REPURPOSE_KOZABURO
廃棄されてしまうような"不要品"に新たな意味や目的を創造する、リパーパス・プロジェクト。
まずは今回のプロジェクトで使用された技法に関してお聞かせください。異なるアイテム同士がホッチキスによって再構築されていますね。
ニューマチックホッチキスという空圧で針を打ち込むことのできる工業用の機材を使用しました。KOZABUROの初期のコレクションでもステープルを使用したアイテムがあるのですが、その進化版ですね。異なる二つのものを橋渡しにするという部分は、ブランドの立ち上げ当初から大切にしているコンセプトです。例えば、陰と陽という二面性のあるものを繋げたり、東洋と西洋を繋ぐといった意味合いですね。
素材となる衣服、一着一着はどのように集めたのでしょうか?
クイーンズのジャマイカにあるスリフトショップに行って古着を一つ一つピックアップしました。ドネーションを中心に各地から衣服が集まるのですが、ある意味一つの役目を終えた服たちが行き着く場所ですね。スタジオがニューヨークにあるのでアメリカらしさを感じるグラフィックやアメリカならではのオリエンタリズムを感じるアイテムを中心に選びました。それらを色やサイズ、記号の意味合いなどから判断しインプロヴィゼーション的に作り上げていきました。
半分にカットした内のもう半分もアイテムとして使用されていますね。どのような意図があるのでしょうか?
一般的にリメイクのアイテムは、一着を作る過程で複数の衣服を使うことが多いと思います。今回のプロジェクトでは、3個の素材を使い3個のアイテムを作るといった無駄がない構成にしたかったのです。
色は赤、黒、紺、青を中心に構成されています。これらは、KOZABUROのキーカラーでもありますね。
ニール・ヤングの曲『HEY HEY, MY MY』の中に「out of the blue and into the black」という歌詞があります。それが、個人的に感慨深いラインでもあって、色の移り変わりの最中に青春から大人になるという感じや夕焼けから夜になり、夜から朝焼けになるような、グラデーションの感覚が私の中であり続けています。そこから連想される色がKOZABUROのキーカラーとなっています。
インスピレーション源として、足利義政が愛用した器で鎹が特徴的な馬蝗絆をあげられていました。この器からは、どのような美意識を感じますか?
馬蝗絆は、金継ぎの技術の元となったという謂れがある器です。言い伝えによると、足利義政が気に入っていた青磁茶碗を壊してしまい、それと同じような物を中国で見つけられないかと壊れた茶碗を中国に送ったところ、これほどの優品はもうできないと、ひびをステープルで修復した状態で送り返されて来ました。その姿を義政が愛したとされ、器自体の価値が高まったというエピソードがあります。そこには、東洋的な美意識が詰まっていると感じます。私自身、荒っぽさの中に美的意識が潜んでいるようなものが好きで、クリエイションでも常に表現したいと思っています。異なる文化の中にも同じような感覚を抱くことがあります。例えば、クラスト・パンクの人たちが履いているクラストパンツは、自分自身でパッチを紡いで修復しながら履き続けているのですが、そのリペアの箇所一つ一つが当人の人となりを表していると感じます。
インスピレーションを受けたアイテムの風合いや質感などを、現代の技術を通して再現して作ることが容易にできる時代になりました。表層的な再現に留まるデザイナーも多い中、公三郎さんはあくまでご自身のルーツに照らし合わせながら物作りを行われていますね。
クリエイションは、自分のナラティヴでもあるべきですよね。今回のアイテムも普通に切ってオーバーロックミシンで縫えば済む話なのですが、それではつまらないというか……。やはり、アイテムをピックアップして切って繋げるという一連の作業を私自身が行うことに意味があると思います。そうでないと作れないですし、納得できないという感覚がありますね。
KOZABUROのアイテムには、今回のステープルやコレクションにも使用されているサンドペーパーなど、攻撃性や危うさを感じるディテールが施されている印象です。ただ、一方でそのようなディテールは手作業によって繊細に作り込まれていますね。
それは多分、私の性格や生い立ちがそうさせているのだと思うのですが、ゾクゾクさせる物が好きですね。例えば、ザ・ドゥルッティ・コラムの『THE DURUTTI COLUMN THE RETURN OF THE DURUTTI COLUMN』というスリーブが紙ヤスリで出来ているレコードはそう感じる物の一つです。レコード棚から取り出す時、両隣のレコードを傷つけてしまうような攻撃的な側面がある一方で彼らが作る音楽は繊細なんです。そういった二面性や一つの動きと共に攻撃性が立ち現われてくる感じが好きですね。単純な攻撃性というよりも受動性を帯びた攻撃性とでもいいますか……。
パンクには、DIY的な側面もあると感じます。安直に結びつけるのは避けたいですが、サステナブルとも相関関係があるのでしょうか?
スタジオにはそういったアイテムがいくつかあるのですが、その一つにリベットと手縫いだけで作られたライニングの無いレザージャケットがあります。素人が本気を出して一つずつ自分の手で作ったアイテムに物凄くパンクスピリットを感じますね。そこには、服と服を着ている人間の関係性があります。つまるところ、カスタムハンドメイドのアイテムが一番パンクだと思います。サステナブルとの関係でいうと日本独自の使い切る文化に惹かれており、裂織にも取り組んでいます。例えば、襤褸など昔ながらの文化様式の中にも未来への鍵があると感じています。
KOZABUROの別ラインとして「RE-PURPOSE, RE-MAKE, RE-CYCLE」をデザインコンセプトとしたPRMをスタートされていますね。ご自身のサステナブルへの意識はどこから来ているのでしょうか?
個人的な話なのですが、母が田舎出身で今でいう“もったいない精神”のある人です。ですので、その意識は私が育つ中で自然と身に付いているというか、ある意味、斑点のようなものですね。日本文化への関心や信念が込められている物、作り手や持ち主の思いが時間と共に蓄積されている物への興味もそこからきているのだと思います。
Interview text_ SHINGO ISOYAMA
photography_ DAISUKE HAMADA
hair & makeup_ HAYATE MAEDA
model_ RYUHEI CHISHIMA (NUMBER EIGHT MODELS)