INTERVIEW WITH BRING

一生モノを集約させたBRINGの新形態

一口に古着といっても作られた地域や歴史、機能によってそのかたちは様々で、人によって思い浮かべるイメージも大きく異なる。例えばその中の一着に絞ってみても、在りし日の面影を感じる人もいれば、羨望の眼差しで見る人もいる。そして、その手前にはもっと漠然と単なる古い布切れだと感じる人もいる。

それらのイメージは、情報流通の変化に伴って可変しつつある。流通の形態は、その中身と同じくらい時代の精神を表す。青春時代をファッション雑誌と共に過ごした人々とSNSを介して情報交換をしている世代では、衣服の捉え方自体に隔たりがあるだろう。また、所有の感覚も大きく異なってきている点も見逃せない。例えば、オークションサイトやフリマアプリを活用し売ることを前提にした購買やシェアすることを念頭に置いた取引が挙げられる。更にそれらの現象とは少し距離を取るように広がりつつある若年層のコレクターの出現も興味深い。

SNSを介して加速する物流は、一次流通と二次流通の関係性をも変化させている。特に近年は、二次流通における 価値付けが一次流通の在り方に大きな影響を及ぼし始めた。真贋を見極めながら相場を作る役割を担ってきたブラ ンド古着屋の変遷を辿ることで、今後のファッション産業の行方を探ってみたい。今回は古着のメッカ、原宿で新 しい試みを展開しているBRINGに話をきいた。

このコロナ禍の中ですが、2021年1月にBRING原宿店がリニューアルオープンされました。どのような経緯で計画されたのでしょうか。

きっかけは、急に1Fのテナント物件が空いて目の前にチャンスが転がって来たというところからです。今までは、2Fのみの展開でしたので、もどかしく感じる部分も多かったのも大きいですし、何よりこの先コロナ禍が収束し、インバウンド需要が戻ってきたその先までを想定し店舗拡大に踏み切りました。しかも最近ですが、キャットストリート沿いにヌビアンさんもオープンされましたので今後、通り自体も活気付いていきそうなイメージがありますね。

リニューアル後の空間は、一つのハンガーラックあたりのアイテム数もかなり厳選されている印象です。

店頭で展開するアイテムは、ストリートで旬なブランドや、LOUIS VUITTONなどの高級メゾンブランドなど、基本的には単価の高いアイテムが多いです。そうした高額商品を買いに来ていただくお客さんの立場になったときに、ラックにギュウギュウに詰まったお店で買いたいかというと微妙ですよね……。そういう意味でも、これからは街にある一古着屋ではなく、いかに高級な一次流通のブランド側に近づくかというところを考えています。BRINGが設立した2014年頃は、業界的にあり物の什器を使うのが主流だったかと思いますが、弊社では最初の店舗から什器をオーダーメイドで作り差別化を図っていましたし、これから展開する新店舗でもエリア毎の特色を出すように什器の使い分けや、空間の雰囲気や見え方を調整することで高級感を演出したいですね。ただそれは、深く考えた上の戦略的なアクションというよりは、単純にお店をカッコ良くしたいという思いからです。

近年では、二次流通における価値基準が一次流通の在り方に影響を及ぼし始めています。この流れに関しては、どのようにお考えでしょうか。

そうは言ってもやはり新しい流行を作るのは一次流通だと考えています。ですので、自分たちとしてもBRINGの世界観は一流のセレクトショップ基準であることができるように焦点を合わせています。展開していくアイテムや店舗設計もそうですし、お客様に対してのサービスも、ただモノを売ったり買い取ったりするだけにとどまることなく、一次流通の方々に負けないくらい情報発信をしていけるよう踏み込んでいけたらと考えています。また、一次流通の方々と比べても扱っている商材の幅が広い分、スタッフ陣の好きなブランドや得意なジャンルの幅があるのでそこを強みとして、様々な角度からご提案させていただきたいと思っています。

リニューアル後の店舗で取り扱うアイテムの構成に関してお聞かせください。

1Fは、現在進行形で売れているアイテムを中心に構成しています。やはり原宿は、ストリートカルチャーに根差していますので、今旬な最新スニーカーも最速で揃えつつ、ジュエリーの部分では、CHROME HEARTSとGORO'Sを重点的に置いて、キャッチーと定番を両立させた商材バリエーションを意識しています。またファッションだけではなく、BE@RBRICKなど家具やライフスタイルに関するアイテムにも力を入れていく予定です。2Fは、より厳選したセレクトにすることによって市場のアイテムを全網羅したいと考えています。実際にお店にお越しいただくことで、今まで特定のブランドしか着ていなかったお客様にも新しい選択肢を与えられればと思っています。

2Fは、より厳選したアイテムを揃えるということですがどのようなラインナップなのでしょうか。

BRINGには、各店舗に数十万円から数百万円の商材があります。そうした高級なアイテムの中でもさらに厳選された上質なものだけを集約させたお店というイメージですね。この先も長く受け継がれることを念頭に置いた一生モノといえるクラスのラインナップだけで揃えた新しい屋号のお店です。

今現在、アーカイヴという言葉に代表されるように衣服に対して歴史性やヴィジョンを見出す動きが活発です。新しい屋号では、どのような価値観を提示されるのでしょうか。

AWESOMEという屋号を付け、一生モノという価値観の提案にこだわっていく予定です。ファッションが好きな人なら誰しも高い買い物をする時、「この一着は一生着る!」とか「この指輪を一生着ける!」ということを考えたことがあるかと思います。そんな気持ちを真正面から受け止めたいですね。具体的には、復刻の目処が立っていないような名作やワンオフのアイテムなどの提案を中心に組み立てていきます。またそのアイテムのリペアやケアを通じて正に一生付き合っていけるような環境を整えます。そういったラインナップをライフスタイルにもリンクさせたいですね。例えば、かつてデザイナーが作っていた家具や、デザイナーが書き下ろしたデッサンやコラージュなどが挙げられます。コレクター達が衣服を中心に誇れるコレクション作りができるような空間にしたいですね。

そのように考えに至った経緯をお聞きしたいと思います。まず会社設立の2014年4月に新宿店をオープン、続いて12月に原宿店をオープンされました。2014年頃の傾向として、スマートフォンの利用者数がパソコンの利用者数を越したという現象が起きていますね。オープン当時は、どのような流行がありましたでしょうか。

2014年は、ブランドでいうとGIVENCHYやMAISON MARTIN MARGIELA、RICK OWENSが流行っていましたね。後はMARCELO BURLONやHOOD BY AIR、STAMPDもよく動いていました。SUPREMEにも徐々に火が付き始めた頃です。全体的な傾向としては、スキニーのアイテムを中心にコーディネイトを組み立てているお客様が多かったと思います。また当時は、INSTAGRAMなどここまで主流ではなかったので、ミクシィや2ちゃんねるから情報を得てご来店されるお客様が多数いらっしゃいました。

その後、心斎橋店をオープンされたのが2018年ですね。関東圏と関西圏での購買の違いはありましたか。

当時は絵に描いたように、3ヵ月くらい関西の方が遅かったですね。相場の変動もはっきり感じ取れました。例えば、YEEZY BOOSTがすごく流行っていた頃などは、東京で3万円を切らないと高くて売れないのに対して、大阪では4万円くらいで売れていましたね。今は、関東圏も関西圏も相場は変わらないと思います。SNS等で情報が一斉に出るようになってから相場の溝が埋まってきました。ただ、例えば先ほどお話したGORO'Sさんなどは東京にしかないですし、関西の方ではレアに感じるというのは今でもありますね。自分たちとしても、エリア毎の購買は意識しています。同じ東京でも新宿であれば歌舞伎町やホストのカルチャー、原宿であればブランドのフラッグシップが近くにあることを考察しながらこの先の展開を考えています。

流通の形態に関してもお聞かせください。買取の際の値付けや真贋判定、在庫管理や写真撮影など店頭に至るまでの作業工程が多岐にわたる印象です。ただその中でも、二次流通産業の最大の特徴として買い値と売り値が自由に決定できるという部分が大きいと思います。

そうですね。そこがこの業界の醍醐味です。しかも、2014年頃までは自分たちで相場が作れたんです。当時は、店舗同士で交流しながら、相場が作られていきました。それこそ「このアイテム明日から売り出しするんだけど、そっちではいくらで売る予定?」といった生々しいやりとりもありましたね。後は、情報が出てくるのが遅かったので実店舗よりもオンラインストアの値段が高かったりもしました。ただ、そこから数年後には、全世界共通の相場というものが生まれてきました。例えばスニーカーだと海外の方が先に発売されます。そうすると、ROUND TWOさんなどを通じていくらくらいの値段でどの時期に発売されるか、という情報が消費者を含めて全員が同時に把握できるようになったのです。つまり、日本に入ってくる前にある程度、相場が固まっている状態になりました。同業他社さんが非常に増えたのも合間って一瞬で相場が作られるようになりましたね。

まだ相場が確定してない領域に関しては、どのような基準で評価していくのでしょうか。

コレクター向けのアイテムなどは、売り手さんを先に見つけることで逆算しながら相場を決めていきます。後は、過去に遡って似たようなケースがどのような着地をしたのかという点と、バイヤーとしての知見とを掛け合わせながら総合的に判断していますね。またこの先、資産価値が上がることが予想されるアイテムに関しては、その発展性をも見越した上で値付けをしています。やはり買い方としては資産価値を逆算して買うというパターンが非常に増えていますので。ただ、これまでは特定のブランドでしかそういった価格の高騰が起こりえなかったのですが、個人売買の普及が著しい今現在、様々なブランドにポテンシャルがあると感じています。

最新のコレクションピースと共に過去のアイテムに関しても膨大なストックがあるかと思います。在庫管理はどのように行っているのでしょうか。例えば古いストックなどは、たまり続けてしまうものなのでしょうか。

弊社では、在庫鮮度という呼び方をしているのですがストックしている在庫の内、どのくらいの割合が資産価値を持ち、どのくらいの割合が資産価値を失っているのかを把握して弊社で決めたヴォリューム以上に増えないように管理を行っています。在庫鮮度を失ったアイテムは、クリアランスセールのような形で、例え赤字でも放出してしまいます。その他にも回転率や交差比率などの統計を駆使しながら適正な在庫の管理をしています。一点一点の商品に対して数値化しているので、全て統計的な根拠からの判断になります。

SNSの普及によって購買の在り方が二極化したと感じます。一つは、元ネタを探すような歴史性に重きを置いた購買です。もう一つは、みんなが欲しいものを誰よりも早く欲しいという、今この瞬間の価値を大切にする買い物の仕方が挙げられます。

どちらかというと、自分たちが常に回している商材は後者でみんなが欲しい、みんなが知っているというマスなアイテムが売り上げのメインです。ただ、コアな買い方をする方々も徐々に増えているという実感もありますね。特に長いお付き合いのお客様になればなるほど、そういった傾向が強くなっている印象です。弊社の店舗でも、このアイテムが入荷した際には、真っ先に「◯◯さんへ連絡しよう」というのは文化として根付いていますね。

「◯◯さんから買う」といった感覚も最近では薄れているような気もしますね。

確かにそういうスタイルのお店は減っている気もします。かつては、お店自体が人と人の繋がりを感じる場所でしたし、衣服だけでなくカルチャーやライフスタイルに興味を持つきっかけをもらっていましたね。ですので、自分たちもそういった部分も含めて体現していきたいです。二次流通は、スタッフの好きなブランドはもちろん、趣味嗜好などにヴァリエーションがあると思うので発信できるチャンネル数は多いと感じています。

二次流通の産業は、サステイナブルの観点からみても興味深い取り組みだと思います。

自分たち自身の考え方の根幹となる部分ですね。例えば、ボロボロのスニーカーを我々の方できっちりリペアしてより良い状態で販売することや、シルバーなどに関しても専門の工具を使い、半永久的に使用できるように蘇らせることを意識しています。古くなったアイテムを清潔にして再び市場に戻すことで、ファッション産業の循環の輪を広げていくようなイメージです。また、そのような取り組みを通じて今までブランドの服を買ったことがない方々へのきっかけ作りができれば嬉しいです。

二次流通を本職にされている方々は新品の衣服を買う機会はあるのでしょうか。

自分たちは、めちゃくちゃ買いますよ(笑)。一次流通の方々は、接客のプロじゃないですか。扱っている商品知識も豊富ですし、見せ方もうまい。ちょうど先日、内装の勉強にあるお店に伺ったのですが、綺麗に接客されて綺麗に買い物してしまいましたね(笑)。

それは意外でした。勝手なイメージですが、常にクローゼットの中を循環させているような方が多いのではないかと思っていました。

おっしゃる通りです。二次流通で買い物する時は常に転売のことを考えてしまいますね。例えば、5万円で買った服を数ヵ月後に幾らで売れるかと事前に計算して、買ってから売るまでの日数を日割りにすると実質これしか掛かっていない、みたいな感覚です。冬に買ったものを夏前に売って夏服を買い、夏服は秋になる前に売り秋の服を買うといった感じで。最短だと当日に買って、当日に売るなんてこともありました(笑)。でもその感覚が嫌で、新品を買うようになった人は、意外にも自分たちの周りにも多いんです。そして、不思議なことに新品で買ったアイテムは中々売らない傾向があると思います。

皆さんの衣服に対しての向き合い方や購買の在り方の変化が次のプロジェクトに着実に反映されているのですね。

そうかもしれませんね。自分たちを含めて二次流通を長く経験している方々や、転売を生業にしていた人たちも年を重ねて少しずつ考え方が変わってきたのだと思います。AWESOMEでの自分たちの使命は、手放すことに慣れている人ですら手放したくなるようなアイテムを集約させることです。それらがお客様にとって本当の意味での一生物となれば嬉しいです。

Interview text_ SHINGO ISOYAMA


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