TALKING ABOUT ARCHIVES Vol.21

LABORATORY/BERBERJIN 的場氏に聞く、ファッションブランドが虜になったバンドTシャツたち

的場 良平さん

好きな音楽を表現する名刺代わりのような存在のバンドTシャツ。そういったカルチャーとしての要素はもちろんだが、いつの日からか、ファッションアイテムとしての市民権もしっかりと獲得した。その理由のひとつとして、数多の人気ブランドがデザインの元ネタに使ったことが挙げられるのではないだろうか。そこで今回は“多くのファッションブランドから愛されたバンドTとは?”といった切り口でこの分野の魅力を紐解きたい。お話を聞いたのは、ヴィンテージロックTに造詣の深いLABORATORY/BERBERJIN® 的場 良平さん。

バンドTシャツはファッションであり現代アートでもある

的場 良平さん

--- バンドTシャツ(以下:バンドT)のルーツを遡ると、どの年代に辿り着くのでしょう?

「僕はヒッピーカルチャーが開花した60年代のアメリカだと思います。グレイトフル・デッドがライブ会場などで販売したマーチャンダイズなどが原点ではないでしょうか。」

--- なるほど。

「その少し後にイギリスで巻き起こったパンクカルチャーも関係している気がします。このカルチャーのルーツのひとつといえば、ヴィヴィアン・ウエストウッドとマルコム・マクラーレンの存在。彼らがロンドンのキングスロード430にSEXというショップを開いことがきっかけでムーブメントは大きく加速すした訳ですけど、そのお店を開く前の敷地には、パラダイス ガレージというショップがあったんです。そこで取り扱っていたプリントTが後のロックTに大きな影響を与えたんだと思います。今回持ってきた豹柄のタンクトップは、パラダイス ガレージで取り扱われていたもので、ジョン・ドーヴ&モーリー・ホワイトというアートユニットが手掛けたデザイン。シド・ヴィシャスなどが着用したことで有名なコレクターズアイテムなんです。バンドのマーチ的な存在がロックTだと定義すると、このアイテムはロックTではありませんが、ルーツを紐解く上ではとても重要な1枚ですよね。」

タンクトップ
ジョン・ドーヴ&モーリー・ホワイトが手掛け、パラダイス ガレージで販売されていたタンクトップ。

--- 多少の時間差はあれど、アメリカとイギリスでほぼ同時多発的に生まれたと。

「はい。ただ、当時の音楽の歴史背景を踏まえて考えると、双方のデザインには極端な違いがあったでしょうね。バンドTは自分たちの主張をTシャツというキャンバスに表現するもの。アメリカは愛や平和で、一方のイギリスは攻撃的なデザインが多かったはずです。」

--- バンドTと聞くとマーチャンダイズやブートレグ(非合法商品)のイメージが先行するので、ありものボディにプリントをしたチープなものを連想するのですが。

「一概にはいえないですよ。ラインストーンが施されたものや、プリントに拘ったものなど、バンドのこだわりが反映された変わり種も数多く出回っていたりもします。例えば、こちらのショウコ・サウンドが手掛けたザ・フーの76年ツアーTシャツなんて、フロッキープリントの様な独特な仕様で表現されています。」

ザ・フーのツアーT
独特なプリントで表現されたザ・フーのツアーT。

--- 今やファッションアイテムの一つとしても認知されているアイテムですが、一般的なファッションとしても取り入れられ始めたのはいつ頃からなんでしょうか?

「僕は90年代以降だと思ってます。立役者のひとりがニルヴァーナのカート・コバーンではないでしょうか。彼はよく、ソニック・ユースやマッドハニーといった仲間のTシャツを身につけていました。ファッションアイコンでもあった彼に憧れたファンたちが、日常でも身につけ始めたことで、よりファッションとしても浸透していったんだと考えています。そしてもう一つ考えられるのが、90年代に裏原宿で活躍し始めた方々の影響です。」

--- 確かに90年代の日本のファッション雑誌などを見ると、バンドTを着こなしているクリエイターの方を見かけますね。

「この頃は、まだ今ほど値段が跳ね上がっていなかったんですよ。今では高値の付くヴィンテージもアンダー1万円で購入できた時代だと思います。」

的場 良平さん

--- いつ頃から値段が釣り上がっていったんですか?

「90年代といえば、日本に古着ブームが到来した頃。まずはデニムから始まったと思うんですけど、その後発としてヴィンテージのバンドTにも注目が集まりました。なので、2000年代頃からじゃないでしょうか。」

--- 付加価値がつき始めたのは日本からなんですか?

「他の古着と同じ様にヴィンテージのバンドTに価値を見出して販売するってことが日本独自だったんだと思います。ゼロ年代頃からは、アメリカなど海外の方が日本へ買い求めにくる方が増えて、その方々が、自国で販売するっていう逆輸入的な現象が起き始めたんですよ。当然、逆輸入ですから値段は驚くほど跳ね上がる。でも、その現象が起こったからこそ、ヴィンテージバンドTの価値は世界的により付加価値を高めていったんです。」

ド定番のバンドT
的場さんがド定番のバンドTとして持参してくれたセックス・ピストルズ(Left)、セックス・ピストルズのボーカル、ジョン・ライドンが1978年に結成したパブリック・イメージ・リミテッド(Center)、ジョイ・ディヴィジョン(Right)の3枚。

--- これまでに数々なブランドがサンプリングソースに使ったアイテムでもありますよね。こういった流れは、いつ頃から盛り上がりを見せたんでしょう?

「90年代くらいからコアなブランドはやっていたと思いますが、世界的なブランドがそういったことを始めたのは、恐らく2000年代以降だと思います。ファッションデザイナーのエディ・スリマンなどがロックとファッションを紐づけた提案をし始めた辺りからだと認識しています。僕はエディ・スリマンといえば、マッドネスのTシャツを着ている印象が強いです。」

--- その要素は、バンドTがよりファッションとして浸透したことに関係がありそうですよね。ちなみに的場さんの中で、コレクションブランドのイメージが強いバンドTって他にありますか?

「一番最初に思い浮かぶのはラフシモンズ。ジョイ・ディヴィジョンやニュー・オーダーなどのアートワークを使っていたイメージが強いです。きっとデザイナーの方は、音楽はもちろんなんでしょうけど、デザインを手掛けたピーター・サヴィルのアートワークも敬愛していたんでしょうね。」

ジョイ・ディヴィジョンとニュー・オーダーのバンドT。
ピーター・サヴィルがアートワークを担当した、ジョイ・ディヴィジョンとニュー・オーダーのバンドT。

--- なるほど。ピーター・サヴィルの手がけるデザインにはファンが多いですからね。

「バンドTは好きな音楽を表現するツールでありファッション、そしてアートでもあるんだと思います。三つ巴の関係性というか。そのいい例がアンディ・ウォーホルじゃないかと。彼はアーティストでありながら、ヴェルヴェット・アンダーグラウンド・アンド・ニコをプロデュースしたりもしていた。そしてそのバンドTを近年シュプリームがオフィシャルでコラボレートした。今考えると、もう全部がリンクしている気がするんですよ。」

--- バンドTのサンプリングといえば、ストリートブランドの真骨頂でもありますよね。

「まず思い浮かぶのがシュプリーム。このブランドほど、早い段階から幅広いバンドをフィーチャーしたデザインを展開していたブランドはないんじゃないですかね。しかも、ブラック・サバス、バッド・ブレインズ、ジョン・コルトレーンなど、目の付け所が本当に面白い。創立当初の94年頃は、アンオフィシャルが多かった印象ですけど、いつの間にかオフィシャルで展開し始めてますよね。そのあたりも凄い。最近だと、ザ・スミスが記憶に新しいですよね。」

ザ・スミスのバンドT。
ザ・スミスのバンドT。

--- その中でも特に的場さんが面白かったサンプリングってありますか?

シュプリームが展開した不二家のマスコットキャラクター、ペコちゃんのTシャツです。アンオフィシャルだったこともあり、不二家サイドからNGが出て日本では展開されなかったんです。でもこのデザインの元ネタって、実はペコちゃんではなくてレッドクロスというバンドのTシャツが元ネタだったらしいんですよ。そういったウンチクがあるのもこのカテゴリーならではの魅力なのかなと。」

--- 今回はメタリカのTシャツもお持ちいただきましたが、これはどういった理由からですか?

「こちらは割りかし近年、再注目を集めているものとして持参しました。ストリートとハイブランドの融合的なブランドが、メタリカなどのロゴを大胆に使っているんです。僕の中では、その象徴的なブランドがバレンシアガやヴェトモン。これは間違いなく、デムナ・ヴァザリア(元ヴェトモンのデザイナーでバレンシアガのアーティスティック・ディレクター)の影響。おそらく彼がメタリカを大好きなんでしょうね。」

メタリカのバンドT
メタリカのバンドT。
メタリカのバンドT
メタリカのバンドT。

--- 的場さんの中で、今回のテーマにハマるバンドTってどういったものですか?

「あえてバンドTではないものを持ってきました(笑)。こちらは、80年代から活躍を始めたスティーブン・スプラウスっていうアーティストのものです。」

スティーブン・スプラウスのアートT
スティーブン・スプラウスのアートT。

--- バンドではなくアーティストTを持参された理由は?

「スティーブンは、イギー・ポップやドアーズのジム・モリソンをモチーフにした作品を発表したり、ミュージシャンの衣装デザインやアルバムジャケットを手がけるなど、音楽と密にリンクしていた人なんです。そんな彼を世界的に有名にしたのは、ルイ・ヴィトンとのジョイントワーク。マーク・ジェイコブスがデザイナーを務めていた2001年SSで発表された“モノグラム・グラフィティ”シリーズです。マーク・ジェイコブスがスティーブンの長年のファンであったことは有名ですが、他にも様々なアーティストやロックミュージシャンに影響を与えたアーティスト。クリエイティビティの源に音楽、ファッション、アートがあるスティーブンの手掛けるTシャツを僕は究極のロックTだと思ってます。」

--- 今後はどういったバンドのTシャツに注目が集まると思いますか?

「それこそ、昔はパンクの人がパンクのTシャツを着て、ヒップホップの人はヒップホップのTシャツを着るのが当たり前でしたよね。でも今はラッパーのエイサップ・ロッキーがバンドTを着るだとか、そういった時代ですからね。そういった文脈で考えると、正直、もうこの先どうなるのか分からない(笑)。想像もできない様な未来が到来しそうでワクワクします。でも、バンドTの価値が薄れることはないと思いますし、今後は2000年代以降に活躍したバンドのTシャツが新たなバンドTとして注目を集めることは間違いなさそうですよね。」

--- 確かに、その年代のものが新たなヴィンテージとして認知されていくのは必然の流れですよね。

「もうひとつ予想できるのが、最近は技術の進化から、クオリティの高い偽物が数多く出回っているんです。だからこそ、本物を目利きできるプロが偽物を除外していく作業が必要になってくると思うんです。」

的場 良平さん

--- そんなに偽物が出回っているんですね。

「はい、皆様が想像する以上に。ただ、そもそもバンドTには、ブートでも価値があるものが沢山あります。今お話ししている偽物とは、例えば80年代のヴィンテージTシャツを忠実に再現して、“これは80s′のものですよ”と販売しているケースのことです。酷い話ですよね。」

--- 当然ですけど、ヴィンテージのバンドTは、これからどんどんと枯渇状態になっていく。だからこそ、本物のバンドTはより付加価値を付けていくんでしょうね。

「そうですね。先ほどのウォーホルの話じゃないですけど、バンドTはアートに近い存在だと思うんです。だからこれからは、アートとしての価値がより高まっていく。それこそ、そのプロダクトに誰かがアートワークを加えると、物凄い価値がつくことだってありえると思うんです。バンドTは、音楽からファッション、そして現代アートになっていくんではないでしょうか。」

的場 良平さん

的場 良平/RYOHEI MATOBA

offshoreマネージングディレクター/LABORATORY/BERBERJIN®ゼネラルマネージャー
世界有数のヴィンテージロックTの品揃えを誇るLABORATORY/BERBERJIN®のゼネラルマネージャー。それと並行し、2017年にはセレクトショップのoffshoreを立ち上げた。

Photo_ Ryo Kuzuma
Text_ Hisanori Kato