TALKING ABOUT DESIGNER Vol.02

新時代を切り開くデザイナー Kim Jones モードとストリートを繋ぐクリエーション

ファッションの歴史を振り返るといつの時代にも流れを変えたデザイナーが存在する。ドレス全盛期の時代にシックなブラックのテーラードジャケットを女性に提案したココ・シャネル、カラフルで奇抜なデザインが多かった時代にミニマルで洗練されたスタイルで人々を魅了したヘルムート・ラング、そしてスキニーなロックスタイルで多くの信者を作ったエディ・スリマン。それぞれタイプは異なるが独自のスタイルでファッションの流れを変えてきたデザイナーだ。現在DIORのクリエイティブディレクターを務めるキム・ジョーンズもその一人と言えるだろう。様々な分野の知識に長けた彼は、自らの好きなものをメゾンの最高峰に取り入れ、新たな価値観を作り上げた。コラボレーションの意味を理解し、両者でしかできないクリエーションをファッション業界の最前線で行う彼の戦略とその背景に迫る。

卒業コレクション、ロンドンファッションウィークでのデビューコレクションと当時から彼のコレクションは、自分自身の生い立ち、自身が経験したカルチャーからインスピレーションを得る手法であった。その後、母国を代表するブランドUmbroやdunhillを経て、Louis Vuittonのデザイナーへと就任する。Louis Vuittonに移籍したジョーンズ は、コラボレーションをコレクションへと落とし込み、新たなLouis Vuitton像を作り出す。 元々ストリートシーンで生み出されたコラボレーション(ダブルネーム)という手法を大胆にもメゾンの最高峰で次々と行っていくのは、ストリートシーンを経験し、その強みを理解しているジョーンズらしいと言えるだろう。

Louis Vuittonのデビューコレクションでは、自身が幼少期に過ごしたアフリカのマサイ族が作り上げたマサイチェックをダミエ柄とミックスする形でコレクションに融合した。その後は、イギリスから日本へと移り住み、テーラードの聖地であるサヴィルロウとパンク、ストリートの要素をミックスさせたスタイルを作り上げたクリストファー・ネメスへの敬意を払い、彼が作り上げたロープグラフィックをコレクションに大胆に落とし込んだ。さらには、彼が大きく影響を受けた裏原宿カルチャーのゴッドファーザー藤原ヒロシ氏の手がけるfragment designとのコラボレーションを展開。さらにはラグジュアリーとストリートを結ぶきっかけとなったSupremeとの歴史的コラボレーションを行う。両ブランドのパワフルなロゴを大胆に使用したコラボレーションは、Supremeのファン、そしてストリートに対して懐疑的な意見を持つ人々すらも魅了し世界中で大きなムーブメントを起こした。

DIORのデザイナーへと就任した彼のクリエーションはさらに独自の道を切り開いていくことになる。AMBUSHを手掛けるユンや1017ALYX 9SMを手掛けるマシューをチームへと加えて制作されたDIORでのファーストコレクションは、現代アーティストカウズとのコラボレーションを発表。DIORを象徴する美しい輝きを放つテーラードにポップなロゴやグラフィックが落とし込まれたアイテムの融合は、新たな方向性を感じさせた。DIOR移籍後のジョーンズはよりアートとファッションのつながりを重視したクリエーションを行っていく。空山基氏とのコラボレーションとして制作されたコレクションでは、高級感のあるテーラードと彼のアートを落とし込んだアイテムをミックスさせ、近未来風の世界観を披露した。その後、現代アーティストのダニエル・アーシャムとのコラボレーションでは、未来からの発掘物をテーマとする彼の手法フューチャーリリックをコレクション全体に落とし込んだ。そして、STUSSYの創設者であるショーン・ステューシー、スニーカーカルチャーの原点Air Jordanとの歴史的なコラボレーションを行う。コレクションでは、ショーンが作り上げた独自のフォントや彼が手掛けていた時代を彷彿とさせるグラフィックをコレクション全体に採用。イギリスで初期のSTUSSYのディストリビューションを手掛けていたGimme Fiveで働いていたジョーンズは、STUSSYのコミュニティの一員でもありストリートとラグジュアリーの融合という意味では完成形を思わせるほどのコレクションを作りあげた。

直近では、自身の友人でありパンクファッションの礎を作り上げたスタイリスト、故ジュディ・ブレイムへオマージュを捧げたコレクションを制作。キム・ジョーンズ自身がコレクションしていたパンクなアクセサリーを彷彿とさせるものやジュディも所縁ある伝説的クリエイティブチームバッファローから着想を得たベレー帽もコレクションには登場した。

彼がLouis Vuitton、そしてDIORで行ってきたクリエーションは、単なるブランド同士やアーティストとの組み合わせではない。デザイナーズ、ストリート、そしてアートや音楽、映画などのサブカルシャーに精通し、自身が実際に体験してきたカルチャーだからこそ生み出される本物の輝き、そして強い説得力がある。相手の特徴やアーカイブを理解した上で最高水準の生産背景を用いて作り上げられるプロダクトは、どれも後世に語り継がれる逸品だ。 メゾンのトップを走り続けながらも、ストリート的な手法を駆使する現代的なデザイナーキム・ジョーンズ、今後も彼のクリエーションから目が離せない。

Text_ SHUHEI HASEGAWA


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