TALKING ABOUT ARCHIVE WATCH Vol.01

坂田真彦氏が今も手放せない究極の1本とその理由

歳を重ねれば重ねるほど、その魅力に惹きつけられ、男心をくすぐる腕時計。男なら誰しも、一生モノの1本に出会いたいもの。しかし、他のファッションアイテムと比べると高額であることも関係してなのか、購入を検討すればするほど、自分のスタイルに合う1本を見つけ出すことが難しい。であれば洒落者たちから、その“判断基準”を学ぶこともひとつの手である。 今回は、腕時計好きとしても知られるクリエイター、Archive&Styleの代表、坂田 真彦さんにお話を伺いました。貴方がアーカイブとして残したい究極の1本とその理由とは?

アイバン

思い出の南極旅行(ひとり冒険)を共にした相棒
Mr. Sakata chose 《ROLEX EXPLORER II Ref.1655》

アイバンA

--- 腕時計に興味を持ち始めたのはいつ頃からですか?

「高校生の時から時計に興味はありましたが、本格的には21歳の時の初めての海外旅行でロンドンに行った時です。街外れのアンティークショップでロレックスのショックレジスティングを買ったのが最初です。」

--- 21歳の時にロンドンでロレックス購入とは随分と思い切った決断ですよね。

「腕時計だけに限った話ではないですが、いわゆる一流品への憧れというか、“なんでこれが認められているのかな”っていう好奇心からです。一流品といっても、決して高価なものに限った話ではなく、トラディショナルなもので長く認められていたりだとか、あるポジョションを確立しているものに興味があるんです。なのでその時の旅では、ジェーエム・ウエストンのローファーや、ロイヤル・エアフォースのブレザーなども買いました。決してお金があったわけではないですが、色々なものを切り詰めて良いものを知るってことは勉強になる。僕の場合は、デザイナーの道を志し始めた頃でもあったので自分への投資だと思っていました。」

--- 今回ご紹介いただく腕時計は、いつ頃ご購入されたんですか?

「ロレックス エクスプローラー II Ref.1655 ファーストモデルで5年くらい前に購入しました。」

アイバンB

--- どのような経緯・理由があってご購入されましたか?

「エクスプローラー IIは、探検家のために開発されたエクスプローラーから進化したスポーツロレックスのロングセラーモデル。やはり“探検家”というフレーズには、グッとくるものがありますよね。コンディション、プライス、探していた条件にぴったりだったので。」

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ここでまず、《ロレックス エクスプローラーII》のブランド・モデル情報をおさらいしておきたい。モデル名が示す通り、探検家のために開発されたエクスプローラーI。その上位機種として1971年に誕生したのが、オレンジの24時間針が印象的なエクスプローラーⅡ。坂田さんが所有するRef.1655は、1971年~1987年の間に製造されたファーストモデル。他品番には見られる丸いドットがない、ストレート針と呼ばれる秒針が同個体の特徴。こちらは通称「マークI」ダイヤルと呼ばれるものでファーストモデルの中でも73年製造の最初期のものと推測できる。

--- デザインだけでなく、探検家といったコンセプトも気に入られたんですね。

「僕が腕時計を購入する際は、プロダクトの背景にあるものも大切にしています。例えば、ロレックスのサブマリーナもデザインは好きなんだけど、つける勇気が持てません。というのも、僕には似合わないから。サブマリーナはあくまでも海が似合う腕時計だと思っていて。だから海が好きな人がつけるサブマリーナに僕は勝てないと(笑)。」

--- 自分らしい腕時計を身につけたいと。

「そうですね。じゃないと結局は手放すことになってしまいますから。でも、じゃあ僕が探検をするかっていうと、それはまた違うんですけどね。ただ、探検には人によって色々な解釈ができる。例えば上京するだとか、やったことがないことにチャレンジするってことも探検なのかもしれない。僕はそういった探究心を幾つになっても持ち続けていたいって思うんです。」

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--- 他にも様々な腕時計をお持ちだとお聞きしましたが、その中から同モデルをピックアップされた理由を教えてください。

「40代最後となった2019の年末に南極へ一人旅(ひとり冒険)に行ったんです。これはその旅を共にしたものだからです。」

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--- 南極旅行と聞くと、確かにエクスプローラー IIはふさわしい選択ですね。ただ、過酷な自然環境の場所に出向くとなれば、もっと機能的なデジタル時計の選択もあった気がしますが。

「自分の分岐点にもなる大切な旅だったので、どうしてもこれを身につけていきたかったんです。例え傷がついたとしても、それでいいと思ってました。実際に旅をしている最中、購入時に思った“探究心を持ち続けられる男でありたい”といった気持ちが蘇ってきて、“あっ、いい買い物ができたな”って改めて気づくことが出来ました。」

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--- やはりそういった場所にあえてロレックスをつけていくと、気持ちもより引き締まるんでしょうね。

「毎日、船の中で生活をするので、誰に会うわけでもないんですよ。でも、だからといってスウェットにフリースといったラフな着こなしで過ごそうとは思わないんです。普段から、“自分にとってベストなものを身につけていたい”と心がけています。妥協したものを選ぶと、そういった人になっちゃいそうで怖いんです。」

--- “妥協しないもの選び”とは素晴らしい考え方ですね。ちなみにファーストモデルを購入されたのには何か理由があるんですか?

「腕時計に限らず、例えばデニムなどにもいえることなんですが、僕にとってのファーストモデルは、まだ完成されていないもの特有の特別な魅力がある。ここからどんどん完成されていく。その完成された形もいいんですけど、ゼロから一になるのと、一から九とでは全く違う。そこをやったものの評価というか、そういった部分にデザイナーとしてグッとくるものがありますね。」

--- 腕時計にはよく、“映画で〇〇が着用したモデル”などのストーリーが存在しますが、坂田さんはそういった憧れの対象がいたしますか? 例えばエクスプローラー IIだったら、スティーブ・マックイーンが愛用していたなどの逸話が有名ですよね。

「いや、そのような部分への憧れはないですね。もう、誰かに影響を受ける年齢でもないですから(笑)。少し抽象的ですが、このジャガー・ルクルトを購入した時の様に“ゴールドが似合う男になりたい”だとか、そういった要素が大きいです。」

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--- 今回、もう一本持ってきていただいた個体ですね。

「これは、ジャガー・ルクルトのレベルソ デイト ピンクゴールド。33歳の時に“ゴールドの腕時計が似合う大人の男になりたい”と思って購入しました。最近はゴールドの腕時計もポピュラーな存在になってきましたが、17年前はあまり人気がなかったんですよ。なんだか成金というか、悪趣味なイメージが強かったんです(笑)。」

--- “悪趣味なイメージ”だったのに購入に至った経緯はなんだったんでしょう?

「当時ハロッズの仕事でロンドンに長期滞在する機会があって、イギリス人の着こなしに感銘を受けたんです。当時、僕が向こうで見かけたお洒落な方々の貴金属を取り入れた着こなしが素敵だったんです。その影響で帰国してすぐにこの個体を購入しました。」

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ここでも、《ジャガー・ルクルト レベルソ》のブランド・モデル情報をおさらいしておきたい。1833年のスイスでアントワーヌ・ルクルトにより創業。ラテン語で“回転する”の意味を持つレベルソのルーツは1930年代初頭にまで遡る。まだサファイヤガラスがなかった頃、ポロ競技に参加していたイギリス人将校が、試合中の衝撃に耐え得る腕時計の開発を要望したことが始まり。そこから生まれたのが、ケースを反転させるとダイヤルを格納できる反転式ケースが特徴のレベルソという訳だ。『バットマン ダークナイト』で資産家のブルース・ウェインが着用していたり、映画監督のクエンティン・タランティーノが愛用するなどのストーリーがある。坂田さんが愛用するのはジャガー・ルクルト レベルソ デイト。

--- 先ほどのエクスプローラー IIの男らしい佇まいとは対照的ともいえるエレガントな雰囲気が印象的ですね。

「レベルソが誕生した1930年代には、建築や芸術分野にアール・デコのデザイン様式が広まった歴史背景があります。そういった要素が取り入れられたデザインですよね。」

--- ポロ競技がきっかけで生まれたというストーリーも非常に面白いですね。

「当時の貴族の様な立ち位置の人たちが、『こういった腕時計を作れないか?』と要望を投げ、そこに答えるメーカーがいて職人がいて完成されたもの。そういった構図ってなんだか素敵じゃないですか。お客さんとメーカー・職人の関係性って大事にされ続けなければいけないものなんだなって改めて思います。自分の職業柄的にもそういったことは忘れてはいけないですよね。」

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--- こうしてお話を聞いていると、坂田さんにとっての腕時計は、単なるファッションの一部というよりも、もっと特別な存在なんですね。

「そうかもしれませんね。今回は持ってきませんでしたけど、25歳でデザイナーの道を歩む決心をして、その時に購入した腕時計があるんです。その様に自分の分岐点だったりだとか、憧れを持って“その腕時計にふさわしい男になりたい”と感じた時に購入することが多いです。大袈裟にいうと決意表明みたいな意気込みです。」

--- なるほど。

「すごく下手な表現だけど、女の人って“良い靴を買えば、その靴がいい場所へ連れて行ってくれる”といった買い物のいい訳みたいなものがあるじゃないですか。僕にとってのソレが腕時計なのかな。自分の目標とするスタイルの指針となるものです。」

坂田 真彦/MASAHIKO SAKATA

Archive&Style 代表
2004年にデザインスタジオのArchive&Styleをスタートし、様々なブランドのディレクションに携わる。2006年から2013年の間には、OR NOTの価値観にも通ず“古着とういうより価値ある服”をコンセプトとしたヴィンテージショップのArchive&Styleを運営していた。

Photo_ Takaki Iwata / Masahiko Sakata(Antarctic exploration)
Text_ Hisanori Kato


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