TALKING ABOUT ARCHIVES Vol.26

死なないブランド。その理由。 増田晋作(UNITED ARROWS & SONS)

新しいブランドが生まれては消え、また生まれては消えていく。
ファッションは生ものとも言われ時代とともにあるものだが、その一方、ずっと輝き続ける“死なないブランド”がある。そんなブランドにはどんなポイントがあるのか?常に時代を見てきた敏腕バイヤーに、その極意を取材。今回、話を聞いたのはUNITED ARROWS & SONSのバイヤー、増田氏。

「すべてにおいて、アイデンティティをベースに考えること。それが死なない理由」

--- 生き残り続ける、死なないブランドという観点で、今回お持ちいただいた私物全体に言えることを教えてください。

「一つだけ言えるのはブランドとしてのブレなさ。アイデンティティを貫き続けることです。何故自分たちがその仕事をやっているのかをちゃんと理解していることは、すごく大切なことだと思っています。もちろんブランドは進化しないと古臭くなってしまいますが、時代に合わせながら根っこはブレないブランドが、最終的には生き残っている印象です。ブランドを長くやっていく為には必要な柱が5本あって。デザイン、PR、財務、プロダクション、セールス。これらはとても大切な要素です。ただ、この柱のみが先行してしまうと絶対おかしくなってしまうんですよね。じゃあ何が一番大切なのかというと、ブランドとして土台に“アイデンティティ”があること。そしてその上に5本の柱があるべきだと思っていて。今日持ってきたブランドはすべてそれがしっかりあります」。

--- なるほど。面白いですねー。アイデンティティがなければ話にならないし、アイデンティティがあって良い物を作っているだけでも続かない。すべてが揃っていないと、いつかはダメになると。例えばこのCharvetなんかはどうですか?

Charvet
Charvet

「Charvetは日本でいう幕末の時からあるブランドで、世界最古のシャツメーカーです。コンセプトに掲げているのは、エグゼクティブの為のいい趣味。当時フランスには王族がいて、その人たちに向けてシャツを作っていました。フィクションの世界だと、ルパン三世がCharvetのシャツを着ていたのは有名な話ですね。シンプルで一見普通のシャツに見えるかもしれませんが、柄合わせや小ぶりの襟など、ディテールへの強いこだわりがあります。そういった技術的な部分もさることながら、着ると独特な華やかさがでるのが、他のシャツメーカーと比べて違う点だと思います。美の観点がとてもパリっぽく、ファッション好きがどの時代も憧れるシャツを作り続けできているのは素晴らしいことですよね。Ralph Laurenのシャンブレーシャツが無骨でマスキュリンな美学だとしたら、Charvetはエレガントな美学。Saint Laurentなんかもそうですが、フランス発のメンズブランドってエレガントな要素がどこからしらに入っているんですね。それが土台にある。このシャツは日本でほとんど流通していない、半袖。パリの本店で購入しました。Charvetと言えば長袖シャツなので邪道だと言われたりもするのですが、逆にブランドのエレガントさがあるからこそ、半袖でも品良く着れちゃうんですよね。ブランド側は否定するかもしれませんが、僕はいちシャツメーカーとしてではなく、ファッションブランドとしてCharvetを見ています」。

--- 続いて、Chrome Heartsはどうでしょうか?

Chrome Hearts
Chrome Hearts

「Chrome Heartsは常にクオリティも落とさず、メッセージ性もブラさずにずっとやり続けているブランド。それ故、新しいデザインを最小限にし、ずっと同じ物を作り続けている。うちのお店でも常に定番が売れているんです。彼らは、アメリカのHermèsになるというビジョンを持っていると聞きますが、年々ラグジュアリーの路線にいっているのは、その表れだと思います。日本人の感覚とは違うのですが、アメリカ人ってやっぱり高額の物だったり、買える人を限らせるっていうのがラグジュアリーの定義として存在するのも事実だと思いますね。欲しいけど買えないっていうことを如何に思わせるかが戦略としてあるんです。それと、生活に寄り添った家具も作っていたりするのですが、そこには必ず遊び心もあって。そういう物を作ってもクオリティに徹底的にこだわるところがずっと人気の理由だと思います」。

--- ここ最近のブランドで、ずっと残っていきそうなブランドはありますか?

Cherry Los Angeles
Cherry Los Angeles

「まず、Cherry Los Angelesはその可能性を秘めていると思います。20代の若者二人でデザインをやっていて、彼らにどんなブランドを目指しているの?って聞いたら、『Ralph LaurenとStussyが結婚して、生まれてきたのが自分たちのブランドなんだ』と話してくれました。Stussyみたいに皆から支持されるブランドになりたいという一方、アメリカのクラシックカーが好きだったり、ワークジャケットの往年のディテールが好きだったりアメリカンクラシックな物を作っている。今の時代っぽいことをやりつつも、根っこにはそういうアイデンティティがしっかりあって。やっぱりファッション業界はビジネスの側面も強くて、何を伝えたいか分からないブランドが意外と多いのが正直現状で。それこそメッセージや哲学性よりも、これは有名なアーティストが着ていて・・・・・・といった情報ばかり先行して、話をする人が沢山いるんです。Cherry Los Angelesはそういう側面も理解しながら、自分たちのアイデンティティがしっかりしていて感心しました。それと、彼らはマーケティングの話もよくしてくれるんですよ。若いブランドなのに、ブランディングやビジネス的な部分でも地に足がついている感じが共感をもてます」。

CASABLANCA
CASABLANCA

「次に、2019年にパリでデビューしたブランド、CASABLANCA。シルクのシャツは彼らのシグネチャーアイテムで、これは2019年秋冬の物です。昨今のメンズファッションってアメリカ的なノリがメインストリームだったと思いますが、シルクシャツしかり、ちゃんとテーラードジャケットを作るとか、メンズがここ数年やってこなかった“装う・エレガント”という所に特化しているんですよ。Charvetにも共通して言えることですが、“クールよりも、ビューティフル”を突き詰めるところが改めて新鮮で魅力的です。ボタン一つとっても、すごく美しい。メンズにおけるCHANELのようなブランドにしたいというビジョンもちゃんと持っていて、今後も期待したいブランドです」。

--- ファッション全体が目まぐるしく変化していくなか、この先ずっとブランドを継続していくためには、どんなポイントが重要だと思いますか?

「やはり、メッセージ性ですね。自戒しないといけない部分でもありますが、結局メッセージがないと人には届かないと思っていて。それってニッチなことかもしれませんが、そこについてくる人って強いじゃないですか。1000人中10人にしか共感されなくても、メッセージがあってコアなファンがいるほうが、今後は残っていくと思うんですよね。器用にいろんなものに手を出すブランドは今後難しくなっていくというか。何でもあるが何にも無いになってしまう。今回紹介した4つのブランドはすべてアイデンティティがあって、ビジネス的な面でもしっかりしている。今まではビジネスのことを無視するのがカッコいいとされていましたが、僕たちみたいな小売をやっている人からすると、そういう時代はとっくに終わっているんです。それと、ブランドは単体で動くのではなく、オンラインサロンのような“コミュニティ”を作ることが今後は重要になっていくんじゃないかなと思いますね。ニッチな人たちが楽しめる空間をブランドが作っていくこと。それをやるにも、メッセージやアイデンティティを持っているブランドの方が絶対強いと思います」。

増田晋作 / SHINSAKU MASUDA

渡英後、2007年にユナイテッドアローズに入社。ユナイテッドアローズ&サンズのPRを経て、2018年から同ショップのバイヤーに。昨年からインスタグラム(@m.a.s.u)で定期的にライブ配信を行うなど、精力的にファッションの面白さを発信している。

Photo_ RYO KUZUMA
Edit&Text_ TATSUYA YAMASHIRO