INTERVIEW ABOUT MARGIELA

鈴木達之/マルタン・マルジェラに関する九つの質問。

1. 映画『マルジェラが語る“マルジェラ”』 の感想をお聞かせください。

今回の映画を観終わって、私自身「ファッションデザイナーとは何か?」という問いについて、改めて深く考えさせられました。マルタン幼少期に人形の服を作る回想シーンが特に印象的で、やはりファッションデザイナーとは、デザイン(イメージ)だけでなく、裁断から縫製など一つの服を仕立てられる、クチュリエのことを指すのかもしれません。幼少期の原体験こそが、のちの1994年秋冬シーズンのドールコレクションの発想に、大きく関わっていたように感じます。また、今回の映画でようやくマルタン自身の本心を聞き、溢れる情熱と苦悩を理解できました。従来のパリモードの常識と対峙し、自身の考える「衣服と身体」と「衣服と時間」への挑戦が、決してぶれないコンセプトとなり、スタッフやすべての関わる人たちを魅了し続けたのだと思います。マルタンの未来を創造する力、服作りに対する純粋な想いこそが、現代人への大きなメッセージです。

2. マルタン・マルジェラの服を目にした最初の瞬間はいつ、どこでしたでしょうか? その時の感想をお聞かせください。

私自身がマルタン・マルジェラの服を実際に目にしたのは、かなり後期でして、確か表参道だったと思います。もちろんブランド自体は認識していましたが、その頃私自身が音楽活動をしていたため、マルタンの服とはかけ離れたライフを送っていました。しかし、何気なくお店に入った瞬間、真っ白い空間の異様さに気づき、一見ベーシックな服が並んでいても、複合的に見たときに、どこか実験室のような違和感を感じたような記憶があります。そこにはトレンドという虚構は一切存在せず、強固な思想が詰め込まれた、職人による普遍的な衣服が確かに存在していました。

3. 最も印象的なマルタン・マルジェラのショーやアイテム、表現方法などについて、思い出やご意見などをお聞かせください。

すべてのショーが素晴らしいのは大前提ですが、最も印象的なのは、1998年春夏コレクションです。COMME DES GARÇONSと同会場で行われたショーは、旧来型のショーとは根本的にかけ離れた演出でした。モデルが新作を着用してキャットウォークを歩くランウェイショーではなく、4人の白衣を着た男性が10体の平面的な作品を持ち、映像で着用した姿を見せました。着想は初期に発表したスーパーマーケットの袋やペーパー作品であり、工場に収納されている状態をイメージしたといいます。これにより、マルタンは衣服から「身体」を切り放し、衣服本来のフォルム、美しさを表現したかったのではないでしょうか。

4. ファッション史を振り返って考えてみた時、ファッションデザイナー マルタン・マルジェラ はファッション界にどのような影響を与えたと思われますか?

シュルレアリスム思想を服作りに落とし込んだことが、現代のファッションデザイナーに大きなインパクトを与えた点だと思います。元々は階級社会による貴族的な衣服から始まった西洋服飾史。エレガンスでグラマラス、身体を覆うラグジュアリーなオートクチュール起源のモードという固定概念に一石を投じました。それは無意識から生まれる創造性を如何にして、「身体」や「時間」というテーマで深く追求し、現実の衣服、演出に落とし込むかどうかです。本質的かどうかは別として、過去のスタイルやカルチャーからのオマージュ、再構築し現代にアップデートする手法は、マルタンのアーティザナルやリプロダクション(レプリカ)などのクリエーションが大きく影響を与えているのではないかと思います。

5. マルタン・マルジェラが作る服そのものは、他のデザイナーが作る服とどのように異なり、どんな所に凄さがあったとお考えですか?

オートクチュール的位置に存在する「アーティザナル」を見てもわかるように、素材の選定や、再構築の手法など、高級既製服の常識では考えられない作り方が、大きな違いです。ただ単に古着をリメイクしているのではなく、素材や原型が潜在的に持つ「時間」に、新たに命を吹き込むことによって、止まっていた時間を現代に蘇えらせているのです。また、デニムにペンキを塗ったり、仮縫いのままを完成としたり、トルソーをそのまま服にしてしまったり、カビを培養したドレスの変化を見せたり、2倍の大きさの服を作ったりなど、服というフォーマットを自由な視点で解釈し、創造してみる姿勢が、他のデザイナーとは全く異なり、より現代アート的かつ、実験的なクリエーションであると感じます。

6. 初めて購入したマルタン・マルジェラのアイテムはどのようなものでしたでしょうか? その時のエピソードをお聞かせください。

当時ヴィンテージの古着も好きで集めていて、自分のスタイルにマッチするようなシンプルなスラックスを購入しました。古着に合わせるのに全く違和感がなく、当時そのボトムスをマルジェラだと言わずに、こっそり楽しんでいました。今思えば、完全なる自己満です。

7. 今もまだ着用・愛用・所有しているアイテムがありましたら、詳しくお聞かせください。

2006年春夏シーズンのテーラードジャケットは愛用していて、頻繁に着ています。全体的に張りがなく、少しミリタリーテイストな素材感で、カジュアルにも合わせられるし、ドレスアップしたスタイルにもマッチするので、汎用性が高くて好きなアイテムです。所有しているアイテムとして大切に保管しているのが、2006年の恵比寿店リニューアル時に配られた「枡」です。マルタン自身の日本に対する愛情も感じられますが、何よりもしっかりと日本文化を理解している懐の深さに感動です。「祝」の文字を見る度に、不思議と穏やかな気持ちになれます。また個人的に⑬のオブジェラインが好きで、現在は廃止しているのですが、こちらもアーティザナル同様、元々ある物に手を加え、新しい物を生み出すという視点が、まさにマルタンの真骨頂だなと思います。⑬の作品はArchive Storeでも多数コレクションしています。

8. 現在、アーティストとしての活動をしていると言われているマルタン・マルジェラですが、いつかファッション界に復帰して欲しいと思われますか? 今後の彼にどのような活動を期待しますか? その理由と共にお聞かせください。

ファッション界というよりは、個人的にはファッションデザイナー教育に携わってほしいです。マルタン自身の経験や哲学、思想、教養を次世代のデザイナーに継承し、クリエイティブで、オリジナルなデザイナーが現れることを期待しているからです。1980年代中盤にベルギーのファッションデザイン産業が一丸となって、アントワープから世界で活躍するクリエイティブなデザイナーを育成していました。あの当時を超える勢いでマルタンを中心に、教育していったら面白い未来が待っているような気がします。

9. マルタン・マルジェラ本人に、メッセージをお願い致します。

なかなか一言では言い表せないのですが、現代の私たちに素晴らしい作品を残してくれてありがとうございます。きっとあなたが考えてきたこと、挑戦し続けてきたこと、服作りへの純粋な情熱は、世界中のファンに伝わっています。そして、これからも私は、あなたの作品を着続けていきます。着続けた服が、どう自分に合ってくるのか、変化していくのかを楽しんでいきたいと思います。


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