TALKING ABOUT ARCHIVES Vol.12

BEAMS SSZ加藤忠幸氏のクリエイションの源となるアーカイブ

 日本が世界に誇るセレクトショップであるBEAMS。そのメンズカジュアルセクションの中でも、SURF&SK8部門のバイヤーを務める加藤忠幸さん。現在ではBEAMS社内から生まれた人気ブランド、SSZ のディレクターとしても活躍し、サーフ、スケートボードのファッションに関しての知識と熱量、愛情においては右に出る者がいないという存在であり、彼のクリエイションはシーズンごとに、世代も様々な新たなファンを獲得している。基本的に一度手に入れた洋服は手放さないという加藤さん、そのクリエイションの背後にあるアーカイブについて話を聞いた。

---ここ最近、日本でもアーカイブという概念が一般化して来て、古着屋さんの在り方っていうのが多様化して来ていると思うんですよね。色んな価値観が生まれて、そのお店なりの打ち出しを感じられるというか。そういうことって加藤さんも感じることはありますか?

「そういうお店、多いかも! 昔、サンタモニカが凄い好きでよく行ってたんだけど、レジの裏に打ち出しアイテムみたいなのが置いてあって。バブアーとか、フリーメイソン系のアイテムとか。そういうのって、凄い伝わり易くて良いなって思ってました。古着屋さんのレジ下とかも、そこに置いてあるものを知らなくても、綺麗にディスプレイされてるってなると、これは一押しなんだろうな、良いものなのかな? とかって見るし、そうなるとどんどん良く感じて来たりして。
古着、いっとき高くなり過ぎた時があったじゃ無いですか。ヴィンテージブームの頃。その頃は、ちょっと離れてたんですよね。で、レギュラーっていうか、価値があるか無いかとかは分からないけど、自分が気に入ったデザインのものを買うようになって、そこから自分の振り幅が広がりましたね。そういうのを掘っていくと、今度は逆に、デザイナーがしっかり作った洋服が欲しくなるなって思ったりもするし。 」

BEAMS SSZ加藤忠幸氏
BEAMS SSZ 加藤忠幸氏

---ここ最近だと、デザイナーズのアイテムを扱っている古着屋さんが増えてきていますよね。このOR NOTのECもそうですが。

「確かに昔の古着屋さんにはデザイナーズものが並んでるってのはなかなか無かったけど、今だと自分たちが当時買っていたデザイナーズものが古着として置いてあったりするし。昔のアメリカのスリフトみたいなっていうか、ゴチャゴチャと何でもあるみたいな状況になって来てますね。これまでの日本の古着屋さんって、ヴィンテージのものとか、昔から価値のあるものを置いていて、たまにレギュラー古着みたいのが置いてあるっていう感じだったし、洋服屋の仲間うちで古着屋に行ってくるっていうと、価値のある古着を掘ってくるっていう感じでしたけど、だいぶ変わって来てる。」

BEAMS SSZ加藤忠幸氏のデニム

---加藤さんがスケートやサーフブランドのアイテムに造詣が深いのは有名ですが、こんなに沢山のデニムを集めていたというのが意外でした。

「やっぱり、自分が今やっているSSZは、知ってる人は知ってるんですけど、パンツブランドかっていうくらいパンツには力を入れてて。やっぱり、男のファッションがどこに行き着くかっていったらパンツだと思っていて。なんでそう思うかっていうと、パンツの量が、今まで買って来た洋服の中でTシャツの次に多いんだよね。で、自分でもパンツにはこだわってるって言っちゃってるのに、あいつは何のパンツを持っていて、何を知ってるんだ? みたいに思われたくないから、これもあれも持ってますよみたいな。やっぱり、説得力ない奴ってダメだと思っちゃうんですよ。このシルエット、あれに似てるねって言われたら、そのパンツを自分で持っていればどういうことか確認できるし、持っていなかったら伝わらないなって思って。だから、実はヴィンテージのデニムだろうが、ちょっと変なデザインのパンツだろうが気にしないで、良いなと思ったやつは買ってみて、穿いてみて、よく見る、で、良さを自分で実感できるようにしてます。」

---なるほど。確かに、SSZのパンツは逸品ぞろいですよね。

「SSZで過去にデニムも作ってるんですけど、いろんなデニムを履いてきたからこそ、かなりこだわってます。
例えば、Leeのパンツとか、バックポケットのデザインが少し離れた配置で、デン! とした漢らしさを感じるんだよね。それにLeeのペインターも良くて、俺は暑がりだから、ライトオンスのデニムって凄い好きです。あと、意外とMAVERICKとかもスケーターのジェイソン・アダムスが履いていたので、買っていましたね。
他には、wranglerのチープな縦落ち感が好きでよく穿いてたっす。お尻周りがルーズで、テーパード具合も良かったりして。
レディースのパンツとかも嫌いじゃないですね。お尻周りが大きくて、ギュっと脚の部分が細くなってたり。それをオーバーサイズで穿くのがすげー格好良くて。
ただ、色んなパンツを穿いて来て、結果的に一番フィットしたのはやっぱりルーズフィットでしたね。だから、結局はSSZのパンツって、Levi’sでいうと”Silver Tab”なんです。
それは俺がBEAMSに入社して、BEAMS TOKYOに配属されたときに、そこの先輩でスケーターの人がいて。そのとき俺は”502”を穿いてたのかな? “501”の方が勿論スタンダードなんだけど、ボタンフライって面倒臭いじゃん。で、その先輩に、お前サーフィンとかスケート好きだったらこれ良いよって勧められたのが”Silver Tab”で。大学の時にも何本か買ってたけど、改めて穿いてみたら凄い良くて。」

Silver Tab
Silver Tab

「このなかの1本はその先輩から貰ったやつで、もう一本はメキシコに新婚旅行に行ったときに買ったやつ。やっぱりお尻のルーズ感から裾にかけてのテーパード感がとにかく気に入ってます。」

---“Silver Tab”にも色々な形がありますが、加藤さんのお気に入りはどの形ですか?

「”Loose”ですね! “BAGGY”だともっと太くて、”Loose”の方がテーパード感が良いんですよね。メキシコでは、このジーンズにトップスをインしてメキシカンが着ていたのが超格好良くて。ベルトをガッチリ締めて、Tシャツがちょっと腰に垂れてる感じが格好良くて、速攻真似したんだけど、カミさんから止めなよって言われて(笑)。まぁ、今の自分にはサイズが小さくて穿けないんだけど、やっぱりルーズなパンツを作ろうってなったら、こいつを取り出して参考にしましたね。やっぱり実際に物を見ないと、浮かんでこないんだよね。具体的に作りたいなって思ったら、ベースになるものを手にしたいなって。」

---今でこそSSZのサンプルとして洋服を所有するという視点があると思うんですが、そもそも昔から買った洋服は余り手放さないんですか?

「そうですね。やっぱり、出会いなんだよね、服も。人もそうなんだけど、出会いを大事にしたいよね。思い出があるからなかなか捨てられなくて。逆に洋服をどんどん整理出来る人っていうのも羨ましいけどね。Tシャツなんて特に気分で買ってるから、無くなっても気にならないのかなって思うときもあるんだけど、やっぱり、あれ? あのとき買ったTシャツどこだ? みたいなことがあって。スケートビデオとかを見ると好きなライダーとかが茶色のパンツにブルーのTシャツとか着てると、うわ! あのとき俺もブルーのTシャツ買ったよ! って探し出すんだよね(笑)。やっぱり今になると、白とか黒とか決まった色を買いがちなんだけど、昔って、色んな影響を受けちゃうから白黒以外のTシャツも沢山買ってたし。結局こういうのって周期があって、着てない時期があっても、また着たいって思うことがあるんで、取り敢えず手放さないっていう。」

ANTIHEROのTシャツ

「今日持って来ているのはANTIHEROのTシャツなんだけど、ここの90年代のものとか00年代初頭のものとか、価値があるのか無いのか俺も全然気にしてなくて。俺の中では、絶対に捨てられないやつ。サイズもMとか最近着ないし、ものによってはSとかもあるんだけど、グラフィックで買ってるから、持っておきたいものなんだよね。手放せない。」

---ヴィンテージのXXとかを買っていた頃も、いわゆるレギュラーの古着もチェックしてたんですか?

「勿論、そこは並行して。自分はギャップのある合わせっていうのが凄い好きで。俺が学生だった頃って、それが凄いお洒落とされていたし、その感覚って日本人っぽいのかなと思うんですよね。XXに無地Tなんだけど、凄い高級ブランドのアクセサリー付けてみたいな。外人だと、余りそういうミックスしないと思うんですよ。けど、それが凄い洒落てるな、東京だなっていう感じがしてて。」

BEAMS SSZ 加藤忠幸氏
BEAMS SSZ 加藤忠幸氏

---今でこそ、その感覚って世界的に共有されて来ていますよね。NYのワークウェア屋さんのオリジナルTシャツが御洒落なものとして扱われていたり。

「今、世界的に活躍されてるデザイナーの人って、意外と同じ年代の方が多いから、物作りをしていて、自分なんかとは土俵が違うかもしれないけど、わかるな〜って感じあるっすよね。実際どうなのかは分からないけど、日本のファッションシーン、90年代とか00年代初頭とかの日本のカルチャーとかが絶対好きだったり、影響受けてるんだろうなって思うんですよね。」

---カジュアルな服装に、Hermesのターボを合わせたりみたいな。

「そう、マジでそこら辺洒落てたっすよね。自分の服も、全身SSZっていうよりかは、ギャップのあるブランドと組み合わせてもらっても面白いのかなって思うんですよね。」

スケートブランドの小物
キャップ

「スケートブランドの小物は結構集めてます。今日はANTIHEROのものを沢山持って来たんですけど。やっぱり格好良いんですよ。栓抜きとかあんまり使わないんですけど、ついつい買っちゃうし。キャップだって、すげー被るかって言ったら、全然被らないんだけど、このアメリカ感良いよなって感じで買っちゃうんですよね。今でも気に入ったグラフィックのものであれば、被らなくても買っちゃいますね。トラッカーキャップとかも本当に被らないけど、良いんですよね。こういうのが家の何処かにあって、たまにフとあれどこにいったかな? って感じで探し出して、見つけて、やっぱり良いなこれって思って、ちょっと被ったりするけど、すぐやめるみたいな。キャップとか似合わないんだけどな、なんなんだろ。」

BIRDWELLのジャケット

「BEAMSに入社した当初はBIRDWELLのパンツに凄いハマっていたので、パンツも沢山持ってるんですけど、今回はジャケット縛りで。このジャケットは撥水性がとかそういうんじゃないんだけど、カリフォルニアでサーフィン好きな人は皆BIRDWELLを知ってるから。雰囲気があるんですよね。着込んでいくうちに。サーフニールナイロンって言って、濡れて乾くと丈夫になるっていうナイロン生地で。洗っていくとしなやかになって、乾きも早いから、サーファーには本当に良いんですよ。」

---SSZでもBIRDWELLをモチーフにしたジャケットを作られていましたよね。裏地にポケットが沢山付いているやつで、バリー・マギーことツイストにオマージュを捧げた一品でしたよね。

「そう。それと、昔スケートショップのセールで買ったRVCAのネック・フェイスがデザインしたGジャンがあって、パッと見は全くネック・フェイス感が表に出てないんですけど、ボタンだけ、RVCAの文字がネック・フェイスが描いたフォントになっていて。で、開けると内側にネック・フェイスの妖怪みたいな顔がバーっとプリントしてあって、マジックが入れれるくらいの小さいポケットが背中に凄い沢山付いてるジャケットがあって。それは着ないんだけど、デザインが良いから部屋に飾ろうと思って買って。ツイストはライターだから、その内側のスプレー缶とかマジック用っぽいポケットディテールを取り入れようかなと思って。だからSSZで作った”BIRDWEP”はBIRDWELLとRVCAから出たネック・フェイスのジャケットのミックスになってるんです。最近はモノづくり、ミックスが多いかもしれないです。やっぱり90年代に凄い服とかファッションが好きだったから、ミックスするっていうのがやっぱり全体的に多くて。それが良いのかどうか分からないけど、ミックスして良いなって感じるものが多かったから、自分もそうしてるのかもしれないです。コラボっていうのも、ミックスみたいな感覚から生まれたのかもしれないですよね。そういうミックス感で洋服を作っている人って、今の時代って多いですよね。だから、分かるな〜って思うんだと思いますね。」

加藤忠幸 / Tadayuki Kato

BEAMSバイヤー / SSZディレクター
1973年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、BEAMSに入社。販売スタッフ兼アシスタントバイヤーを経て、2012年よりSURF&SK8の担当バイヤーに就任。2017年には、BEAMSのオリジナルブランドとしてSSZを立ち上げ、デザイナー兼ディレクターとして活躍。また、鎌倉にある加藤農園の4代目として、野菜農家の顔も併せ持つ。

Photography_ Haruki Matsui
Interview&Text_ Maruro Yamashita