Masterpiece Vol.001

Destroy Denim Jacket / Dior homme by Hedi Slimane

今、この瞬間も世界中では何百着、何千着、何万着というアイテムが生み出されている。それらは人々によって消費され、最後は古くなった布切れとして捨てられる。着ていた本人も周囲の人も、さらには作り手の記憶からも失われていく。捨てては買い、買っては捨てる。そのようにしてファッションのサイクルは循環していく。しかし、だ。その消費社会の渦に飲み込まれない、独自の価値を確立したアイテムが存在する。ランウェイで発表された瞬間からファッションフリークを虜にしたジャケット、あるいは時を経て再評価されたモッズコート、まるでアートピースのようなライダースにデニムパンツ。それらは消費され捨てられるどころか、歳月と共にその輝きを増し続ける。人々はそれを「名作」と呼ぶ。ここではメンズモード史に残る数々の「名作」たちを紹介し、その裏側に迫っていきたい。

 「名作」と呼ばれるアイテムは数多く存在するが、2000年以降において最も多く「名作」を生み出したデザイナーの1人は、間違いなくエディ・スリマンだと思う。2001-02AWのパリコレクションにてChristian Diorのメンズウェアとして発足したDIOR HOMME。そのブランド立ち上げのアーティスティック・ディレクターとして任命されたのが、それまでSaint Laurentでメンズウェアのデザイナーを務めていたエディ・スリマンだった。当時まだ30代前半。ムッシュ・ディオールのフィロソフィーを継承しながらも、ロックマインドを取り入れたクリエイションや極端にタイトなシルエットは、メンズファッション業界に衝撃を与えた。ランウェイではプロモデルではく素人やミュージシャンを起用し、毎回趣向を凝らした演出やアイテムを発表。毎シーズン、世界中の人たちが新たなコレクションを心待ちにしていた。エディ・スリマンという存在と彼が手がけるDIOR HOMMEは、一つの大きな潮流を生み出し、海外だけでなく本国内のファッションヴィクティムの心をも鷲掴みにした。立ち上げの際には直営店には人が殺到し、経済力の少ない若者たちでさえもなんとかエディのDIOR HOMMEを買おうと必死になった。街はDIOR HOMMEを纏った人たちで溢れ返り、顔を合わせれば新しいコレクションやそこで発表されたアイテムについて語り合う。そんな状況が何年も続いた。1シーズンに何十点ものアイテムが登場したが、その中の数点は生産数が極端に少なかったり、そのデザイン性の高さから人気が集中したりし、プレミア価格まで付くものもあった。このジャケットもその一つ。登場したのは2004SS。STRIP(ストリップ)期と称され、ヘヴィメタルテイストを下敷きにブラックを基調としたアイテムが数多く登場したシーズンだ。ボディにコットン素材を使用し、その上からシリコンをコーティング。さらにはデストロイ加工を施した、通称「デストロイジャケット」を呼ばれるこのジャケットは、紛れもなくそのシーズンを代表するアイテムである。当時のキャンペーンビジュアルにも使用され、同じ加工を施されたデニムパンツとともに、DIOR HOMMEマニアやファッション好きの間で争奪戦が巻き起こった。それから15年以上もの月日が流れたが、今なおその人気を衰えることを知らない。いや、衰えるどころか、エディ・スリマンのモード界のカムバックによって、ますますその価値は高まる一方である。一つの時代を築いたデザイナーの、一つのコレクションを象徴する素晴らしき一着。ストリートの勢いが失速し、テイラードやタイトなシルエットの復興の兆しが見える今だからこそ、袖を通したい。

Text_ LUDO OSHIKAWA


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