TALKING ABOUT ARCHIVES Vol.29

いま改めて見直したい OLD VANSの魅力

ランウェイでも当たり前の存在になり、確実にファッション的地位を上げている“スニーカー”。
ハイテクスニーカーやコラボ商品など大手企業が様々な戦略を打ち出している中、ロンドン中心部にVANSビンテージのみを扱う“Pillow Heat”というニッチなお店がある。20年以上US製のVANSを収集するオーナーのヘンリー・デイビスはなぜOLD VANSに魅せられ続けているのか?彼の名作コレクションとともに、VANSの魅力と歴史を紐解いていきたい。

「OLD VANSは何年経っても履ける靴」

___USメイドと現在の違い。

オーストラリア・シドニーのビーチ沿いにある街で育ったヘンリーが、VANSを収集し始めたのは20年ほど前の1999年頃だったいう。シューズコレクターと呼ばれる人種には2種類いて、靴を“コレクション”として履かない人達と、履けないものには価値がないと思うタイプ。彼自身は後者だと語る。「ナイキやアディダス、他のブランドを集めていた事もあるんだ。でも、ソールにハイテク技術を使っている他のブランドは時間が経つと劣化が激しく、履けなくなってしまう物も少なくない。その一方、VANSは純度の高いラバー素材を高温の窯で焼き上げるバルカナイズ法で製造しているから経年劣化がしにくい。特に僕が集めている“US製”と言われるVANSは現在制作されている物よりも良質な素材を使用しているから、靴底が丈夫で柔軟性にも優れているんだ」。その製造方法を続けるのが難しくなったのには2つ理由があるという。「VANSは今でこそ大きな企業になったけど、80年代90年代ともに会社の存続が危ぶまれ、倒産の危機を経験しているんだ。その時、VANSというブランドを残すため、海外の工場で量産する方法を選んだ。昔ながらのバルカナイズ法は環境に悪いという難点もあり、今の製造方法に変わっていったんだ。正確に言うと今のVANSもバルカナイズ法での製造はしているけれど、使用しているラバーの純度、ラバーのレイヤーの厚み、ボンドの付け方など大きく違うんだよね」。

_____VANSの始まり。

vintage van's style #45(left) vintage van doren style #44(right)

1966年、アメリカ・カルフォルニア州にカスタムメイドの靴屋としてオープンしたVANS。「当初は全て受注生産のお店で、お客さんからオーダーを貰ったら靴を製作して次の日には商品を渡す。といったシステムだった。自分が持っているジャケットの余り生地などを持ち込む事も出来たし、写真のようにロゴをデザインする事も出来た。このロールスロイスのロゴみたいなシューズはサイズ違いでもう一足持っていて、もしかしたらどこかの企業が社員のために作ったものなのかな?と思っている」。写真右の赤いチェックのシューズは最近アメリカのVANS本社に購入されたそう。「アメリカのVANSは去年からアーカイブ事業を始めたらしく、世界中から自分たちのアーカイブを買い集めているよ。何十年も経って英国からカリフォルニアに戻っていくなんて面白い話だよね。笑」。

店内ディスプレイとして飾られたピエロ用の靴

カスタムメイドの話に戻そう。「オーダーメイドで靴を作ってくれると言う噂が広まり、サーカスとか、アメリカのお店のオープニングパーティーなんかでよく見かけるピエロ達が履いていた特殊なサイズのシューズもVANSが作っていた。マクドナルドのドナルドさんが履いていた靴もVANS製なんだ」。

___VANSが初めて作ったスケートシューズと有名ロゴ“off the wall”のデビュー。

vintage van's style #95

「これは、1976年に発表されたVANS初めてのスケートシューズ。VANSの有名ロゴ“Off the wall”がデビューしたのもこの年だ。(OFF THE WALLは直訳すると“壁から離れろ”。となるが、英語のスラングで“型破りだ!”という意味。)それまでは、シンプルなデザインのものが多かったけれど、カラーも大胆な物が増えた年だね。その時カリフォルニアでブームになっていたスケートやBMXのカルチャーに目をつけ、スケーター達の意見を聞き作ったらしい。ここから僕の好きなストリートな“VANS”の歴史が始まった」。

___VANSとスケートカルチャーを語る上で欠かせない2つの名作。

vintage van's style #137

ストリート×VANSを語る上で欠かせないアイテムだと言うヘンリー。「87年に発売されたフライ柄は日本にもファンは多いんじゃないかな?」この頃からVANSは本格的にストリートカルチャーにシフトし始めたそう。「今お店にはレディースサイズしかないけれど、数年前このメンズサイズを売った時には3000ポンドで売れた。何年も前のことだから今では4000ポンド(約53万円)位の価値になっていると思うよ。コレクターの中では喉から手がでるほどの名作なんだ。マドリッドというカリフォルニアのスケートレーベルとVANSのコラボレーションで作られた靴は通称マドリッドフライと呼ばれ、VANSの歴史に残る作品だと思う」。

vintage van's style #33

伝説のスケーター“スティーブ・キャバレロ”のシグネチャーモデルとして発売されたハーフキャバレロ。「キャバレロモデルとして初めにリリースされたのはハイカットの靴だった。でももっとコンパクトで軽いものが欲しいと思ったキッズ達の間で、ハイカットのシューズをミドルトップの高さに切ることが流行ったんだ。それなら最初からミドルトップのものを。と言うことで出来たのがこの靴“ハーフキャブ”だ。キャバレロのトリックに由来して名前を付けたそうだ」。

___ビンテージVANSの魅力

vintage van's style #49

「最初に話したように、僕がVANSを集め始めたのは、何年も経った靴なのに丈夫な作りで今も履ける事。“クオリティの高い靴を作ればお客さんは戻ってくる”という創業者の誠実な信念を尊敬している。このブルーの靴も20年前に作られたとは思えないほど洗練されていてクールでしょ?日本には仕事で何度も訪れたことがあるけれど、日本人はビンテージに対してとても知識が深い国だと思う。古い物の価値を理解するということは、アップサイクルな考え方だし、とても感心するよ」。さらに彼はこう続けた。「20年以上、商品として数千を超える靴を買い付けてきた。でも自分のパーソナルコレクションは66足くらいなんだ。靴のビンテージは洋服よりも自分好みのデザイン、サイズに出会うことは難しい。それがデットストックで箱付きになれば格段に難易度も価値も上がる。だけどその分掘り出した時の感動は計り知れない。その難しさもビンテージシューズの魅力なんじゃないかな?」

ヘンリー・デイビス/ Henry Davis

オーストラリア・シドニー出身。20年前からUS製のVANSに魅了され収集を始め、2004年からはショップ『ピロー・ヒート』をイーストロンドンにオープン。現在はVANSカーナビーストリート店の2階に店舗を構える。昨年、UKを代表するスケーター“ジェフ・ロウリー”とのコラボレーションによるオリジナルVANSの制作や、日本の企業SOLとのコラボレーションを発表するなど活動の幅を広げている。

pillowheat.com

Access:
47 Carnaby street
London, UK
W1F 9PT

Photo_ Aimi Kishimoto
Interview&Text_ Saori Yoshida
Edit_ Tatsuya Yamashiro