TALKING ABOUT ARCHIVES Vol.06

シトウレイ氏のずっと大切にしたいアーカイブ(前編)

シトウレイ氏

 東京のみならず、世界を股にかけ、オフランウェイを撮影し続けるフォトグラファー、そしてジャーナリストのシトウ レイさん。ファッションアイコンとしても支持される彼女は、最新コレクションだけでなく、アーカイブを自分らしくフレッシュに着こなすのも得意。そこで、自身のクローゼットで長年サバイブしてきた精鋭を披露しながら、時代を超えて愛される名品の魅力を紐解いてくれた。「海外スナップを始めたばかりの頃」だという、特に思い入れが深い2000年代初頭を振り返り、過去と現在を繋ぐインタビュー。

---Maison Margiela (旧 Maison Martin Margiela)のTabiシリーズをコレクションしているそうですね。

「履き口を絞れるデザインのブーツや、スニーカー、パンプスなど、10足くらい集めています。実は、今日履いてきたものが初めて手にしたTabiシリーズなの。2000年代初頭に、当時付き合っていた彼がオークションで見つけてプレゼントしてくれたんです。徐々にペンキが剥がれて、経年変化を楽しめるデザインがお気に入り。ジョン・ガリアーノがクリエイティブディレクターになってからも、Martin Margiela時代のDNAが受け継がれているので、シューズは変わらず好きですね。パリコレクションでスナップを撮って、頑張ったときのご褒美として購入することが多いです。事前チェックはあえてせず『見たことないもの』を基準に選びます」

Maison Margiela Tabi
Maison Margiela "Tabi"

---ブランドの魅力とは?

「ブランドについて最初におしえてくれたのは、トーキョー リッパーを主宰していた親友、佐藤秀昭さんでした。彼が熱くフィロソフィーを語ってくれたので、影響を受けましたね。そこで気づいたのは、視点を少しズラしただけで、見慣れたものですら、全く新しいものに変身させるところ。たとえば、結婚指輪を想起させるダイアモンドのリングがあったとしたら、大胆に半分カットされていたりするんです。ほかには、拡大、縮小するだけで既視感をぬぐい去ったり、アプローチ方法はとてもシンプルなのに、いつ見ても新鮮な仕上がりがいい」

---Tabiシリーズに魅了されたきっかけは何だったのでしょうか?

「2000年代初頭に、ストリートスナップを撮らせてくれた男性が、黒のTabiブーツをさらりと履きこなしていたのが最高に格好良くて。ウィメンズほどヒールが高くないというのもあり、トゥが割れていても、自然な佇まいが素敵でした。その頃、周りの友達でもちらほら履いているひとがいて、次第にわたしも欲しい!と思うようになりましたね」

シトウレイ氏
シトウレイ氏

---2006年からパリやミラノなどでスナップをされていますが、海外の人々のTabiシリーズの着用率に変化はありますか?

「13年前を思い返すと、わたしの足元を見て『鹿か!』って突っ込んでくるひともいたくらい、誰も履いていなかったの(笑)。今こそ、東京のおしゃれな大人女子にはとても人気ですが、海外での着用率はそこまで高くないんですよ。モード界は、どんどんトレンドのタームが短くなって、高価な物が売れにくくなっていますね。Tabiシリーズの価格も徐々に上がっているので、世界的に見たらごく一部にファンがいる感じ。マーケットを意識すると、より手が届きやすい価格でワードローブにないものを買う傾向があるから、珍しいデザインに出合えるアーカイブにたどり着くひとも多いのでは」

---Tabiブーツに合わせた洋服についてもおしえてください。

「スカートは、COMME des GARÇONSのアーカイブ。渋谷にあった古着屋さん、BOYの奥富直人さんとフリーマーケットをしたときに、物々交換したんですよ。ウィメンズを男性が履いていたと思うと、驚きますよね。デザインが気に入っているだけでなく、大好きな友達から譲ってもらったので、宝物です。Tシャツは、ミスターハリウッドのショップオープンのノベルティ。Maison Martin Margielaについておしえてくれた佐藤さんが、大学生の頃に『ワインとTシャツは寝かすに限る』って言っていたのをずっと実践していて(笑)。今こそ出番だと思ったので、クローゼットから引っ張りだしました」

COMME des GARÇONSのスカート
COMME des GARÇONSのスカート

---今日見せてくださったコレクションは、経年変化を楽しめたり、時がたってこそ輝くアイテムという印象ですが、自身の言葉で心踊るアーカイブを表現すると?

「アーカイブって攻めのデザインが多いと思うんです。デザイナーの克己心を感じる難易度の高いものに出合うとワクワクしますね。だから、自分の言葉で表現するなら、挑戦できるもの。チャレンジ精神をくすぐる刺激的なものを着ていたいという意味で、一生地に足がついていたくないから、アーカイブが好きなんです」

シトウ レイ

日本を代表するストリートスタイルフォトグラファー。世界各地で撮影したスナップを、自身が主宰するブログ『STYLE from TOKYO』で紹介している。

http://reishito.com

Photography_ OKABE TOKYO
Interview &Text_ AYANA TAKEUCHI

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