TALKING ABOUT DESIGNER Vol.01
新時代を切り開くデザイナー Kim Jones クリエイションと深く結びつく学生時代
ファッションの歴史を振り返るといつの時代にも流れを変えたデザイナーが存在する。ドレス全盛期の時代にシックなブラックのテーラードジャケットを女性に提案したココ・シャネル、カラフルで奇抜なデザインが多かった時代にミニマルで洗練されたスタイルで人々を魅了したヘルムート・ラング、そしてスキニーなロックスタイルで多くの信者を作ったエディ・スリマン。それぞれタイプは異なるが独自のスタイルでファッションの流れを変えてきたデザイナーだ。現在DIORのクリエイティブディレクターを務めるキム・ジョーンズもその一人と言えるだろう。様々な分野の知識に長けた彼は、自らの好きなものをメゾンの最高峰に取り入れ、新たな価値観を作り上げた。コラボレーションの意味を理解し、両者でしかできないクリエイションをファッション業界の最前線で行う彼の戦略とその背景に迫る。
キム・ジョーンズは、 1979年にロンドンで生まれ、幼い頃は水理地質学者だった父親の転勤で、アマゾン、タンザニア、ケニアなど南米やアフリカの様々な国を渡り歩いた。成長しファッションに興味を持ち始めた彼は、初期の裏原宿系ブランドUNDERCOVER、A Bathing Ape、Goodenoughなどにリーバイスを着用し、スケーターやハードコアキッズと共に時間を過ごすようになった。好奇心旺盛な彼の興味は、ファッションに加えてハウスやテクノなどのミュージックシーン、スターウォーズ、猿の惑星などの映画、さらには、スケートやパンクなどロンドンのサブカルチャーシーンへと広がり、多くのカルチャーに触れる刺激的な毎日を送った。その頃からジョーンズのコレクター気質が始まる。SEDITIONARIES、Vivienne WestwoodやJohn Paul Gaultier、ISSEY MIYAKE、Kristopher NemethをはじめとしたブランドやNikeのスニーカー、ヴィンテージ、アートに加えてリー・バウアーがショーで披露したアイテム、バッファローの衣装などアーカイブという言葉が存在しない時代からジョーンズは、後世に残る歴史的なピースを見分け収集してきた。彼の膨大なコレクションは有名で多くのコレクターが喉から手が出るような貴重なアイテムを多数所持している。彼がそんな貴重なアーカイブコレクションを築けたのは、 ウエスト・ロンドンのヴィンテージショップRellikのスティーヴン・フィリップの審美眼によりものが大きい。ジョーンズが慕った彼女は、彼の興味のありそうな物を常に見せてあげたという。
その後、ジョーンズは、キャンバーウェル・カレッジ・オブ・アーツに入学、写真とグラフィックを学び、ロンドンの名門セントラル・セント・マーチンズの友人を通じて知り合った同校ファッション科のディレクター、ファビオ・ピラスより入学を勧められ、同校へと進学した。同時期に International Stussy Tribeの初期メンバーで、SupremeやUNDERCOVER、A Bathing Apeなどのストリートウェアブランドのディストリビューター、Gimme Fiveの創立者マイケル・コペルマンのもとで働き始めた。そこで彼は、尊敬する裏原カルチャーを牽引した藤原ヒロシ氏やNIGO氏、高橋盾氏と出会う。ジョーンズは、彼らのクリエイションや思考プロセスが自身に大きな影響を与えたと語っている。2002年に発表した卒業コレクションは、生地から彼が製作したもので彼の好きなサブカルチャーがミックスされたシンプルながらも作り込まれたコレクションだったという。彼自身の手元に残しておきたかったというほどお気に入りのコレクションであったが現Maison Margielaのデザイナーを務めるジョン・ガリアーノに大半を購入されてしまったというのは有名な話だ。 約1年後、ジョーンズは、自身がコレクションしてきたアーカイブの一部をeBayで売却、その資金を元手に、ロンドン・ファッション・ウィークでデビューを果たす。
Text_ SHUHEI HASEGAWA