ART AND MODE Vol.02

共鳴するアートとモード Andy Warhol × Calvin Klein 205W39NYC

毎シーズン、ランウェイには多くのアートを宿したアイテムが登場する。そのひとつひとつのアートには選んだデザイナーの確固たる意志が息づき、その背後にはアーティストとブランドの歴史やドラマが存在する。アートとモードの共鳴が産んだ特別なアイテムたち。それらを知らずに着るのはもったいない。その背景を知れば、もっとそのブランドが、そのデザイナーが好きになるはずだ。ハイファッションを通して、アートを知る喜び、着る喜びを感じてほしい。

 現代のファッション界において、ラフ・シモンズほどアートに精通しているデザイナーはいないだろう。自身の名を冠したブランドでもピーター・サヴィルやスターリング・ルビーに目をつけ、彼らのアートワークを落とし込んだアイテムを多数発表してきた。私生活でもアートへの愛が溢れており、自宅やアトリエはそのアーティストの知名度の高さや時代、国籍関係にとらわれず、さまざまなアーティストの作品で埋め尽くされている。そんなラフ・シモンズがCalvin Kleinのチーフ・クリエイティブ・オフィサーに就任するというニュースがアナウンスされたのは2016年のこと。ベルギーに出自を持ち、これまでJIL SANDERChristian Diorを手がけてきたラフが、アメリカの代名詞とも言えるビッグブランドをどう表現するのか。世界中のファッション好きが注目する中、秋冬のコレクションに先駆け、デニムとアンダーウェアの春夏のキャンペーンヴィジュアルが発表された。“アメリカン・クラシック”と題したそのキャンペーンは、アンディ・ウォーホルやダン・フレイヴィン、リチャード・プリンスなど、アメリカを代表するアーティストの作品が登場。彼にとってCalvin Kleinのアイコニックアイテムであるデニムとアンダーウェアはもはやアメリカのポップカルチャーの一つであり、そのためアメリカのアート作品を起用したという。ラフ・シモンズによるCalvin Kleinは、アメリカという大国の背景や、そこで生まれたポップ・カルチャーを取り入れるというストレートな姿勢で幕を開けた。

 続く2017A/Wのコレクションでは、さらに真っ向からアメリカに向き合った形となった。米アーティスト スターリング・ルビーのアート作品が会場を彩り、デヴィッド・ボウイの「This Is Not America」がショーミュージックとして流れる中で、デニムのセットアップやウェスタンシャツなどアメリカントラッドに身を包んだモデルが闊歩した。そのラフによるアメリカの解釈はさらに加速し、2018S/Sではアンディ・ウォーホルのアートワークを全面的に押し出したコレクションを発表する。ただ、ウォーホルといってもキャンベルスープやマリリン・モンローのような誰もが知っているような作品ではなく、“死と事故”をテーマにした“Death and Disaster”という未発表も多いシリーズに目をつけ、その中からウォーホルと親しかったアートコレクターのサンドラ・ブラントと、映画俳優のデニス・ホッパーのポートレイトなどをピックアップしていた。

 ラフはウォーホルについて、「彼の才能は、キャッチーなキャンベルのスープ缶だけでなく、それよりもずっと奥深いものだと気づいたんだ。ウォーホルはアメリカの全ての面を捉えている。そのダークサイドもね。彼のアートは何よりも正確にアメリカの真実を教えてくれるんだ」と語っている。アートを人生の一部と捉えているラフにとって、ウォーホルのアートこそアメリカなのであり、彼にとってのアメリカとはウォーホルのアートの中にあるのである。そんな彼が数多くあるウォーホル作品の中から選んだアートワークが施されたアイテムは、それだけで大きな価値がある。しかも未発表作品であれば、多くの人にとってはそのウォーホル作品はこのCalvin Kleinのアイテムでしか見ることが出来ないかもしれないのだ。

残念ながらラフ・シモンズはCalvin Kleinのチーフ・クリエイティブ・オフィサーを退任してしまったが、だからこそもう一度、このウォーホルの貴重なアートワークをCalvin Kleinというブランドを通して発表した彼の並外れたクリエイションに目を向けたい。そして、そのアイテムに袖を通すことで、ベルギーの孤高のデザイナーが吹き込んだアメリカの魂を感じて欲しい。

Text_ Kana Koyama


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