TALKING ABOUT ARCHIVE WATCH Vol.03

HIROTTON氏が今も手放せない究極の1本とその理由

歳を重ねれば重ねるほど、その魅力に惹きつけられ、男心をくすぐる腕時計。男なら誰しも、一生モノの1本に出会いたいもの。しかし、他のファッションアイテムと比べると高額であることも関係してなのか、購入を検討すればするほど、自分のスタイルに合う1本を見つけ出すことが難しい。さらに、決して高価だからと言って素晴らしいといった話でもないからよりややこしい。であれば洒落者たちから、その“判断基準”を学ぶこともひとつの手である。 今回はPUNKやオールドスケートのルーツが根底にあるアーティストのHIROTTON氏にお話を伺いました。貴方がアーカイブとして残したい究極の1本とその理由とは?

シーンをサポートするブランドの姿勢に共鳴
Mr. HIROTTON 《G-SHOCK DW-5600E》

--- 一番最初に付けた腕時計を覚えてますか?

「19歳の頃に購入したG-SHOCK GW 6900Aのイエローです。叔父からプレゼントされたものなんですが、一度壊れてしまい、自分で購入し直したものを使ってました。2つ合わせると10年以上愛用してますね」。

ここでまず、《GW 6900A》のブランド・モデル情報をおさらいしておきたい。“落としても壊れない丈夫な時計”のコンセプトで、1983年にカシオ計算機から誕生したG-SHOCK。こちらは、三つ目フェイスと呼ばれる独特のフォルムが特徴的なブランドを代表するモデル。

--- ヒロットンさんといえば、PUNKやスケートカルチャーをバックボーンに持つアーティスト。誠に勝手ながら、“時間になんて縛られたくない”といった思いから、腕時計を身に付けそうにないイメージがあるんですけど…。腕時計を身に付ける理由って何ですか?

「高校生の頃には既に携帯を持っていた世代なので、そこまで腕時計に時計としての役割を求めてなかったんだと思います(笑)。どちらかというとアクセサリーの延長みたいな感じですね。それこそ、10代の頃は腕まわりに鋲ベルや、蛍光の派手なリストバンドを付けていた時もありました。結局大人になっても、そういった頃の影響って心のどこかに色濃く残ってるものじゃないですか。だから幾つになっても、手首に主張の強いものを付けていたいんだと思います」。

--- 確かにヒロットンさんといえば、いつもイエローのG-SHOCKを身に付けている印象です。それにしても10年以上、1つのモデルを愛用し続けるなんて凄い。そこまで魅了される、何か特別な理由があるのでしょうか?

「スケートボードをするので、G-SHOCKの耐久性は役立つんです。それと、(購入した)19歳当時は美大に通っていて、毎日の様に溶接をしたりペンキを使っていたんです。なので、気を使わずに身に付けられる腕時計としての選択肢がこれでした。イエローを選んだのは、単純にイエローが好きだということ。当時の腕時計でこれだけ発色のいいものって、このメーカーしかなかった気がします。それと、取材の連絡を頂いた後に考えたんですけど、G-SHOCKに惹かれる理由って、おそらく高校生の頃に使っていたG'zOne C409CAという携帯電話の影響も大きい気がします」。

--- 2000年頃にauから登場したカシオ製の携帯電話ですね。

「そうです。G-SHOCKを担当したデザイナーが手掛けたもので、ゴツくてタフでオトコなら誰しもグッとくるような衝撃的なデザイン。うる覚えなんですが、G’zOneのCMも新鮮で。確かスケーターの岩崎シンゴさんが滑っていて雨が降ってきて、ポケットから携帯を落とすんです。携帯がビシャビシャになってるのに電話ができるといった内容だったと思います」。

--- ありましたね。懐かしい!

「それと、G’zOneには日本のパンクバンドの音楽が着メロとして初期設定の段階で入っていたりもして。とにかく当時の自分には衝撃的だったんですよ」。

アイバンC

--- 確かにスケートボードや音楽などのカルチャーに影響を受けるヘッズの食指が動く内容でしたよね。

「後、俺は大阪のチョッパーさんっていうスケーターに影響を受けてるんですけど、当時のG-SHOCKは彼をサポートしたりもしていました。とにかく、“大きな企業なのにストリートカルチャーをフックアップしている”そういった姿勢に子供ながら共感してたんですよ。今だとNIXONのような腕時計メーカーもありますけど、当時はそういった腕時計メーカーって自分が知る限りG-SHOCKだけだった気がします」。

--- なるほど。それではそのG-SHOCK 6900Aを見せてもらえますか。

「実は数年前に無くしちゃって(苦笑)」。

--- え、、、。

「でも、いつか必ず見つかると思ってるんです。というのも、今までに何回も落としたり、どこかに忘れたりしたけど、必ず出てきたんです。例えば、ロンドンに住んでいたことがあって、その時にスペインへ旅行に行ったことがあるんです。スペインはスケート天国で良いスポットが沢山あることでも有名なんですよ。その時にスケートパーク近くの海に行ったんです。G-SHOCKって水には強いけど海水には弱いと思って、海に入る前に外してそのまま忘れてホテルに帰っちゃって。だいぶ経ってから忘れたことに気付いて慌てて取りに行ったんですが、ちゃんとビーチに置いてありました。自宅でもよくなくなるんだけど、必ず何かのタイミングで出てきたんです。だからきっと、いつかひょんなタイミングで出てくるはずなんです」。

--- なるほど。ちなみに現在付けている腕時計もG-SHOCKですよね?

「はい。これは、G-SHOCKのDW-5600E。実はこれにも“一生手放さない”思入れのあるエピソードがあるんです。G-SHOCKが35周年を迎えた2018年の時に海外で配布されたカタログでお仕事をさせてもらったんです。これはその時にアートワークのモチーフとして使ったモデルなんです」。

ここでも、《G-SHOCK DW-5600E-1》モデル情報をおさらいしておきたい。G-SHOCKのファーストモデルとしていまだに根強い人気を誇るDW-5600C。写真のDW-5600E-1は、角型ケースなど、オリジナルのデザインを忠実に再現しながらアップデートを加えた復刻モデル。

--- それはスゴい!

「10代の頃からずっと愛用しているブランドだったから、仕事ができたことが何よりも嬉しかった。だからイエローとはまた違った思い入れがあるし、とても大切なもの。やっぱり10代の頃から憧れていた人やブランドと仕事ができると、なんだか感情深いものがありますよね。“俺は間違ってなかったな”と、自信にもなったというか。最近はこれを愛用しつつ、同じくらいの頻度で別のものも使ってます」。

--- こちらはどういったモデルですか?

「スケートボードのカルチャーを軸に創作活動を続ける野坂(稔和)さんが七福神をモチーフに描いたもの。スケートカルチャーに根付くスタイルを日本で確立した一人でもあると思うし、同じフィールドで絵を描かせていただいている自分にとってはリスペクトできる大先輩。自分もいつかこういったコラボが出来れば良いなって」。

ここでも、《G-SHOCK G-7900SLG-4JR》モデル情報をおさらいしておきたい。G-SHOCK誕生35周年を記念し、スケートボーダーであり画家の野坂 稔和氏が七福神をテーマにデザインしたシリーズ。ヒロットンさんが所有するのは、品番G-7900がベースとなった恵比寿モデル。

--- 最後にヒロットンさんにとっての腕時計って何ですか?

「あくまでも個人的な意見ですが、腕時計って綺麗に使うイメージがあるんですけど、G-SHOCKには良くも悪くもそれがない(笑)。デニムの様に汚れてもそれはそれで味になると思う。そこが最大の魅力ですかね。あと、俺は30歳を超えた今も、10代の頃と好きなことが全く同じなんです。だから今まで当たり前のようにG-SHOCKを身に着けてきたわけで…。その意味を深く考えたこともなかった。でもこうやって振り返ってみると、ちゃんと理由があったんだなって。デザインも大切だけど、ブランドの背景にあるものもしっかりと理解したいし、そういった(自分にとって)意味のあるものをこれからも身に付けていきたいですね」。

HIROTTON

影響を受けたカルチャーを軸にメッセージ性のある作品を緻密な線画で表現するペインター。HEROIN SKATEBOARDSといった超メジャー級のスケートカンパニーや、国内外様々な人気ブランドへのアートワーク提供でも注目を集める。20代前半にロンドンへ遊学した際には、伝説のパンクバンド・CRASSのコロニーに滞在経験も。

Photo_ Takaki Iwata
Text_ Hisanori Kato


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