ART AND MODE Vol.05

共鳴するアートとモード RAF SIMONS & Supreme x Peter Saville

毎シーズン、ランウェイには多くのアートを宿したアイテムが登場する。そのひとつひとつのアートには選んだデザイナーの確固たる意志が息づき、その背後にはアーティストとブランドの歴史やドラマが存在する。アートとモードの共鳴が産んだ特別なアイテムたち。それらを知らずに着るのはもったいない。その背景を知れば、もっとそのブランドが、そのデザイナーが好きになるはずだ。ハイファッションを通して、アートを知る喜び、着る喜びを感じてほしい。

RAF SIMONSとの伝説的なコラボレーションやYOHJI YAMAMOTOの広告、近年では、BURBERRYのロゴもデザインするなどファッション業界に大きく貢献してきたイギリス人グラフィックアーティストPeter Saville(ピ―ターサヴィル)。誰もが一度は目にしたことがあるJoy DivisionのUnknown Pleasuresのカバーアートを制作した人物だ。彼は、オリジナルのアートワークの制作だけではなく、今でこそHip Hopや多くのデザイナーが行っているサンプリングのような手法にも非常に長けている。Unknown Pleasuresの波形のグラフィックは、 ケンブリッジ天文学百科事典からコピーされたもので、初めて発見されたパルサー(パルス状の波を発する天体)CP1919の無線パルスの画像だという。また、New OrderのカバーPower Corruption&Liesは、18世紀の画家アンリ・ファンタン‐ラトゥールの絵画をベースにバンド名と曲名をカラーコードにしたものをサイドに配置して完成させた。

Unknown Pleasuresが発売されて約20年経ったころ、ピーターのグラフィックをベースに新たなアートを作り上げたのは、RAF SIMONSだ。近年のアーカイブ人気を牽引してきたRAF SIMONSのアーカイブの中でも、彼のアートが使用されたものの評価は特に高い。 だが、ピーターのアートワークをより幅広い層に広めたのはSupremeだろう。今ほどモードとストリートがクロスオーバーしていなかった時代にピーターのグラフィックをストリートウェアに落とし込んだことは革新的でJoy Divisionもピーターも知らない若い層の記憶にそのグラフィックを焼き付けた。

両ブランドのデザインへのアプローチは、全く異なるものでRAF SIMONSは、ポストパンクバンドというカルチャー、そしてそのバンドの印象的なグラフィックを制作したピーターサヴィルから着想を得てコレクションを制作。自身がデザインした服をパレットにグラフィックや曲名などをアクセントとして落とし込んだ。モッズコートの背面に配置されたグラフィックや細部にペイントされた文字は、コートをより重厚感のあるデザインへと押し上げた。

一方でSupremeのアプローチは、Tシャツやスニーカー、パーカーなど多くの若者がデイリーに身に付けられるアイテムに落とし込んだ。特に印象的なのがSupremeより2013年春夏に発売されたアイテム。New Orderのカバーアートを幾重にもコラージュさせて使用。高級感のあるデザインをストリートブランドらしいアプローチで総柄にすることで全く新たなデザインを作り上げた。ピーター自身もラトゥールの絵画をベースに同アートを制作したことを知った上でSupremeも遊び心のあるアプローチをしたのではないだろうか。同じアートから影響を受けたとしても、各デザイナーの背景、感じ方は異なり、それがアプローチ方法、そして作品に違いを与えている。

近年では、アート同様に貴重なデザイナーブランドやメゾンのアーカイブがミュージアムで展示されるだけでなく、オークションで販売されるなどアーカイブへの評価が世界的に高まっている。デザイナーのクリエイティビティとアートが結びついたアーカイブこそが着用できる究極のアートと呼べるのではないだろうか?

Text_ SHUHEI HASEGAWA


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