INTERVIEW WITH DAVID CASAVANT 2/2

カニエ・ウェストにRaf Simonsを着せたのは誰?

アーカイヴという言葉自体が、ファッション業界内でバズワードになっていきましたよね。

そうですね。僕がアーカイヴと呼んでしまったせいかもしれません。僕から見ればヴィンテージなのですが、多くの人にとって90年代や00年代のものはヴィンテージと呼ぶには新し過ぎるようなんですよね。特にメンズウェアはアーカイヴやヴィンテージといった価値を見出してもらえていなかったので、どちらの言葉も当てはまっていなかったんです。

どのようにしてアーカイヴという言葉を使い始めたのでしょうか?

正確には、私自身がそう呼び始めたというわけでもないんです。服を貸し出した際、誰かが「The David Casavant Archive」とクレジットしたことがあり、「あ、じゃあそれで!」っていう感じでしたね。

Raf Simonsの00年代のボンバージャケットがヴィンテージと呼ばれることはなく、アーカイヴと呼ばれますよね。

そうですよね。当時僕はヴィンテージと呼んでいましたけど、今では両方使いますね。あまり深く考えたことはなかったですが、自分の名前と隣り合わせで使われることの多い「アーカイヴ」というホットな言葉に何となく落ち着きました。

著名人に貸し出しをするようになって以降、15年前に二束三文で入手したアイテムがとんでもない価格で取り引きされるようになり……。日に日にクレイジーになっていくそんな市場を見て、どのように感じていましたか?

ファッション業界内の様々な有識者達と仕事をさせてもらっていますが、僕は今でも異なる二つのレンズを通して物事を見るようにしているんです。一つは若い子達のレンズ。日に日に大きくなっていくこの現象を見て、彼らは大いに盛り上がっています。もう一つは有識者達のレンズ。彼らはその現象を無視しているかのようで、雑誌上ではヴィンテージは登場せず、フォーカスされるのは新しいコレクションばかり。新旧の服を混在させることにこそ意味があると僕は思っているのですが……。

最近ではもう、あなたの活動は多くの人達から理解されるようになってきたんじゃないでしょうか?

さあ、どうでしょうね。でも僕は今のままでいいんです。ただ好きという気持ちと、所有したいという純粋な気持ちから収集してきただけなので。それに、そこには亡くなった母のことも関係しています。亡くなってしばらく経ってから、少しまとまった遺産が入り、今のビジネスを始めたんです。ただ、スタートするには十分でしたが、継続するには全く足りませんでした。そうしたことから、僕にとっては母との繋がりがあってこそ成り立っているので、時にパーソナルに考えてしまうくらい、物凄くパーソナルなことなんです。それに僕は普通のヴィンテージショップみたいにやってきていないんです。貸し出しを始めたのも、この趣味を金銭的に支えるためなんですよ。大量の服を所有しているということを正当化する側面もありましたが、ぼろ儲けしたいわけでもありませんでした。貸し出しのほぼ全ては無料で行っていますし、そもそも紛失を恐れて貸し出しはかなり制限しています。本当にパーソナルなものなんです。それに、これまでに一度も販売したこともありません。

一度もないんですか?

一度もありませんね。最初に買ったピースから、今の今まで、一度も売ったことがないんです。

お話しをお聞きしていて思ったのですが、あなたは今も13歳の頃のままなのですね。

そうだといいんですけどね。やむを得ずビジネスにしてしまいましたが、大きなパッションの詰まったプロジェクトなんです。僕自身に関することなので、自分が離れることはできそうにありません。ですから今はこのプロジェクトを通して、自分がこうして好きなことをやっている姿が、他の方々が好きなことに取り組むきっかけになったらいいなと思っています。「何を買ったらいいか」と相談されることがあるのですが、僕はいつもこう答えるんです。「言われるままに買うのではなく、買いたいものを買えばいいんですよ」と。

多くの人はあなたのことをRafやHelmutをコレクションしている人物として認識しているかと思いますが、実際は若手からベテランまで、様々なデザイナーを追い掛けていらっしゃいますよね。買ったり収集したりする際、基準のようなものはあるのでしょうか?

ファッションデザイナーがコレクションを作っていくような感覚に近いかもしれません。映画を観たり、図書館に行ったり、写真を漁ったり……。脳内でも机上でも、ムードボード作りが書かせません。壮大なストーリーを描くこともあれば、ヴィジュアルを通してムードを作っていくこともあります。それらからインスパイアされ、実際にその世界観を作りたいと思い、フィットする服を購入することへと繋がっていきます。この映画の中で、こんなキャラクターだったら、こんなスーツを着ている、という風にして膨らませていくのです。
さらに、とあるコレクションが、とあるものからインスパイアされていることが分かると、ムードボードは無視して買いたいと思うことも多々あります。そうした繋がりが好きなだけでなく、そのものが作られた理由を知ることも好きなんです。一方で、チープなものも好きですね。デザイナーのものの横にそれらを置いておくと、それらの違いが分からない人もいるので、僕は慌てて「あ!それはWalmartで買ったものです」って。そうやってデザイナーものだけでなく、ランダムなものをミックスしていくのが好きなんです。僕はアーカイヴィストのような買い方はしていないんです。

アーカイヴィストではないというのは、どういう意味でしょうか?

僕はコレクターであって、学芸員のようなアーカイヴィストとは違うんです。美術館のようにピースを保存し、キュレーションをしているといえばそうなのですが、僕は個人的な視点や着眼点を表現するためにやっているので、動機も手法も異なります。自分が使う顔料をパレットの上に集め、キュレーションするようにしてそれらを使って絵を描き、他の人にもそのパレットを使ってもらうべく提供している。そんな感覚です。歴史的に重要だからといったような理由で買ったことは一度もありませんし、僕自身のストーリーを作り上げるためだけに買っていますから。それが成功した理由の一つで、僕自身の審美眼こそがベースになっていて、見るとそれが一目瞭然かと思います。もちろん再編集や新しい組み合わせを繰り返し、他の人の審美眼を用いることで僕自身の審美眼も形成されてきましたよね。

自分の世界観を作るのであれば、どこで買ってもいいようにも思えるのですが、例えば新作コレクションを買うこともあるのでしょうか?

最近はあまり新しいものを買っていませんが、以前は買っていましたね。Craig Greenはファーストとセカンドコレクションを普通にお店で買いました。

デビューコレクションは素晴らしかったですよね。クレイグをアメリカのセレブリティたちに紹介したのもあなただったんですか?

表立って言ってはいませんが、数年前のグラミー賞のパフォーマンスでケンドリック・ラマ―が着ていた時、あれは僕が貸し出したものでしたね。僕はずっと音楽やアーティストが好きで、自分の好きなミュージシャンをセレブリティと捉えてはいないんです。彼らの音楽が純粋に好きですし、パフォーマンスアートのようなものなので、そうしたものに貢献できたらとずっと思い続けていました。以前はブランドがラッパーに服を貸し出すことなんてありませんでしたが、最近ではこぞって彼らに着てもらおうとしていますよね。

今現在、気になっている若手のデザイナーはいますか?

最新のものをあまり知らないんです……。才能あるデザイナーがたくさんいるんだと思うのですが、デザイナーの評価をすることが何だか難しい時代ですよね。

そうですよね。というのも、おそらく周りの人から「次にビッグになるデザイナーは誰?」「次なる“アーカイヴ”は?」なんて聞かれることが多いんじゃないかと思ったのですが。

よく聞かれるんですが、株の売買の話しでもしているようで、困惑していますね。ただ、こうしてメンズウェア自体が価値を持ち始めてきたことは素晴らしいですし、僕はこうした状況が訪れることを昔から夢見ていました。このビジネスを始めた当時、税理士さんからは「服が値上がりすることはないので」と言われていました。確かにそうだったのですが、アーティストが評価されてきたのと同様に、服の価値も認められてくるようになり、僕はそれを願って努力してきて良かったなと。

次に企画していることはありますか? 最近「Archive Club」というラインをスタートされましたよね。

友人のJacobiが、彼の映像作品を披露するショーをやっていて、それに合わせてギフトショップを作ることになったんです。半分は映像のエキシビションスペース、もう半分はギフトショップにしました。最終的にテキサス州に住むコレクターが、展示を丸ごと購入したんです。彼はアートを保管するための家を所有していて、その家の中にギフトショップを設置する部屋を作ったそうです。僕が冗談半分で企画したものが、真面目に捉えられて購入されて、どこかおかしく、どこかアイロニックに感じましたね。その後、本当に自分自身のギフトショップを作りたいと思い、Archive Clubをスタートさせたんです。

Archive Clubの裏側にある考えなどをお聞かせください。

アーカイヴを生で経験してもらうことが目的です。まずはアーカイヴピースを見てもらい、それに合わせたギフトショップも用意されていて、そこで販売されているTシャツにはRaf Simonsのジャケットの写真がプリントされている。美術館で購入可能なモナ・リザのプリントTシャツのような感覚です。そこからは販売する服の種類を増やしたり、アーカイヴピースをプリントしたトランプカードを作ったりしています。

アーカイヴしかり、Archive Clubしかり、あなたが手掛けるプロジェクトに対する人々の反応が過剰なのも面白いですね。

僕がやっているほとんどのプロジェクトは、単に面白くて楽しいから始めたことばかりなのですが、人がそれらをどう見てくれているのかはあまり分からないですね。ただ世界中のRafファンたちは、僕がトラヴィス・スコットにRaf Simonsの服を貸し出した時、真面目に反応してきました。「トラヴィスなんかが着たらRafが台無し!」と皆怒っていましたね。

昨今のアーカイヴにまつわるムーヴメントは、今後どうなっていくと思いますか? ここから数年の内に、次なるラフ・シモンズやヘルムート・ラングが現れる、なんていうことは僕には想像できないのですが。

私にとってアーカイヴというのは、トレンドでも何でもありません。そして僕たちは、シーズン毎に「買っては捨てる」を繰り返す、ファストファッションの時代に戻ることはないと思っています。人類があんな無駄なことを繰り返すとは思えませんし、特に若者たちはそんなことはしないと思いますね。それに今ではインターネットやSNS上で、1998年のRaf Simonsと2020年のGucciのランウェイ画像が隣り合わせで表示され、彼らはそれらを脳内で区別しないはずですよね。新作とヴィンテージの境界線も曖昧になり、両者が一つになっていくというのが僕のファッション感で、若者たちもそれに近い感覚を持っているんじゃないないかなと。
さらに現在のメンズウェアの基礎を作り上げたのは、ラフ・シモンズやエディ・スリマン、ヘルムート・ラングなどで、彼らこそが現代男性が着飾るということを開拓したデザイナーですよね。それは決してドレイクが着たからではなく、世界中でアーカイヴが本当に愛されているんです。このムーヴメントが消え去るなんていうことは決してないと信じています。

interview text_ YASUYUKI ASANO


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