SUPREME 2018 COLLECTION

Supremeがフィーチャーしたアーティストたち – 4/4

アーティストとタッグを組み、そのアートワークをアイテムに落とし込む。もはやファッション業界において、この手法はなんら珍しいものではなくなった。ただ、そのフィーチャーするアーティストの人選においてSupremeに敵うブランドなんていないだろう。ソウルミュージックのレジェンドにアングラを切り取った写真家、社会に抗ったヒップホップグループからイギリスの天才映像作家まで、古今東西のアーティストを縦横無尽にピックアップし、世間をあっと驚かせる。実際に昨年2018年だけでもSupremeは10組以上のアーティストを取り上げ、そのいずれのシリーズも世界中で大きな話題を集め、瞬く間に完売していた。Supremeのコラボレーションシリーズは、もはや世界中のファッションフリークが期待し渇望しているプロジェクトと言っても過言ではないだろう。ただ、毎回そのプレミア価格やアイテムに使用されたイメージビジュアルだけが先行してしまい、そのアーティスト本人について詳しく知らないと言う人は案外少なくないのではないだろうか。それではせっかくのSupremeのユニークな人選が台無しだ。ブランドの意図を、そしてそのアーティストを知らずに着ているなんてあまりにもったいない。今からでも遅くはない。ここ1年でフィーチャーされたアーティストたちに今一度スポットライトを当て、彼らの経歴や作風について探ってみよう。そうすれば、あなたの手元にあるその一着にさらに愛着が湧くはずだ。

Public Enemy
- アメリカに抗った社会派ヒップホップユニット

アメリカの歴史とは、言わば人種差別問題の歴史でもある。それは時代の節々でときに大きな軋轢となり、その結果さまざまな団体や運動が生じることとなった。なかでも特筆すべきが“ブラック・パワー”だ。1960年代に急進的な黒人活動家たちによって発されたこのスローガン(あるいは運動)は、「黒人」と「権力」を結び付けたことによって、全米に大きな衝撃を与えることとなる。攻撃的な黒人解放運動家であるマルコム・Xを筆頭に、“Black is Beautiful”を唱えたストークリー・カーマイケルや、彼を党首としたブラック・パンサー党、回教徒であることを公表しベトナム徴兵を拒否したモハメッド・アリ、戯曲『白人へのブルース』を発表したジェイムズ・ボールドウィン、そして『ドゥ・ザ・ライト・シング』を監督したスパイク・リーなど、彼らは自らの得意分野で、黒人の地位や誇りのために声を荒げ社会と闘った。それはもちろん音楽の世界も例外ではない。60〜70年代には『ウィ・インシスト』を発表したマックス・ローチやアフリカン・アメリカンの不安感を歌ったラスト・ポエッツらがいた。けれど、“ブラック・パワー”を体現したアーティストと言えば、なんといってもパブリック・エナミーだろう。

1982年、チャック・Dがデフ・ジャムのリック・ルービンに見出されたのをきっかけに、DJターミネーターX、プロフェッサー・グリフ、フレイヴァー・フレイヴを迎えて結成されたニューfigureはロングアイランドのヒップホップグループだ。自らを“Public En emy(=社会の敵)”と名乗り、当時まだ新しかったヒップホップという音楽と過激なリリックを武器に、世界中に彼らの存在と“ブラック・パワー”の概念を知らしめ た。説明するよりこの動画を見てもらった方が早いかもしれない。彼らの代表曲「Fight the 1982年、チャック・Dがデフ・ジャムのリック・ルービンに見出されたのをきっかけに、DJターミネーターX、プロフェッサー・グリフ、フレイヴァー・フレイヴを迎えて結成されたニューfigureてに“ブラック・パワー”の哲学が反映されている。

結成から5年後の1987年には、デビューアルバム『YO!BUM ラッシュ・ザ・ショウ』をリリース。その翌年88年に発表されたセカンドアルバム『パブリック・エナミー・II』は、ヒップホップ史に残る名盤として今なお高い人気を誇っている。この2枚のアルバムによってミュージックシーンのトップに躍り出た彼らだったが、89年に問題が勃発してしまう。メンバーの一人であるプロフェッサー・グリフが、ワシントン・タイムズ紙のインタビューに応え、ユダヤ人は「この世の中で起こる邪悪なことの大半」に責任があると断言し、パブリック・エナミーが世間からの大バッシングを浴びてしまったのだ。この騒ぎを抑えるために、チャック・Dはグリフをパブリック・エナミーから解雇してしまう。そんな困難を乗り越え、1990年にリリースされたサードアルバムが『ブラック・プラネット(Fear of a Black Planet)』だ。先に紹介した「Fight the Power」などを収録し、ファースト、セカンドよりもさらに過激で痛烈な社会的なメッセージを込めた本作は、驚異的な売り上げを記録し、全米ポップチャートでトップ10入りを果たした。ジャケットワーク、内容、セールス、評価、すべてにおいてズバ抜けているヒップホップの金字塔的アルバム『ブラック・プラネット』。2018年のSupremeUNDERCOVERのコラボレーションによる最新プロジェクトでは、パブリック・エナミーにオマージュを捧げ、このアルバムをテーマに斬新なグラフィックを落とし込んだアイテムが発表された。Supremeは以前にもパブリック・エナミーとコラボレーションしていたし、UNDERCOVERもそのブランドの根底には社会や既存の概念へのアンチテーゼとしてのパンク精神が息づいているから、この三者が手を結んだことは当然といえば当然のことなのかもしれない。それでもやはり、このタイミングでのこのアルバムのチョイスと、そのアイテムへの落とし込み方は他のブランドは決して真似出来ないと思う。UNDERCOVERとタッグを組み、『ブラック・プラネット』をフィーチャーするSupremeのクリエイティビティ。その素晴らしさを知らず、ただのブランドオタクでいつづけるのか。それともそのクリエイションの裏側を知り、もっとファッションやアートを楽しむ側に回るのか。あなたはどっちだ?

Text_ LUDO OSHIKAWA


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