TALKING ABOUT ARCHIVES Vol.28

HIKARU氏(BOUNTY HUNTER)に聞く、いま気になるアーカイブ TOP 5

BOUNTY HUNTERのディレクターとして、90年代以降の日本のファッションシーンに多大なる影響を与えたキーマン。
長年、シーンの最前線に立ち続けることができるその理由のひとつは、鋭い審美眼を持っているからなのかもしれません。
本企画は、そんな彼に聞く、2020に再注目したいアーカイブとは?

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1_ 20年以上の時を経て遂に手に入れた、adidas rivalryのローカット

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まず初めに提案してくれたのは、adidasの“rivalry(ライバルリー)”というモデル名のスニーカー。「Beastie BoysやShawn Stussyが履いてた影響で若い頃、凄く憧れました。一番初めは白×紺を愛用してたんですけど、本当は黒×白が欲しかったんです。当時は今のようにネットで手軽に買える時代じゃなかったので、なかなか見つけられなくて。でも、諦めきれずに探しまくって、ようやく見つけたのがこの黒×白ハイカット。当時は本当に毎日履いてましたね」。

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そんなRIVALRYのハイカットは、これまでに3度再発されたそうで、全て購入。「かなり昔の話で記憶が曖昧なんだけど、俺たちの世代は当時このモデルを“rivalry(リバルリー)”やattitudeって呼んでたんですよ。でもネットで調べても、その名前だとどうしても出てこない。今は“rivalry(ライバルリー)”って言うみたいなんだよね。なんでだろう? どうでもいいことなんだけど、そういったところも気に入ってしまうのが俺たち世代なんです(笑)」。

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20年以上も前に愛用していたものを今も大切にコレクションしているほど愛着のある1足なのだが、実は1つだけ妥協していたことがあるのだとか。「本当に欲しかったのは、ハイカットじゃなくてローカットの黒×白。でもなぜだかローカットは再発されてなくて……。“生産されてないんだから探しようがない”ってことで諦めてたんですけど、去年、黒×白のローカットがインラインで登場したんです。飛び付くように2足買いしました。嬉しすぎてまだ箱から出せてない状態だったんですよ。それでついこの前、何気なくBad Brainsの『Quickness』(89年にリリースしたアルバム)を聞いてたら、ジャケットの写真でベースのDarry JeniferもRIVALRYを履いてることに気づいて」。もう、このタイミングしかない! と、最近ようやく、下ろす覚悟を決めたそう。

2_ 謎が多すぎてさらに興味が湧く、映画『THE WANDERERS』のワッペン

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「バンドマンの革ジャンを見ると、“あの人は何を付けてるんだろう?”ってバッジやワッペンのことが気になってしまう。もはや病気の領域です(笑)」。そう話すHIKARU氏が次に提案するのは、1979年公開の不良の抗戦を描いた青春映画『THE WANDERERS』に関するプロダクト。

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「俺はスキンヘッドに革ジャンを纏ったBaldiesっていうチームが好きなんです。これはそんな彼らが革ジャンに付けてるドクロのワッペン。95年頃に古着屋で見つけました。ずっと大事に温めてたんだけど、BOUNTY HUNTERでMA-1を作ることがあって、肩にワッペンが付けられる仕様にしたから、そのタイミングでベロクロ縫い付けて下ろして使ってたんです」。

HIKARU氏にとってはBaldiesを象徴するプロダクトだったのだが……。ある日、こんな出来事が起こる。「これを付けて友達のハードコアのライブに行ったんです。そこには、THE WANDERERS好きな奴らが多いから、きっとみんなが食いついてくれるだろうってワクワクしてたんです。けど、誰一人反応してくれなくて。挙げ句の果てには、俺がアピールしても“なんですか、ソレ?”って感じで。すっげ~ショックでした」。

家に帰って映画をもう一度見直してみると、その理由が判明。なんと映画では、たったの2秒しか映ってなかったのだとか。「ネットの写真でTHE WANDERERSのオフショットとかを調べてみると、みんなが付けてるのがしっかりと映ってるんです。でも、なぜか映画ではそのシーンがカットされてる。おかしいでしょ? これは俺の勝手な想像なんだけど、映画は1979年公開なんだけど、物語の設定は63年。映画って時代背景を大切にするから、年代がおかしいのはマナーとして絶対にNGなんだって。だから、時代設定に合ってないって理由で誰かがカットしたんじゃないかなって」と、HIKARU氏ならではの分析を立てる。

そして、このワッペンの寂しい事実をブログにアップすると、「仙台に大ちゃんっていうSEDITIONARIES(70年代のイギリスに存在したVivienneとMalcolmのお店)のコレクターから連絡が来て。彼曰く、“SEDITIONARIESの店員もそのワッペンを付けてた”って教えてくれて。それが写っているのがこの写真集 PUNK’S DEAD。そんで去年、そんなSEDITIONARIESで働いてたJORDANさんって方が来日して、サインしてもらいました。」

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しかし、その感動の一方でこんな疑問が生じる。「アメリカ映画のTHE WANDERERSに登場するワッペンが、同じ時代のイギリスにも存在していた。ということは、映画のために作られたプロップではなく、元ネタがあるってこと? だったら、このドクロの元ネタはなんなのか? ってますます疑問になっちゃって。普通、この手のものって、世界のどこかにすっごく詳しい人がいて答えが見つかるもの。だけどこのドクロに関しては、いまだに謎だらけ。答えがすっげー知りたいんだけど、知りたくない。分かってしまうと、冷めちゃいそうで(笑)」。“分からない”とは、人間を突き動かす原動力でもある。Baldiesドクロの謎に取り憑かれてしまったHIKARU氏は、今シーズンのBOUNTY HUNTERでインスパイアアイテムを手掛けてしまったそうだ。

3_ 最近、街で見かけないからこそのドッグタグ

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「The Clashのメンバーがよく、ドッグタグを付けているのは知ってたんですけど、何年か前の雑誌でベースのPaul Simononさんがドッグタグを付けていて。“まだ付けてんだ!”、“こりゃあ俺も作りに行かなきゃな!”ってことで速攻ミリタリーショップに行って作りました。少し話が変わるんだけど、DAG NASTYっていうバンドがいて、彼らの『Field Day』(88年のサードアルバム)のツアーTシャツを昔から探してたんです。けど、当時ものが全然手に入らなかった。それがある日、eBayでブートを見つけることができたので購入したんです。ちょうどこの2つの時期が重なって、俺の中でドッグタグのブームが再来したんです」。

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タイミングというものはうまい具合で重なるもので、そんなある日、BOUNTY HUNTERのお店に一通のメールが届く。差出人はex-DESCENDENTS、ex-DAG NASTYのベーシスト。「多分、H20のTobyから紹介されたんだと思うんだけど、DAG NASTYのセカンドとサードアルバムの時にベースを担当してたDoug Carrionさんって人から、俺宛に突然メールが届いて。内容は“新しいバンド、Field Dayで日本に行きたいのですがどうおもいますか?”って相談でした。Doug Carrionさんは、DAG NASTYのPeter CortnerさんとField Dayという名前で新しいバンドを組んで7インチが出るんです。俺がドッグタグに再注目して、長年探してたField DayのツアーTを購入した時期でもあったのですごくビックリ。タイミング的にはベストだし、これで今年の夏の気分を高めて行こうかなって」。

そして最後に「街でドックタグなんて付けてる奴がいないこの時代に“ドッグタグ付けてんの?”なんて食いつかれるのも面白いだろうしね(笑)」。愛すべき天邪鬼なマインドは歳を重ねた今も健在で、やっぱり言葉の隅々にギラギラとした尖を感じる。

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4_ 久しぶりに見つけたMickey MouseのトリムT

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今年の頭にフロリダのDisneylandへ行った際のエピソード。「MickeyのトリムTシャツって、定番アイテムのように思うかもしれないけど(古着屋でよく見かけますが)、長年、Disneyに行ってチェックしてるけど、なかなか売ってないんですよ。なので発売されてるのを見つけてアガってます」。
そんなHIKARU氏と言えば、無類の黒Tシャツ主義者。白Tシャツを購入したところで着る機会なんてあるのだろうか?「そう、もうずっと黒Tシャツしか着てない。でも、90年代によく着てたトリムTシャツってなんだか自分の中ではすごく新鮮な感じで。だからあえて、久しぶりに白Tシャツを着てみるのもアリかなって」。

ちなみにBOUNTY HUNTERといえば、これまでに幾度となくDisneyとのコラボTシャツをリリースしているのだが、その理由はそんなHIKARU氏の黒Tシャツ主義に関係するそうだ。「白ボディのMickey Tシャツは売ってるんだけど、黒ボディのMickey Tシャツって意外とないんです。“どうしても着たいけど売ってない”だからDisneyさんにお願いして作らせてもらってるんです」。続けて「Disneyのコラボアイテムには、必ず著作権マークの(©)が付いてるイメージでしょ? でも実はあれ、本当は付けなくてもいんですよ。俺がどうしても入れたいから、入れさせてもらってるだけなんです」と、意外と知らない豆知識まで教えてくれた。

5_ バンドTを忠実に再現した、EXCELとのコラボTシャツ

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最後は、彼と切っても切れない深い関係にあるバンドTシャツについて。提案してくれたのは、80年代~90年代のヴェニスシーンを代表する伝説のバンド、EXCEL関連のネタ。まずはEXCELとHIKARU氏との出会いから「ボーカルのDanとは、House Of PainのDanny Boyからロスのスケートショップで紹介してもらったのが始まり。いきなりアジアのロン毛が来て、スッゲー勢いで“EXCEL愛”を語ったもんだから気に入ってもらったみたいで。その頃からの付き合いです。ちなみに俺がずっとロン毛なのは、このDanがロン毛だったのが影響なんです」。写真に写るのは、そんな同バンドが1990年代のWinterland のツアーTシャツだ。

「ウチのTシャツには背中の下にバーロゴってのがあるんだけど、それはこのバンドTのデザインが元ネタ。デザインをしたのはMichael Seiffさん。一番左は90年代の頭頃に蒲田のロビーって靴屋で購入した当時のオリジナル。中央は最近再発されたもの。再発されたって聞くと、ウチでもコラボをやりたくなるのが俺のサガ。ってことで、抜染バージョンで作らせてもらいました」。これまでにも何度かコラボをやっているが、今回はブランドとしての初の試みがあるそう。「ずっとコラボの証としてBOUNTY HUNTERのロゴを入れてたんです。でも、本当のEXCELファンからすると、“BOUNTY HUNTERのロゴいらねーよ”って思う人もいるはず。そういった人にも着てもらいたいってことで、今回はロゴを一切入れずに忠実に再現しました。同年代の人間からしてみればガキの頃が懐かしいだろうし、若い人にもこれを間口にもっと知ってもらいたい。とにかく、俺と同じようにEXCELが大好きな人に着てもらいたい」と、熱い言葉で締め括った。

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HIKARU

BOUNTY HUNTER デザイナー
今や世界が注目する存在にまで成長した原宿のストリートブランド。その中でもPUNKカルチャーの要素を落とし込んだ日本で最も有名な存在がBOUNTY HUNTER。HIKARU氏はそのフロントマンにしてデザイナーを務めるシーンのキーマン。

Photo_ Ryo Kuzuma
Text_Hisanori Kato