INTERVIEW ABOUT MARGIELA
小石祐介/マルタン・マルジェラに関する九つの質問。
1. 映画『マルジェラが語る“マルジェラ”』 の感想をお聞かせください。
本人が当時のことを「かっこつけることなく」、素直に語っていた姿が、マルタン・マルジェラ時代のマルジェラの価値を更に強固にした気がしました。
2. マルタン・マルジェラの服を目にした最初の瞬間はいつ、どこでしたでしょうか? その時の感想をお聞かせください。
写真で見たのは雑誌『STUDIO VOICE』や『highfashion』。実際のモノを観たのは、誰かが着ていたエイズ撲滅キャンペーンのAIDS Tだったと思います。マルジェラの服はファッションの文脈がわかっていた人ほど衝撃を受けたのではないでしょうか。最初はなんだか変わったブランドがあるなというのが率直な印象で、後からじわじわとその凄みを認識していった感じです。
3. 最も印象的なマルタン・マルジェラのショーやアイテム、表現方法などについて、思い出やご意見などをお聞かせください。
ショーで印象に残っているのは1999SS。過去のコレクションのアーカイヴを焼き直しで発表したシーズン。新しいものを見せられることが当たり前になっている業界に問いを投げたのが面白いと思ってます。実は模倣者に対して自分たちがオリジナルだということを示す目的もあった、と本人が映画の中で語っていたのを見て、思わずうなずきました。
レヴィ・ストロースが昔、ありあわせのものでどうにかする行為を「ブリコラージュ(Bricolage)」といいました。マルジェラは「ブリコラージュ」の達人ですね。セレブリティ依存だったり、持続不可能な一過性の勢いとかではなく、「頭」と「集中力」、「いまそこにあるもの」を工夫して十分強い仕事ができることを示したのが大きいです。また、業界の常識をからかったりしながら、それだけではなく、常に一石二鳥の選択を貪欲に狙ってる感じも好きですね。そこには文化的あるいは宗教的コードのヒントがあって、受け手が勝手に解釈することで一石二鳥以になっているわけですが。
4. ファッション史を振り返って考えてみた時、ファッションデザイナー マルタン・マルジェラ はファッション界にどのような影響を与えたと思われますか?
現代美術はコンセプチュアルに美術史を更新していくことで新しい価値を生み出していく営みです。ファッションにおいても同様なことが可能だということを、マルジェラが示したのは大きかったと思います。コム デ ギャルソン以降、服を超えて「コンセプトを着る」という考えが生まれました。マルジェラはその可能性を完全に決定づけたと思います。結果として、ファッションがただの商業的営みを超えて、知的な営みだということが周知され業界の外も一目を置くようになった気がします。後続のファッションやジャーナリストも、「文脈」に対して非常に意識的になったのではないでしょうか。皆が意識したせいで、業界はマルタンの亡霊に呪われた気もするのですが(笑)。
5. マルタン・マルジェラが作る服そのものは、他のデザイナーが作る服とどのように異なり、どんな所に凄さがあったとお考えですか?
商品ができるまでの過程が面白いです。素材の調達、パターンから生産まで、それぞれのポイントで必要な箇所に労力をかけて、無駄の無い力で価値を生み出すことに焦点を当てていますよね。半年に一回コレクションを行っていたわけですが、各シーズンに作り出したアイテムの中には数十年も続く定番になる強さがあるものが多数あります。本人の中ではコレクションという表現よりも、こういったものを沢山生み出すことに醍醐味を感じていたのではと、私は勝手に思っています。
6. 初めて購入したマルタン・マルジェラのアイテムはどのようなものでしたでしょうか? その時のエピソードをお聞かせください。
新品は高くて買えなかったので、夜中までインターネットのオークションで掘り出し物を観察していました。モノを最初に手にとったのは、2000年頃にネットオークションで白タグのニットウェアを買ったのが最初です。実際にモノが届いてみたら想像していたものより、なんというかいわゆるハイファッションブランド、他のアントワープのブランドの商品に比べて意外に、「あっさり」というか「ブランド」らしくない、一見チープにも見える印象で驚きました。後になってそれが、マルジェラの作風であり意図的なものだったことがわかるわけですが。当時はすぐにわからなかったですね。
7. 今もまだ着用・愛用・所有しているアイテムがありましたら、詳しくお聞かせください。
大きなホックで前開きが止まるブルーのフレンチワークパンツを愛用しています。一見、フランスの量販店や古着で売っている安っぽいフレンチワークウェアが元になっているんですが、ポケットの形だったり、形、前開き、ステッチなどディテール箇所箇所がよく考えられていて、頭と時間を使って作られたアイテムだというのがわかるのが好きです。そしてジャーマントレーナー。マルジェラがメンズを立ち上げた当時、ドイツ系のスニーカーの古い形に注目していたのは、ヘルムート・ラング、ダーク・ビッケンバーグくらいだった気がします。このシューズもヴィンテージのコピーのようで、箇所箇所のディテールが試行錯誤されています。スニーカーは最近自社でデザインしているNOVESTAを履くことが多いので登場回数が増えてしまいましたが、今でも気分を変える時に履いてます。
8. 現在、アーティストとしての活動をしていると言われているマルタン・マルジェラですが、いつかファッション界に復帰して欲しいと思われますか? 今後の彼にどのような活動を期待しますか? その理由と共にお聞かせください。
引退後にパリの蚤の市で古着を売っていたというエピソードを、マルタンと昔に一緒に働いていた人から聴いて笑いました。今後も突然、神出鬼没に登場して欲しいですね。
9. マルタン・マルジェラ本人に、メッセージをお願い致します。
自分で立ち上げた会社を去る決断を考えていたときは、かなり苦渋の心境だったかもしれません。
しかし、会社設立から“I’m tired”(インタビュー中では飽きた、と翻訳されていましたが)と言ってあっさり去ったその過程自体が非常に”Masion Martin Margiela”らしい美しさがあったと思います。今後も神出鬼没の動きで、ぜひ日本にも来てください。
小石祐介
クラインシュタイン代表
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