです。そんな中でこのアイテムが気になって。当時ASICS TIGERは、ヨーロッパで人気だったので、日本に来ていた現地の方にお話を聞いて、お願いして買ってきてもらったんです。その時に『日本人なのにASICSのこと全然知らないんだね』って言われて。純粋にそうだなと思って、ショックだった。自分の中で勝手に『自分は靴に詳しい』って思っていたんですが、このままではダメだなって思わされたんです」
「Air Force1(写真下)は個人的にも好きで一番コレクションしていました。2007年にStreet JACKでAir Force1 25周年の特集をやっていたんですが、この出版にも協力させて頂きました。あるページでは7割近くが僕の私物で、時代順に並べたり、当時の情勢を伝えたり。思い入れの深いアイテムです」
「Air Force1 25周年特集の他にも、ダンクシリーズのムック本にも携わらせて頂きました。色々あって世に出すことはできなかったんですが、この編集に携わった人だけに配られたんです。年代別とカルチャー別の2冊。自分の私物を結構出していて、Air Forceやダンクは自分の原点的な存在なので、こういう形にできていることは素直に嬉しいですね。次の世代の方達がこういうの出してくれるといいなって思います」
---カルチャーへの造詣もすごく深いんですね。そのきっかけはなんだったんですか?
「元々は全然カルチャーも知らなかったんです。入り口はカッコいい人たちの真似事でした。カッコ良ければいいじゃんって。でもその価値観を変えられたのは音楽でした」
「ダンス甲子園やストリートバスケ、当時のNBAのBS放送なんかでかかっていた曲がすごいカッコよくて。自分も地元でストバスをやる時にラジカセ持って曲をかけたかったんです。なのでBS放送を見て、放送内で小さく表示される曲を買い漁っていました。東京に出てきた時はDJもやっていたんです。でも当時働いていた靴屋の先輩が、僕がやったDJに対して『恥ずかしい』って言うんですよ。その意味が全然わかってなかったので聞いたら、僕は英語が分かっていなかったことを知りました。一曲一曲にストーリーがあるのに、曲調だけでつないでたんです。それが実は“俺のモノをしゃぶっときな”みたいな曲の後に、黒人の歴史を語る曲をかけちゃう様な事だったみたいで……。カルチャーが分かっていなかったんです。そこで初めて深掘りする、ということの大切さを実感しました。それまでは靴もカッコいいものだけ、音楽もカッコいいものだけで良いって考えだったんですが、その一言で全てが変わった。買うレコードも変わったし、アーティストが着るファッションも意味があることだって知って、靴も探ってみたら意味のあるものばかりだった。カッコいいと思えたのは、デザインもあるんですが、その人なりのカルチャーがあって、着たり履いたりしているからカッコいいんだって分かったんです」
---カルチャーに興味を持ったきっかけが音楽だったんですね
「はい。最初は僕も知らなかったんですけど、例えばこのレコードジャケットで手を合わせている(写真右)のは、ダンサーが亡くなっていて、その人を追悼している、とか。ピート・ロックっていうヘビー・Dの従兄弟がプロデュースしているんですけど、そのピート・ロックはこの後に亡くなったダンサーへ捧げる曲を自身のグループで発表した、とか。この1枚の中にあらゆるものが含まれていたんです。掘り下げるきっかけがレコードや音楽で、この流れでさらに靴にハマっていきました」
「始まりはカッコいい、でいいんです。カニエ・ウエストを知らずにYeezy履いていてもいいんです。ただ、今靴好きと言われてメディアに出るような方や、若い世代の方達に一番足りないところが、カルチャーを知っているのかといった、カッコいいの先を知っているかどうかなのかなって思います。どうしてもこう薄っぺらく見えてしまうんですよね。ネットでちょっと調べた情報しか頭には入ってなくて、見聞きしたり体験したりしたリアルな情報ではない。誰かが経験した内容を見て、これがそうだってわかった気になって話してるだけなんですよ。もちろん今から実体験するっていうのは無理なんですけど、きっかけっていくらでもあるし、掘るって行為そのものが重要なんです。カルチャーを媒介にして見ることで、さらに靴が好きになるっていうか。靴だけに限らずなんですけどね」
---カルチャーや背景を分かってもらえないのは作り手のジレンマですね。
「カッコいいからいいじゃん、おじさん何言ってんの? って言われちゃうとそれまでなんですけど(笑)、それを分かった方が、知ってる方が、もっと面白いでしょってことを伝えたいんですよ。新しく見えてくる価値も絶対ありますし」
「例えば、今市場で最も価値があるとされているAir Jordan1の1985年モデル。通常NIKEの靴は、シューレースは上まで通されて販売されるんですが、Air Jordan1は当時からシューレースが2種類ついていて選べる仕様になっています。そのためシューレースは敢えて通されていなかったんです。今復刻で出ているOGも同じように通されていないんですけど、カルチャーを知っている人からすれば、その仕様を見るだけでオリジナルに忠実に再現されているんだなってわかる。だからなんでAir Jordan1のOGというモデルだけ紐が通されていないのかっていう理由が、モノの背景を掘り下げるとわかる。それを知っているだけで、もっと靴(好きな事)を楽しめると思うんです」
スニーカーをはじめとするアパレルを、単純なブームやデザインとしてみるのではなくて、それぞれのブランドや身につける人が持つ歴史や背景、カルチャーを知ることで、市場評価ではない自分の中での価値が見出せる。なぜこれが流行ったのかも知ることができるし、自分の好きな事がもっと好きになるはず。 “カッコいい”のその先を追求することの魅力を、鎌本氏が教えてくれた。
後編ではカルチャーの造詣を持つ鎌本氏がみる、アーカイブ市場、そしてセカンド・ディストリビュート(二次流通)市場について語って頂く。
SKIT 吉祥寺
営業時間 : 11:00~20:00
住所 : 東京都武蔵野市吉祥寺南町1-18-1 D-ASSET吉祥寺1F
TEL : 0422-47-6671
https://www.k-skit.com/
鎌本 勝茂
1978年青森県生まれ。
全国4ヶ所に居を構える、スニーカーショップ「SKIT」のオーナー。
珍しいアイテムや良心的な価格設定で、
スニーカーヘッズのみならず海外からも注目を集める。
Text_ HAYATO HOSOYA