TALKING ABOUT ARCHIVES Vol.23

江川“YOPPI”芳文氏に聞く、今(2020)気になるアーカイブとは?

元Hecticのディレクターとして、90年代以降の日本のファッションシーンに多大なる影響を与えたスケートボーダー。現在も、自身のブランドHombre NiñoやPLUS L by XLARGEのデザイナーとして活躍する人物。長年、シーンの最前線に立ち続けることができるその理由のひとつは、鋭い審美眼を持っているからなのかもしれません。
本企画では、そんな彼に、2020年に改めて注目したいアーカイブを聞いた。

江川“YOPPI”芳文氏

時代に左右されないストリートスタンダードたち

ヘクティク時代に交友を深めたアーティストや原点のひとつでもあるスケートボードのデッキ、
さらには独特な感性を持ったヨッピーさんならではといえる変化球的ネタまで、8つのアイテムをピックアップ。氏が自らiPhoneで撮影したデータを元にこれらアイテムを“今再認識する理由”をインタビュー。

STASHのアートワーク

どの時代に見ても斬新な
STASHのアートワーク

グラフィティライターとして80年代から活躍するNY出身のアーティスト、スタッシュ。日本では90年代に始めたアパレルブランド、サブウェアのデザイナーとしてもおなじみの人物。写真はそんなスタッシュとスノーボードブランド、バートンが90年代にリリースしたコラボアイテム。「息子の影響で最近またスノーボードを始めることになって。久しぶりに始めるとなれば、やっぱりモチベーションが上がるのは足元から。なので、今の気分にハマるグラフィックの板を探してました。でも最近の板ってシンプルな無地ものが多かったり、スノーサーフィン的なものが流行っている影響から、フィッシュテールの凝ったデザインだったりが多くて。もちろん、それはそれでかっこいいんですけど、僕にはシックリこなかったんです。そんなことを考えている時に事務所の倉庫で見つけたのがこれ。スタッシュといえばスプレー缶をモチーフにしたアートワークでお馴染み。そんな彼ならではといえる直球のデザインで、久しぶりに発見した時に“これでしょ!!”ってグッとくるものがありました。スタッシュのアートワークは、流行に関係なくいつ見ても斬新なんだってことが再確認できましたね」。バンダリズムとしてのグラフィティはストリートブランドとのコラボレートなどでより世間に広まり、今やより多くの人の間でアートとして認知され始めている。間違いなくスタッシュはその立役者の一人と言える存在。

Futuraのアートワーク

輪を広げ活躍し続ける大先生
Futuraのアートワーク

「スタッシュと同様にフューチュラのアートワークも、今見ても全く色褪せない魅力がある。70年代の登場以来(日本で注目を集め始めたのは90年代頃から)、独自の創作でいつの時代もその年々でシーンから注目を集めて輝いている。今現在は、フューチュラがフューチュラ2000と名乗っていた頃にまだキッズだった人たちが成長して影響力のあるクリエイターやデザイナーとなり、ジョイントワークで世間を沸かせていますよね。ストリートだけでなくメゾン系にもフィールドを広げ、より世界規模に浸透していっている。“次はどんなことで驚かせてくれるのか?”いまだに動向が気になる存在です。個人的にはそんなすごい大先生になっても、昔のフレンズを気にかけてくれる人柄にも惹かれてしまうんですよね」。さらにピックアップした2点について「フューチュラ関連のアイテムは他にも色々と持ってますが、今回はゼロ年代頃に僕が実際に愛用していたナイキのジャケットとマハリシのパンツを持ってきました。最近のものもいいですけど、僕は“今は買えない”といった優越感を持ちながらこれらアイテムをシレッと着こなそうかなって(笑)」。

BRITISH KNIGHTSのスニーカー

洋服の価値観を惑わす
BRITISH KNIGHTSのスニーカー

いくらネットで検索してもこれといった情報が出てこない、マイナー・スニーカーブランドのブリティッシュナイツ。ヨッピーさんがセレクトしたのは、これぞ90年代ともいうべきボッテリとしたシルエットが特徴的な1足。「当時、コンバースやポニー、ナイキのエアトレーナーSC、そして今回のブリテッシュナイツがこういったデザインのスニーカーを出していて。当時、憧れのスケーターでもある大瀧さん(T19・大瀧ひろし)などがよく履いてたんです。おそらくここらへんがサンプリングネタだと思うんですけど、それから30年近くたった今、トレンドの最先端を走るハイブランドが同じ様なルックスのスニーカーを出してますよね。やっぱり時代は回るんだな~、なんて考えながらネットでポチッと買いました。ちなみに値段は約20ドルと激安。ハイブランドのものだとこれの10倍、20倍はしますよね。なんだか感慨深い……。洋服の価値観を再定義させられる逸品として提案しました」。

BROOKLYN MACHINE WORKSの自転車

いまだ唯一無二の存在感を放つ
BROOKLYN MACHINE WORKSの自転車

ヨッピーさんといえば、好きが高じて自転車ショップを始めたことがあるほど無類のバイシクルホリックとしても有名。「僕は自転車をすぐにバラしてカスタムしちゃうんですけど、唯一これだけはバラさずにコンプリートで取ってある1台。すでに完成された普遍的なものなので手を加えづらい(苦笑)」と語り提案してくれたのは、1996年にNYのブルックリンで誕生し、日本でも90年代からゼロ年代にかけ、圧倒的な人気を誇ったブルックリンマシーンワークス(以下:BMW)のBMX。「これはBMW最初期のものだから96年代くらいのもの。僕の中でBMWの魅力といえば、アルミ削り出しのフロントフォーク。このフォークの無骨なデザインは、当時の自転車業界に物申す斬新すぎるデザインだったし、今見てもカッチョいい。同じ様なものを探そうと思ってもどこにも存在しない、まさに唯一無二なプロダクトだと思います。それにこのブランドは、見た目の部分だけでなくブランドの背景も素敵なんですよ。今はなきMCA(ビースティ・ボーイズ)の出資から始まった訳ですけど、その後にファレル(・ウィリアムス)がサポートしてブランドが継続。それにBMWのロゴデザインはスタッシュが担当してる。自転車ブランドなのにHIPHOPを感じるところも面白いですね」。そんなBMWはしばらく活動休止状態だったが、去年からまた本格始動したそう。

ストリートカルチャーのピンズ

身に付ける人の個性を表現する
ストリートカルチャーのピンズ

“改めて再注目したいアーカイブ”として思い浮かんだというのが、スケートカンパニーやストリートブランドのピンズ。「こういったアイテムって、その時にしか買えないものだったりするから、時代を切り取る貴重な存在だと思う。だから幾つになっても物欲を刺激するし、ついつい集めてしまう」。と話しながら手元のピンズについて「ティーンネイジ・ウルフやクリスチャンホソイ、スクリーミングハンドにサンタクルーズ、サブウエアといった昔のものや、僕が今関わっているオンブレニーニョのものです。それぞれ年代がバラバラなんだけど、こうやって並べて写真を撮ると全く違和感がない。なんだか不思議じゃないですか?!」。Tシャツに投影されるグラフィックは、着る人の趣味趣向を手っ取り早く表現できる、いわば名刺代わりのような存在。そういった感覚でピンズを着こなしに取り入れてみるのも良さそうだ。

Eamesの医療用ギプス

実はスケートとリンクする
Eamesの医療用ギプス

チャールズ&レイ・イームズ夫妻が生み出すイームズの家具。代表作ともいえるシェルチェアは、ミッドセンチュリーを代表するプロダクトとしてあまりにも有名だ。写真は足からお尻にかけてをサポートするイームズ製の医療用ギプス。「昔、僕や周りの人たちがイームズを掘り下げていた時に集めたもの」。イームズがアメリカ海軍にも支給していた木製のギプスで、正式名称はレッグ・スプリントというらしい。氏は昔、2つのレッグ・スプリントの間にライトを差し込んで照明器具として使っていたそうだ。この一風変わったアイテムを提案したのには、スケーターならではといえるこんな視点から。「スケートボードのコンケーブ(デッキが湾曲した部分)はイームズが開発した技術を応用したものだっていわれてるんです。そして、デッキって7枚の木の板を重ねて圧縮して作られた7プライと呼ばれるもので出来てるんですよ。その技術も元を正すとイームズが開発したものだとか。少し大袈裟だけど、もしもイームズがなかったら今のシーンは一体どうなっていたんですかね?」。スケートシーンが成熟した2020だからこそ、そんなことを改めて考えさせられるプロダクトだと話す。さらに「イームズは、家具を本来の目的としてだけでなく部屋に配置してインテリアとしても楽しむ新しい価値観を提案した家具メーカー。スケートボードも、デッキにグラフィックをのせて、それをアートとして部屋の壁に飾るといった点でなんだか繋がる気がするんですよ」。

PHIL FROSTのアートワーク

江川家の家宝
PHIL FROSTのアートワーク

DJ SHADOWのジャケットデザインを手掛けたことでも有名な、フィル・フロストのアートワーク。「昔、僕が携わっていたヘクティクのお店の壁にアートワークを描いてもらったことがあって。その時、フィル・フロストが自分の家に1ヶ月半くらいホームステイしていたんです。ある日、家に帰ったら(フィル・フロストが)良かれと思って、奥さんが大事にしてるギターケースにアートワークを描いていたんです。僕としては大喜びだったんですけど…、奥さんは大激怒で大喧嘩。これはその時のものです。時が経った今ようやく江川家の家宝になりました(笑)。最近のフィル・フロストは、スケートブランド、ハフとのコラボレートなどでも話題になっているそうで、そんな新しい動向にも注目しています」。

DOGTOWNのスケートデッキ

言わずと知れたエバーグリーン
DOGTOWNのスケートデッキ

70年代にベニスビーチで誕生した言わずと知れたスケートブランド、ドッグタウンのスケートデッキ。「僕がスケートボードに興味を持ち始めた頃に影響を受けた人たち、例えば大瀧さん(T19・大瀧ひろし)にアーロン・マレー、エリック・ドレッセンやミノさん(T19・三野タツヤ)らが乗っていたのがこのグラフィックでした」。そんな憧れの人たちに習って、10代の頃の江川少年も愛用していた思い入れの強い1枚だとか。「ドッグタウンのデッキはこれまでに何度も復刻されてるんですが、なぜかこのWEBというモデル(デザインはMichael Seiff)だけ復刻リリースされていなかったんです。でもつい最近、復刻されたことを知って“これはやばい”と迷わずに購入しました。僕ら世代のスケーターにとっては中々のビックニュース。タイミングって何かの縁ですし、温故知新じゃないけど、これをきっかけに2020年はこの当時のスケートカルチャーをもう一度見直してみようかなって」。

江川“YOPPI”芳文

東京を代表するスケートボード集団 T19のメンバー。90年代~ゼロ年代に“裏原ブーム”の火付け役ともなった伝説的ブランド、HECTICのディレクター。ゼロ年代に世界で同時多発的に巻き起こったピストブームを牽引したひとりでもあり、CARNIVAL TOKYOという自転車ショップを経営した過去も持つ。現在は自身のブランドHombre NiñoやPLUS L by XLARGEのデザイナーとして活躍。

Photo_ Yoshifumi Yoppi Egawa
Text_ Hisanori Kato