INTERVIEW WITH HUGH MO OF ARTIFACT NEW YORK

スタイリスト御用達のアーカイヴ・レンタルサービス

熱狂的とも言えるほどの「アーカイヴ」人気の中、ヴィンテージアイテムのレンタルでスタイリストたちの注目を集めるようになったArtifact New York。マンハッタンの高層ビルに拠点を構え、そのエクレクティックかつエディトリアルな視点でキュレートされたコレクションは、他の同業者たちとは一線を画している。パスワードでプロテクトされたオンラインカタログを開くと、Helmut Langの3Mアビエイターパンツといったレアアイテムから、ダニエル・リーによるBottega Venetaのコンバットブーツなど最近のアイテムまで、ありとあらゆる時代、ジャンルのコレクションがずらりと並んでいる。

しかし、スタイリストの観点から言うと、なんといっても際立っているのはその「実用性」だ。タイトなタンクトップやTシャツ、シェイプの良いジーンズやパンツなど、スタイリストたちが今まさに必要としているものが大量にアーカイヴされている。この「実用性」こそ、2018年にヒュー・モウがビジネスパートナーのマックス・ツィリングと共にArtifactを立ち上げたときに目指したところだった。

今回のインタビューでは、Artifactの始まり、コレクターとしてのマインドセット、そしてArtifactのコレクションの中でも特に注目のアイテムについてヒュー・モウに語ってもらった。

INTERVIEW WITH HUGH MO OF ARTIFACT NEW YORK

アーカイヴファッションの世界に入ることになったきっかけについて教えてください。

私がアーカイヴファッションに初めて触れたのは、友人がRaf Simonsの2000年代前半のコレクションを買い始めたときでした。2017年のことですが、最初は興味をそそられませんでした。自分が着たいと思う服にしか興味がなかったので、自分は絶対にハマらないと思っていたんです。私は大学でテニスをしていたので、アスレティックウェアや快適なものを好んで着ていました。NikeやUnder Armourをよく着ていましたし、その後はYeezyのようなカジュアルデザインのDNAを持つストリートウェアに手を出しました。

普段着ないようなヴィンテージを買うなんて、考えたこともなかったです。その後、ファッションの世界について学びたくてリサーチを始めました。オンラインのアーカイヴページ、ランウェイショー、ミュージアムの展示、ギャラリー……。あらゆる種類のデジタルデータベースを使ってリサーチしました。それと同時に、ファッション業界の人たちと知り合いになったり、プロにインタビューしたり、特定のブランドに特化したオンライングループの掲示板を読んだりもしました。それ以外にも、購入資金を工面するためにいろんなアイテムを売買する中でもたくさんのことを学びました。

私はファッションの教育を受けたわけではないのですが、(特に最初は)Helmut LangやMartin Margielaなどのアイテムの歴史について学ぶことにすっかり夢中になりました。その後、他のコレクターの存在や流行しているデザイナーについて知りました。尊敬していたコレクターの多くは、今では親しい友人です。Alaïaを熱心に集めている友人や、Comme des Garçonsに夢中な友人もいます。Haider AckermannやDemna Gvasaliaのような比較的新しいデザイナーを集めている友人もいますが、彼らと話しているとファッションの世界で何が起こっているのかよく分かります。

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ご自身で初めて購入したアーカイヴアイテムは何ですか?

最初に購入したのは、2002年か2003年のRaf Simonsのカレッジスウェットでした。彼の服のデザインはとても親しみやすくて、自分が既に好んで着ていたものと互換性があると思いました。ウェアラブルであると同時に、歴史的な価値もあるアイテムです。

Artifactのアイディアはどのようにして生まれたのでしょうか?

私は昔から物を集めるのが好きだったので、そこから着想しました。遊戯王のカード、アメリカのいろんな場所のコイン、ヒーローもののフィギュア(特にパワーレンジャー)、NBAのジャージ、スニーカーなどを収集していました。Artifactは、好きなものを収集し続けるための口実みたいなものだったのですが、このライブラリを他の人と共有できる可能性があることに気づいたのです。

それはいつ頃のことですか?

Artifact New Yorkは、2018年の秋に正式にスタートしました。その前に、少なくとも私から見て、ただアイテムを溜め込んでいるだけではないと思えるコレクターと出会いました。彼は自分の好きなことでお金を稼げているように見えました。当時の私は何か続ける理由が欲しかったですし、いつか洋服のコレクションも単なる過去の趣味の一つになってしまうのは嫌だと思っていました。私も彼と同じことができるんじゃないかと考え、自分たちが好きなタイプの洋服に興味のあるスタイリストが、必要なものをなんでも見つけられるような、サービス重視のレンタルビジネスを始めようと思いました。一番最初のクライアントは、SZAやKendrick LamarのスタイリストDianne Garciaでした。

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共同設立者のマックス・ツィリングは、当初ヴィンテージの販売店としてArtifactを運営されていましたが、お二人はどのようにして出会い、現在のArtifactを立ち上げることになったのでしょうか?

マックスと初めて会ったのは、ニューヨークのBarneysで並んでいたときでした。当時、私は小売店としてのArtifactを利用していたのですが、当時の彼のビジネスパートナーとしか連絡を取ったことがなかったので、その日は気づきませんでした。今考えると面白いのですが、その後、私はマックスにSaint Laurentのジーンズを売ることになりました。彼の番号はいつも消さずに残してあって、お互いに連絡を取り合っていたのですが、ある日アーカイヴのレンタル事業を一緒にやること、そしてそれをまずはArtifactのブランド名を使ってやることに興味があるか尋ねました。マックスは顧客サービスに関する経験が豊富で、成長に必要なステップを理解していたので、私たちは完璧なパートナーシップを築くことができたのです。

今の私たちがあるのは、私の洋服に対する愛情と、彼のビジネスに関する専門知識のおかげです。私たちは、スタイリストがイメージ通りのスタイルを創れるよう、なんでも揃う中央集約的なサービスを構築することを目指しました。スタイリストたちのアーティスティックなヴィジョンを実現するためのワンストップショップでありたいと思っています。彼らが最高の撮影を行えるよう、リソースを提供したいというのが私たちの願いです。

つまり、最初からスタイリストが使えるリソースとしてのアーカイヴを目指していたということでしょうか? ある意味、クリエイティヴなところが原動力になっているということですね。

一番の目的は、スタイリストたちが「これだ」と思えるようなアイテムが必ず見つかる、信頼できる場所を創ることでした。特に、たくさんのスタイリストが私たちのコレクションをすごく気に入ってくれているのを見ると、Artifactをやっていて本当に良かったなと思います。私がコレクションを始めたのはクリエイティヴな動機からですが、Artifactを立ち上げたのは、撮影を控えたスタイリストたちが頼れるような最高のサービスが足りていないと感じたからです。その時々のニーズを満たすものを見つけられることはあっても、幅広い網羅的なアーカイヴというものが存在しませんでした。Artifactはスタイリストの要望に基づいて進化してきたもので、今後も彼らのニーズに合わせて変化し続けていくと思います。

Artifactは主に口コミで広がっていきましたが、スタイリストへのオーガニックな働きかけにも力を入れ、その結果、徐々に人気が出てきました。Artifactの初期の段階では、計画や試行錯誤に多大な時間を費やしましたね。

従来のようにヴィンテージファッションを販売するのではなく、Artifactをアーカイヴのレンタルサービスとして形にしようと考えた経緯と理由を教えてください。

レンタルすることにしたのは、最初は単純にアイテムが大好きで、売りたくなかったからです。レンタルであれば、一時的に貸し出したとしても、完全なコレクションを手元に残しておくことができます。同じアイテムを使ってもクライアントによって異なる世界観が表現されるのを見ると、とてもやりがいを感じます。2人のスタイリストが同じ服を借りて、まったく違うイメージを創り出しているのを見ると、個人的にも満足感がありますね。こういうクリエイティヴに触れるといつも尊敬を覚えます。服のレンタルを通じて、まるで自分もスタイリストの経験を一緒にさせてもらっている気分になりますね。

特に印象に残っている例はありますか?

デザインのリサーチャーやブランドなど、さまざまなクライアントにレンタルしているので、同じアイテムを貸し出しても同じように使われることは絶対にありません。特に印象に残っているのは、2003年に発売されたHelmut Langのハーネストップで、スペイン版『VOGUE』のエディ・キャンベルの撮影のために一度レンタルしました。エディは、ハーネスのストラップをネックレスのように首にかけていました。同じハーネスの素材と色が異なるものを、『Self Service』誌のスタイリストのCamilla Nickersonにレンタルしたのですが、この撮影では、ハーネスをクロップトップに仕立てていました。二つの写真を並べて見ても、同じアイテムだとは分からないと思います。

Artifactのアーカイヴは、どのように作り始めたましたか?

最初は自分のためだけに購入していたのですが、Artifactのために収集するようになってからは、スタイリストの目線でもキュレートして買い付けるようになりました。レアなヴィンテージアイテムだけでなく、タンクトップやブルージーンズなど、スタイリストが必要としているものをリサーチしました。初めて本格的に収集を始めたデザイナーは、Helmut Langでした。Helmut Langのシアーメッシュのタンクトップは、初期に集めたアイテムの中でも特にお気に入りです。今ではすっかり使い込まれて背中の部分が完全に傷んでしまっていますが、Artifactのカタログの中でも最もよくレンタルされているアイテムの一つです。

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Helmut Langのコレクションは特に充実していますが、アーカイヴには大体何着くらいあるのでしょうか? 特に注目のアイテムはどれでしょうか?

Helmut Langのコレクションは500~600点ほどあります。2003年秋に発売された3Mコーティングされたグリーンのアビエイターパンツがあるのですが、私たちが持っているものを含めてこれまでに3着しか見たことがありません。アジアの古着サイトに出品されているのを見つけて、ボストンのホテルを早朝にチェックアウトしながら入札しました。

Helmut Langが今のスタイリストたちにここまで支持されるのは、なぜだと思いますか?

Helmut Langのアイテムはさまざまな雰囲気や環境に対応できて、スタイリストが感じていることに寄り添ってくれるからだと思います。構造的にはとても汎用性が高いのですが、同時に真っ白なキャンバスのようでもあります。ノンデザイナーズのベーシックなアイテムを昇華させながらも、地に足がついていて、実用的なんです。

Artifactのヴィンテージキュレーションは、どのようなものでしょうか? また、その特徴は何でしょうか?

他のアーカイヴと異なる最大の特徴は、一握りのデザイナーのレガシーだけに執着していないことです。また、特定の時代にこだわらず、幅広く収集しています。メンズもウィメンズも集めるし、何百ものデザイナーを扱っています。また、学校を卒業したばかりの新人デザイナーも集めています。私たちは一つの美的感覚に基づいて洋服を差別したり、アーカイヴの範囲を狭めたりはしません。良いものは良い、と考えています。あまりニッチなアプローチはしません。

例えば、元宇宙飛行士が所有していた1980年代のNASAの宇宙服など、トゥルーヴィンテージのアイテムも集めています。残念ながら、この宇宙服は実際に宇宙で使用されたことはないのですが、シミュレーションには何回も使われていました。また、70年代から80年代のヴィンテージTシャツも何百枚も揃えています。最近新品を買い付けたデザイナーとしては、Rick OwensのフットウェアのヘッドデザイナーだったAdyarが挙げられます。ちょうど彼のコンバットブーツを買ったばかりなのですが、作りも品質も素晴らしくて、とても気に入っています。Sterling Rubyの最新作も気に入っています。Balenciagaでの初のクチュールショーで、Demna Gvasaliaがどんな仕事をするのかも楽しみです。彼は今、最も重要なデザイナーの一人だと思います。

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買い付けはどのように行っていますか?

クローゼットに眠っていた洋服を処分しようとしている個人の販売者や、中古販売のウェブサイト、対面式のヴィンテージショップなど、あらゆるところから買い付けています。意外に思われるかもしれませんが、私たちの買い付け方法は、他のヴィンテージアーカイヴと何も変わりません。ただ、膨大な時間をリサーチに費やしています。徹底的に良いものを探さなければ、このようなアーカイヴを構築するのは不可能だからです。

リサーチにはどれくらいの時間をかけていますか?

だいたい週に60時間くらいでしょうか。ニューヨークにはショールームがあり、アポイントメントやフィッティングを受け付けています。ショールームでは温度管理を徹底し、日光によるダメージを防ぐために二重のブラインドを使用しています。

Artifact New Yorkのアーカイヴの中で、最も特別なアイテムを三つ教えてください。

最も特別なアイテムは、 2019年秋に購入したMartin Margielaのベルベットのシガレットショルダージャケットです。マルタンは、ランウェイに向けてモデルのフィッティングをしている間に、タバコの火でジャケットに穴を開けたんです。彼は駆け出しの頃、モデルに謝礼としてよく服をプレゼントしていました。このジャケットは、Martin Margielaのモデルをしている個人的な知り合いから買いました。彼女とはインスタグラムで初めて知り合い、イタリアに行ったときに仲良くなりました。

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二つ目は、ロンドンで開催されたJ.W. Andersonの『Disobedient Bodies』というタイトルのエキシビションで展示されたハーネスです。2018年の冬に古着サイトで見つけて二つ購入したのですが、展示の一部であることは分かっていました。

三つ目は、ヒース・レジャーが履いていたパンツで、ラベルに彼の名前が手書きされています。このパンツはヒースが映画の撮影で着用したもので、監督がそれを古着サイトで委託販売していて、私が2019年の春~夏くらいに購入しました。ラベルの写真はネットで話題になりました。ただ、どの映画で履いていたのかはわかりません(ぜひ調べてみたいと思いますが!)。

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Interview text_ MONICA KIM