Masterpiece Vol.002
Arts and Crafts Denim / UNDERCOVER by Jun Takahashi
今、この瞬間も世界中では何百着、何千着、何万着というアイテムが生み出されている。それらは人々によって消費され、最後は古くなった布切れとして捨てられる。着ていた本人も周囲の人も、さらには作り手の記憶からも失われていく。捨てては買い、買っては捨てる。そのようにしてファッションのサイクルは循環していく。しかし、だ。その消費社会の渦に飲み込まれない、独自の価値を確立したアイテムが存在する。ランウェイで発表された瞬間からファッションフリークを虜にしたジャケット、あるいは時を経て再評価されたモッズコート、まるでアートピースのようなライダースにデニムパンツ。それらは消費され捨てられるどころか、歳月と共にその輝きを増し続ける。人々はそれを「名作」と呼ぶ。ここではメンズモード史に残る数々の「名作」たちを紹介し、その裏側に迫っていきたい。
日本人デザイナーで「名作」を生み出した人物といえば高橋盾氏、そしてUNDERCOVERだろう。 UNDERCOVERは高橋氏がセックスピストルズ、パンクロック、そして川久保玲氏が手がけるCOMME des GARCONSから影響を受け、文化服装学院在学時に立ち上げたブランド。見たことがあるようで誰も見たことがない服を作りたいという想いのもとデザインされ、モード、パンク、そしてストリートの要素が絶妙なバランスでミックスされた同ブランドは、カルト的な人気を集めた。裏原カルチャーを生み出した伝説的ショップNOWHEREをNIGO氏と共に手がけた高橋氏はその後、モードファッションの最高峰であるパリコレに若くして進出、日本独自のファッションを世界へと発信した。UNDERCOVERは世界でも高い評価を受け、その後の多くの日本ブランドの海外進出へと繋がった。近年では、OFF-WHITE、NIKE、そしてVALENTINOとコラボレーションを行うなど常にファッションシーンの中心にいる。
その高橋盾氏が手がけるUNDERCOVER最高傑作の一つとして今なお人気を集めているのが2005年秋冬コレクション、Arts and Crafts期に発売されたクラッシュデニム。
Arts and Crafts期は、自身の子供がフェルト製の人形で遊ぶ姿からインスピレーションを得たコレクションで、大人の女性が着るエレガントな服をイメージして制作された。実際、ランウェイにてモデルはフェルトのヘアで登場し、多くの衣服の美しい装飾がフェルトで制作された。エレガントな服とフェルトを切り貼りするという一見真逆に思えるイメージを高い次元で融合させた同シーズンは、SCABやBUT BEAUTIFULに並び、多くのファンを魅了した。
Arts and Crafts期のクラッシュデニムはUNDERCOVER、そしてシーズンテーマを最も色濃く体現した一着。他のブランドでは、見たこともないような全面に施された激しいクラッシュ加工、そして幾度となく行われたであろうウォッシュ加工、さらには、フェルトを切り貼りしたかのごとく異なるカラーのデニムやサーマルなどを組み合わせたリペア加工がArts and craftsのインスピレーション源を見事に具現化している。同アイテムは、UNDERCOVERらしいパンクな雰囲気、反骨心を感じさせるデザイン、そして圧倒的な存在感から人気を集めた一着。ブランド古着がアーカイブとしてその価値やデザインが再評価され始めた頃から同デニムの評価はさらに上がり、トラビス スコットやプレイボーイ カルティなどの有名アーティストが着用すると世界的な争奪戦に。UNDERCOVERがスローガンとして使用する We make noise, not a clothesと同様にデニム自体から発せられるノイズは、15年経った今でも強く発せられている。ファッション史に残るこのアートピースを実際に身に纏ってみてはいかがだろうか。
Text_ SHUHEI HASEGAWA