SUPREME 2018 COLLECTION

Supremeがフィーチャーしたアーティストたち – 1/4

アーティストとタッグを組み、そのアートワークをアイテムに落とし込む。もはやファッション業界において、この手法はなんら珍しいものではなくなった。ただ、そのフィーチャーするアーティストの人選においてSupremeに敵うブランドなんていないだろう。ソウルミュージックのレジェンドにアングラを切り取った写真家、社会に抗ったヒップホップグループからイギリスの天才映像作家まで、古今東西のアーティストを縦横無尽にピックアップし、世間をあっと驚かせる。実際に昨年2018年だけでもSupremeは10組以上のアーティストを取り上げ、そのいずれのシリーズも世界中で大きな話題を集め、瞬く間に完売していた。Supremeのコラボレーションシリーズは、もはや世界中のファッションフリークが期待し渇望しているプロジェクトと言っても過言ではないだろう。ただ、毎回そのプレミア価格やアイテムに使用されたイメージビジュアルだけが先行してしまい、そのアーティスト本人について詳しく知らないと言う人は案外少なくないのではないだろうか。それではせっかくのSupremeのユニークな人選が台無しだ。ブランドの意図を、そしてそのアーティストを知らずに着ているなんてあまりにもったいない。今からでも遅くはない。ここ1年でフィーチャーされたアーティストたちに今一度スポットライトを当て、彼らの経歴や作風について探ってみよう。そうすれば、あなたの手元にあるその一着にさらに愛着が湧くはずだ。

Marvin Gaye
- アメリカの影を歌った悲劇のソウルキング

最新のアーティストのコラボレーションでいうと、昨年12月に発表されたマーヴィン・ゲイの『What’s Going On?』のアルバムのジャケットを落とし込んだカプセルコレクションだろう。マーヴィン・ゲイ。音楽好きなら知らない人はいないであろうアメリカの伝説的なミュージシャンだ。1939年ワシントンD.C.にてプロテスタントの説教師であった厳格な父のもとに生まれ、幼い頃から地元の教会の聖歌隊に参加しシンガーとしての一歩を踏み出し、またそれと同時にドラムやピアノの演奏技術を習得ていったゲイ。いくつかのグループを練り歩いて実力をつけた後、モータウンレコードにその才能を見出され、プロのソロシンガーとしてのキャリアをスタートさせた。1960年代にはタミー・テレルとのデュエットの高い人気もあいまって、数々のヒット曲を世に送り出し、69年にはソロとして「悲しいうわさ」の大ヒットを放つ。そんな順風満帆とも言える彼のキャリアも、70年にテレルが夭折したことによって、音楽活動休止といった形でいったん幕を閉じてしまう。パートナーを失った絶望に加え、これまでの自身の音楽性に懐疑的になっていたゲイだったが、ベトナム戦争から復員した弟との再会をきっかけに、社会の理不尽さをテーマにした新たな音楽性を見出し、それを一枚のコンセプトアルバムとして発表するとによって見事音楽業界へカムバックを果たした。それがこの『What’s Going On?』だ。

反戦を歌ったあまりにも有名なタイトル曲に加え、全編を通して貧困、警察の横暴、ドラッグ問題、児童遺棄、都市の退廃、秩序不安といったアメリカの社会問題について言及された本アルバムは、セールス面で大成功を収めただけでなく、後世のミュージシャンたちに多大な影響を及ぼすこととなった。

雨の降り注ぐ中、遥か遠くを見つめるゲイのポートレイトを撮影したのは、モータウン専属のフォトグラファーとして活躍したジェームズ・ヘンディン。ジャケットの裏表紙には、ほぼ全身が写っているカットも掲載されている。イエローでまとめたシャツとネクタイに、黒のロングコート。『黒いジャガー』のリチャード・ラウンドトゥリーしかり、『アベンジャーズ』のサミュエル・L・ジャクソンしかり、黒人のブラックコート姿は本当に様になる。ゲイはその音楽性ばかりが注目されがちだが、ライブでの派手なスーツ姿やプライベートでのデニムの着こなしもカッコいいのでぜひチェックしてみてほしい。
『What’s Going On?』以降も、『Let's Get It On』や『I Want You』など数多の名盤を世に生み出したゲイだったが、1984年、自宅で両親の喧嘩を仲裁した際に父と口論になり、激昂した父が拳銃を発砲。至近距離でもろに銃弾を浴び、命を落とすこととなった。その日はゲイの45歳の誕生日の前日であったのに加え、父が使用した拳銃は彼自身がプレゼントしたものであった。説教師であった実の父親の手によって殺されるという非業の死を遂げたゲイ。しかし、彼の残した素晴らしいアルバムやその業績は今も音楽史に燦然と光輝いている。アルバム発表から約50年、彼の死から約40年経った今も、Supremeという世界トップのストリートブランドによってフィーチャーされているのがその何よりの証拠だ。でもなぜ、Supremeはこのタイミングで『What’s Going On?』をピックアップしたのだろう? それはもちろん、この作品がブラックミュージックの金字塔的作品だからということもあるだろうが、トランプが政権を握り、アメリカの影がまた色濃くなり始めている今現在だからこそ、この作品に、マーヴィン・ゲイの声に耳を傾けるべきだというSupremeからのメッセージなのかもしれない。

Text_ LUDO OSHIKAWA


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