ART AND MODE Vol.01

共鳴するアートとモード Sumi Ink Club × Saint Laurent

毎シーズン、ランウェイには多くのアートを宿したアイテムが登場する。そのひとつひとつのアートには選んだデザイナーの確固たる意志が息づき、その背後にはアーティストとブランドの歴史やドラマが存在する。アートとモードの共鳴が産んだ特別なアイテムたち。それらを知らずに着るのはもったいない。その背景を知れば、もっとそのブランドが、そのデザイナーが好きになるはずだ。ハイファッションを通して、アートを知る喜び、着る喜びを感じてほしい。

 ランウェイで登場したアートワークは、当然のことながら世界中のファッション関係者の注目を集めることになる。ウォーホルやバスキアのような著名なアーティストの作品の場合もあれば、全く知られていない無名のアーティストの作品の場合もある。後者の場合、その無名のアーティストは、一夜にしてその名を世界に轟かせることになる。つまり、ラグジュアリーブランドやそのデザイナーには、無名なアーティストをファッションを通して世界中に発信する力を持っているのである。

 エディ・スリマンは、そのことを深く理解(あるいは意識)し、これまでに数多くの知られざる才能を発掘してきたデザイナーの一人だ。彼はまだインディーなミュージシャンやアーティストを自身のコレクションに起用し、数々のスターを生み出してきた。なかでもそれが顕著に表れていたのが、2013AWシーズンに始まるSaint Laurent時代だったと思う。生活の拠点をパリからLAに移したエディ・スリマンは、ランウェイの舞台までもカリフォルニアに移し、そこで同じくLAをベースにするさまざまなアーティストやミュージシャンを積極的に起用した。その結果、これまでにない新たなアイテムやショーミュージックが誕生することになる。その一つが、このモーターサイクルジャケットだ。

 エディ・スリマンが得意とするロックスピリット溢れるレザージャケットだが、スタンダードなオールブラックではなく、アーム部分にグラフィックが施されている。このグラフィックを手がけたのは、LAを拠点に活動するSarah RaraとLuke Fischbeckの二人を軸にしたアーティスト集団、Sumi Ink Clubだ。アーティスト名にもあるように、Sumi(墨)を用いた細かいドローイングが特徴で、その作品は階級や年齢、性別、人種など関係なくすべての人が参加できる“グループドローイング”という手法を用いて制作されている。公式サイトでは、彼らのアートワークが公開されており、それを世界中の誰でも無料で閲覧・印刷・使用できるフォーマットが用意されている。

カリフォルニアらしい自由奔放で開かれた制作方法と、それによるオリジナリティ溢れる作風、そしてSaint Laurentに通ずるモノトーンの世界観。これらを考えると、エディ・スリマンがSumi Ink Clubをフィーチャーしたのは必然だったと言ってもいいのかもしれない。この両者のコラボレーションによって誕生したモーターサイクルジャケットは、やはり他のモーターサイクルジャケットとは一線を画す、ひときわインパクトのある特別な一着に仕上がっている。(ちなみにランウェイでこのジャケットを身にまとって登場したモデルも、同じくカリフォルニア出身の双子のパンクバンド、The GardenのFletcher Shearsだった)

エディ・スリマンからラブコールを受けたSumi Ink Clubは、一着のジャケットによってその存在を世界中に知られることになり、今現在も精力的に活動している。たった一つのアイテムが、そのアーティストを一躍有名にし、時には人生を変えることだってあるのだ。だからこそアートとモードの関係性は奥が深く、面白い。

Text_ Kana Koyama


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