INTERVIEW WITH YOUR FASHION ARCHIVE
2015年前後、アーカイヴ・ブームが加速し始めたときのことは鮮明に覚えている。90年代から00年代前半のRAF SIMONSやHELMUT LANGをリアルタイムで経験していないキッズ達が、USのラッパー達をアイコンに、それまでのコレクターとは全く違う文脈で作り上げた独自のスタイルは、アーカイヴという価値観の新たな時代を予感させる、非常にフレッシュなものであった。初めはカニエ・ウエストが着用したボンバー・ジャケットのことばかり話していた彼らが、いつの間にかオーバーサイズのスウェットやスリーヴレスのフーディを着るようになり、気がつくと1995年のファースト・コレクションを必死に探すようになっていた。
とんでもないスピードで、ギーク的に日々アーカイヴの知識を蓄えていった彼らの主な情報源となっていたのは、名だたるファッションスクールの資料室でもなく、Firstviewのようなランウェイフォトのデータベースでもなく、それらの情報をキュレートしたパーソナルなソーシャルメディア・アカウントの数々であった。
過去数年、10代から20代の若者達が運営するアーカイヴ関連のアカウントは急増し、世界各地の同士達と繋がりシナジーを生み、それぞれのキュレートを発信し続けている。その中でも、どこかアカデミックな個性を発揮しているのが、@yourfashionarchiveだ。
このインスタグラム・アカウントでは、『Men’s Non-no』『Smart』『Gap Press』『装苑』といったヴィンテージマガジンのスキャンイメージを投稿し、著名デザイナー達のコレクションだけではなく、ユニークなキャンペーン広告から当時の原宿スタイルに至るまで極めて幅広く、且つ確固たる視点でアーカイヴを紐解き、世界中にひっそりとメッセージを送っている。
上述のインスタグラム・アカウント と“Oliver”という名前以外ほぼ情報がなかった彼と、暫くの間メッセージのやり取りを重ねた後、インタビューはスタートした。
まず初めに、ご自身の事を教えてください。あなたは何者ですか?
ファッションとその歴史を語ることが大好きな、21歳のルーザーです。
@yourfashionarchiveとはどういったものなのでしょうか?
僕の幅広いヴィンテージマガジンのコレクションからスキャンイメージを掲載するインスタグラム・アカウントです。みんなに無名のブランドやデザイナーを共有し、関連する美しいイメージを発掘することを楽しんでいます。フォロワーが増えてきてからはスキャンイメージ以外に、デザイナーのインタビュー、エディトリアル撮影写真も載せ始めました。過去と現在のフレッシュかつアーティスティックなアイディアで、人々に刺激を与えたいと思っています。
アカウントを拝見すると、子供の頃から何かに執着していたのではないかと感じたのですが。
僕に昔から執着心があったことに気づきましたか(笑)。ポケモンカード、シーグラス、スノードーム、はく製といった物を集めるのが大好きでした。今でも覚えているのが、4年生の時にお父さんと初めてモールの紳士服売り場に行って、ミリタリー風の格好良い服を買ってもらったことです。学校で凄く自信が持てましたし、それ以来、僕の服のセンスは進化し続けていますね。
デザイナーアーカイヴの世界に興味を持ち始めたきっかけを教えてください。
小遣い稼ぎのためにヴィンテージの服を売買していたのですが、次第にファッションの歴史に目覚めていきました。でも “アーカイヴの世界” に本当にハマったきっかけは、JC(@jcdachurro)がYouTubeでRAF SIMONSのコレクションを自慢している動画を観てからですね。
ヴィンテージの雑誌に魅了されたきっかけについても教えてください。
まず初めにデザイナーズアーカイヴに没頭していきましたが、ヴィンテージの雑誌が歴史を記録している最適な資料だと思ったので、そこから日本のファッション誌を読み漁るようになっていきました。持っている全ての雑誌を気に入っていますし、ファッションとは関係のない記事からも大きな刺激を受けています。
『Men’s Non-no』『Smart』『Gap Press』『装苑』といった90年代の日本の雑誌が特に好きな理由を教えてください。
ファッションの表現力が豊かで素晴らしいんです! エディトリアルやアート特集も大好きです。誰もが欲しがっているアーカイヴの洋服が、当時のランウェイやエディトリアルの中で見られるのも興味深いですね。ストリートファッションやコスチュームの写真も良い刺激になりますし、『Gap Press』のような雑誌は、インターネット上では見つからない様々なブランドのコレクションが取り上げられているんです。
一番好きなデザイナーと、そのデザイナーのおすすめコレクションを教えてください。
それは難しいですね。でもアレキサンダー・マックイーンの「Voss」コレクションは、メンタルヘルスというテーマとショーの全体的な美しさが心に触れて、僕の中ではいつまでも特別なものですね。フセイン・チャラヤンの全てのランウェイ、特に2000年春夏コレクションもおすすめです。日本のブランドではUNDERCOVERとISSEY MIYAKEが大好きです。UNDERCOVERは「Languid」、ISSEY MIYAKEは1991年春夏コレクションが一番気に入っていますね。好きなブランドやコレクションが多過ぎて、順位をつけられません!
実際にデザイナーズアーカイヴも集めていますか?
はい、膨大なコレクションを持っています! たまに洋服を貸し出すこともありますし、常に買い足してもいます。かなり不健康な中毒状態といえますね。
デザイナーズアーカイヴ以外にも90年代の原宿ファッションもお好きだと思うのですが、どんなところに惹かれているのでしょうか?
ロリータ系、カワイイ系、サイバー系、パンク系……。あの時代の原宿におけるスタイルや美学が本当に大好きです。僕にとってはあの時代が表現力豊かなファッションの頂点だと思っていて、当時のお気に入りの雑誌は『KEROUAC』。ファッションそのものが象徴的だっただけでなく、この雑誌が持つ特有なスタイルやフォーマットにも惹かれました。
最新コレクションや現在のファッション誌についてはどう思いますか?
正直、僕は最新コレクションについていけていません。購読しているファッション誌はありませんが、YouTubeは頻繁に観ているので、そこでたまに最新コレクションの動画を目にするくらいです。
新しいものとアーカイヴの決定的な違いを教えてください。
個人的な意見ですが、アーカイヴには何らかの歴史的意義があるので、着るための洋服という存在から、芸術品に昇華するものなんだと思います。
人々はなぜ、デザイナーズアーカイヴに魅了されているんだと思いますか?
おそらくラッパー達が、新しいデザイナーの服よりアーカイヴのことを歌詞で歌って、ミュージックビデオで着ているからですかね。それにGrailedのようなプラットフォームが、素人でも簡単にアーカイヴを手に入れる窓口になっています。でもアーカイヴを通して僕と繋がる人が多いから、沢山の人が魅了されてくれて嬉しいですね(笑)。
デザイナーズアーカイヴの流行は続いていくと思われますか?
どうでしょうかね。みんな常に過去やアーカイヴファッションへの想いは持ち続けると思いますが、その内話題のアイテムやブランドへの盛り上がりは薄れていくと思います。誰が本当に洋服の歴史的価値に興味を持っているのか、もしくはただ流行に乗っているだけなのかは、時間が証明してくれるでしょう。
今後の@yourfashionarchiveを通してのプランを教えてください。
このアカウントがファッション業界への扉を開いてくれることを期待しています。かなりの影響力があるのに、未だにファストフード店でのバイトしながら家賃を払うのに苦労しているんです。引き続きインタビューやエディトリアルを載せながら、いずれは洋服を販売して、YouTube動画も制作したいと思っています。ある日突然みんなが僕に興味をなくして、自分が価値のない人間になってしまうことが怖いので、常に自分自身を磨きながら、興味を持ち続けてもらえるようにしたいですね。
Interview text_ YASUYUKI ASANO