INTERVIEW WITH SHINPEI GOTO
1991年、『6・1 THE MAN』のヨウジヤマモト。M A S U後藤愼平。
時間が経っても思い出される、個々人の記憶にアーカイヴされたコレクションがある。ファッション史に残るエポックメイキングなもの、個人的な嗜好に影響を与えたモード。年代や発表された都市といったルールは一切設けることなく、現代で服作りをするデザイナーに、自身の記憶に深く残っているコレクションとは何かを尋ねてみることにした。
1992年生まれのデザイナー後藤愼平が手掛ける、エムエーエスユー(M A S U)のアトリエに向かった。迎え入れられたテーブルの上には、数十年前のファッション誌や、アウグスト・ザンダーらの写真集が山積みになっていた。「僕自身が実際に洋服を目にして衝撃を受けた原体験は、MAISON MARTIN MARGIELAのドール・コレクション(1994年秋冬シーズン)。今、服作りだけでなくブランドのあり方やアプローチの仕方を含めて個人的に関心があるのは、20471120です。が、今回、個人の視点からひとつ選ぶというリクエストに答えるなら、1991年に、コム デ ギャルソンとヨウジヤマモトが『6・1 THE MAN』というワードを掲げ、東京で行われた合同ショーにおける山本耀司さんの1991年秋冬シーズンのメンズコレクションです。この年、僕はまだ生まれていませんが、洋服のデザインはもとより、バブルを背景にした勢いも感じるし、目を見張るような各界のスターがモデルとして勢揃いしている。昔の雑誌や映像を観て、最高の、男の遊びをしているなって思うんです」
「僕の偏見かもしれませんが」と笑いながら彼は、「90年代以降のメンズファッションが面白いと思えるのは、耀司さんのコレクションの存在が大きいんじゃないかと思っています」と話す。
自身のコレクションのためのリサーチの有無にかかわらず、母校の図書館におもむいて、70年代以降のコレクションマガジンをランダムに開くことが多いという後藤さん。「素直にいうと、80年代のメンズのコレクションをみていても高揚することが本当に少ない。でも僕にとっては明確に、男性の服でここまで攻めてもいい、メンズウェアでも遊んでいこうという大胆なムードをはっきりと感じ取れるのが、このコレクションなんです。以降、世界中のメンズコレクションは明らかに活気付いているように思えるんです」
「僕自身、上京してからヨウジヤマモトの古着を買って、パットが入っていない肩が落ちたテーラードジャケットや、ツータックの太いパンツをよく着ていました。欧米の人よりも、日本人である僕の方が似合うんじゃないかって思っていましたね(笑)。90年代のヨウジヤマモトのメンズは特に、八頭身の美学から離れていて、僕自身が着物との繋がりを紐解こうとしたことがあるくらい身体のラインが出ない。ある意味、『間』の美意識だとも思うし、もっと遡れば、開港するより前に脈々とあった日本の民族的な美しささえも感じる。そうした精神性を取り戻そうとしているように思えるほど、90年代以前の西洋の高級紳士服の文脈に対して、明らかにワークウェアや労働というエッセンスに目を向け、作業着用の素材でもあるタフなギャバジンを使ってスーツを作ったりしてきた。そうした選択にも、ブランディング以上の結びつきを感じるんです」
彼は、自身が手がけるブランドが目指す、メンズファッションの未来を思いながらこう話を続けた。「ファッションを社会潮流と結びつけながら見ることはそう多くないのですが、改めて『6・1 THE MAN』が脳裏に浮かんだ理由には、時代背景として湾岸戦争があって、それによってパリコレにバイヤーが集まらないという状況、あるいは、命の尊厳が考えられたり、ポジティヴにはなりきれない気分が、自由と、『男の遊び』をみたあのコレクションに改めて感じたからです。このムードはどこか、昨年から続いている僕たちを取り囲む今の環境とも似ているように思えます。耀司さんの言葉なのか、どなたかが語った言葉かはうろ覚えなのですが、『最上階で飲む冷えたシャンパンも、ポケットの小銭で買う安いビールも同じように味わえたらかっこいい男だ』って言っていたんです。直感的に腑に落ちたことを、鮮明に覚えています」
後藤愼平
1992年、名古屋生まれ。2014年文化服装学院を卒業後、ヴィンテージショップ「LAILA」に入社。同社のブランド立ち上げメンバーとして2015-16年秋冬シーズンから2018年春夏シーズンまで企画、生産として携わる。退社後、25歳でエムエーエスユーのデザイナーに就任。2018年秋冬コレクションより本格始動し、2021年秋冬シーズンはランウェイショーを開催した。
Interview text_ TATSUYA YAMAGUCHI
photography_ KOUHEI IIZUKA