TALKING ABOUT ARCHIVE WATCH Vol.02

尾崎雄飛氏が今も手放せない究極の1本とその理由

歳を重ねれば重ねるほど、その魅力に惹きつけられ、男心をくすぐる腕時計。男なら誰しも、一生モノの1本に出会いたいもの。しかし、他のファッションアイテムと比べると高額であることも関係してなのか、購入を検討すればするほど、自分のスタイルに合う1本を見つけ出すことが難しい。であれば洒落者たちから、その“判断基準”を学ぶこともひとつの手である。 今回は、腕時計好きとしても知られるアパレルブランド、SUN/kakkeのデザイナー、尾崎雄飛さんにお話を伺いました。貴方がアーカイブとして残したい究極の1本とその理由とは?

出世の後押しをしてくれた恩人
Mr. Ozaki chose 《IWC フリーガーUTC Ref 325102》

--- 腕時計に興味を持ちは始めたのはいつ頃からですか?

「今から20年近く前の20歳の時です。洋服屋に就職したくて、ファッションの世界に進むには、良い靴、良い腕時計を持っていなければダメだろうって思っていたんです。革靴はわりかし良いものを持っていたんですけど腕時計は持っていなくて。」

--- その時に購入されたものを今でもお持ちですか?

「はい。それが今回提案させていただくIWC(インターナショナル・ウォッチ・カンパニー)のフリーガーUTCです。当時住んでいた地元の名古屋で購入しました。」

--- その後、洋服屋に就職されたんですか?

「はい。名古屋の某セレクトショップに入社しました。」

--- “良い腕時計”としてIWCを選ばれたのはどうしてですか?

「例えばロレックスなどの選択肢もあったんでしょうけど、僕はロレックスが大好きだからという前提であえて言うと、当時はなんだか王道すぎてダサいといった感覚が少しあったんです。もう少し大人の方が身に付けるものだと思ってました。じゃあなぜIWCを選んだのか?ってとこなんですけど、正直そこまでハッキリとした理由は覚えてません。ただ、当時も今も魅力的な腕時計メーカーだと思っていることに変わりはないですね。」

アイバンC

ここでまず、《IWC フリーガーUTC》のブランド・モデル情報をおさらいしておきたい。1868年にアメリカ人時計技師によってスイスで創業したIWC。フリーガーUTCの“フリーガー”はドイツ語で“パイロット”の意味を持ち、“UTC”は、Coordinated universal time=協定世界時を意味する。尾崎さんが所有するのは、そんなIWC フリーガーUTCのIW325102。

--- IWC フリーガーUTCはパイロットウォッチですよね。同メーカーのパイロットウォッチと言えばマークシリーズが一般的ですが、フリーガーUTCを選ばれた理由は?

「マークシリーズも素敵な腕時計ですよね。ただ、あちらの文字盤には、UTCの表示がないからです。」

--- 当時の尾崎さんにとってUTC表示は、それほど大事な要素だったんですか?

「UTCは、今いる国と目的地や前にいた土地の二つの国の時刻が表示できる機能が備わっているモデル。先ほど“洋服屋になりたかった”と発言しましたが、洋服屋といってもバイヤーになるのが夢だったんです。この機能が日本と海外を股にかけて働くバイヤーという仕事には欠かせないものだと思って選びました。」

--- 素敵なストーリーですね。ちなみに尾崎さんのインスタを見ていると様々な腕時計をお持ちのようですが、今回のテーマとして同モデルをピックアップされた理由を教えてください。

「一番初めに購入した機械式時計であることと、今現在の職業の原点にもなったものだからです。そして、僕の出世を後押ししてくれたモデルでもあるんです。」

--- 出世を後押ししてくれたとは?

「とにかく職場の先輩からのウケが良かったんです。“最近入社した名古屋の尾崎って奴がいい腕時計を付けている”、“良い感性を持った奴がいる”って思って頂いていたらしくて。そのことがきっかけのひとつとなって東京の本社への辞令が出たんです。」

--- 聞くところによると、かなり早いペースで出世したとか。

「9月から働きはじめて、翌年の2月に辞令が出て、4月1日に東京で働きはじめました。そこから2ヶ月後にバイヤーとして海外へ出張に行けたんです。僕はこの腕時計がバイヤーになる夢へと導いてくれたんだと思っています。」

--- 腕時計と言えばかなり高価なもの。それ故に購入する際には慎重になりがちだと思います。尾崎さんの腕時計購入の《判断条件》、《絶対条件》を教えてください。

「自分のファッションスタイルにハマるかどうかです。それが一番大切ですね。その後にコンディションや値段で判断します。革靴と同じような感覚ですね。もちろん、腕時計と革靴とでは値段が全く違いますが(苦笑)。」

--- なるほど。

「革靴はスタイリングの重要な要素ですが、腕時計は最後の締めだと思っています。服装を決めて、最後に“じゃあ腕時計はどれにしよう”といった順番で決めています。」

--- 今回のIWC フリーガーUTCはどういった着こなしに付けたいですか?

「きれい目のスウェットパーカに濃い目のブルージーンズだったり、スラックスにジョンスメドレーのニットだとか。でも実を言うと、最近はあまりそういった着こなしをしないんですよ。だからもうひとつ別のパイロットウォッチを付けることが多いです。」

--- それはどのメーカーの個体ですか?

「RolexのGMTマスター Ref 1675です。」

ここでも、《Rolex GMTマスター》ブランド・モデル情報をおさらいしておきたい。1954年に発売が開始された、赤と青のツートンカラーベゼルが特徴的な人気銘柄。回転可能なベゼルと24時間針で異なるエリアの時刻を一目で把握できるこちらは、航空会社パンアメリカン航空との共同開発から生まれたパイロットウォッチ。ちなみに一部のマニアの間では、ベゼルの色が写真の様に赤×青のタイプを“ペプシ”、赤×黒を“コーク”、青×黒を“バットマン”といった愛称で分類されることがあるそう。尾崎さんが所有するのは、1975年に生産されたRolex GMTマスターのRef 1675。

--- 冒頭で“ロレックスはもう少し歳をとってから”とおっしゃってましたよね。ようやくその年齢に差し掛かってきたと。

「ロレックスは30歳になる頃に、そろそろ似合っているかなと思い安い物を購入しました。それでも、GMTのようにベゼルに数字が書いてあるタイプは、やはり高かったですし、見た目もアダルトでスポーティで、当時の自分の服装には合わないと思っていたんです。でもいまは自分がそういった年齢、着こなしになってきたのかなって。この歳でこの雰囲気でGMTを付けていても違和感がない、肩肘貼らずに付けられると思って3年ほど前に購入しました。」

--- スマートフォンの普及以降、腕時計の真価が問われ続けています。この時代に腕時計を身に付ける理由を教えてください。

「最近よく言われていることだとは思いますが、僕は全くそうは思わないんです。スマートフォンより腕時計の方が断然便利だって思ってますから。例えば海外で、“今、日本って何時だろう?”って調べたい時にiPhoneだと、勝手にその土地の時間に変わってしまって、調べるのに時間がかかる。その点、IWC フリーガーUTCやロレックス GMTなら、瞬時に日本時間を把握できるじゃないですか。」

--- なるほど。確かに言われてみればその通りですね。それでは機械式時計に関してはどうですか? 特に手巻き式だと不便だと感じることもあるんじゃないでしょうか?

「いや、それも全くないですよ。普段、腕時計をしない方からすると、不便だと思うかもしれませんが、長年、機会式時計をしてきた人で“不便だ”と言ってる人を僕は聞いたことがないです(笑)。確かに定期的に巻く作業が億劫になる人もいるかもしれないですけど、15秒くらいで終わる訳だし…。それに革靴だって爪先を磨かなければポテンシャルを発揮できない。めんどくさいと言えばめんどくさい作業ですけど、それが自分の生活の一部になると、ふとした瞬間にその行為自体に幸福感を味わえることもあるんじゃないでしょうか。」

--- “一生手放せないエバーグリーンをご紹介”といった企画でこういった質問はナンセンスですが……、次に購入を検討しているアイテムをこっそり教えてください。

「IWC x ポルシェ・デザインのコンパスウォッチという個体です。とてもユニークなデザインの腕時計なんですよ。実はこの企画のお話をいただいている時期に偶然見つけて、コンディションも良かったので購入しました。ずっと狙っていたわけではないですが、すごく良いタイミングだったので。腕時計を購入する時ってそういうものだったりもしますよね。縁も大切だと。」

尾崎雄飛/Yuhi Ozaki

SUN/kakke デザイナー
某セレクトショップでバイヤーを経験し、後にカットソーブランドのフィルメランジェを立ち上げる。独立後の2012年より“綺麗な服を丁寧につくる”をコンセプトとする自身のブランド、SUN/kakkeをスタート。

Photo_ Takaki Iwata
Text_ Hisanori Kato


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