INTERVIEW WITH DR NOKI

サステナブルファッションの生みの親

僕にとって、ヴィンテージから一点物を生み出すリメイク・アーティストといえば、NOKIである。約15年前、ロンドンを中心に熱を帯びていたクラブシーン発のニュークリエイター達に入れ込んでいた僕は、大阪のH100というショップに足繁く通っていた。当時最もエッジが効いた若手デザイナー達のコレクションが所狭しと並んでいたその店内で、一際異彩を放っていたのがNOKIのリメイク・ピースであった。「カスタム・ビルド」という彼独自のリメイク手法で、ヴィンテージTシャツが大胆にコラージュされ、キャラクターの目やロゴが丁寧にくり抜かれ、幾つものスラッシュや編み込みが丹念に施されたアイテム達。それはストリートにおけるクチュールであり、モードでありアートであり、そして今振り返ると、極めてサスティナブルなアプローチであった。

ロンドンの90年代レイヴシーンにおいて、当時のグローバリゼーションや大量消費へのカウンター・カルチャーとして生まれ、アイコニック且つアイロニックな手法で個性の重要性を訴えてきたロンドン・リメイク界のアンチ・ヒーローは、25年というキャリアを経て、サスティナブル・ファッションのパイオニアとなった。近年サスティナブルであることがファッションにおいても必須項目の一つとなり、数多くのブランドやデザイナー達がアップサイクルな取り組みを行っているが、今思えば、誰よりも早くその問題に目を向けていたのはNOKIであった。彼のリメイク手法やデザインは数多のコピー商品が生まれるほど、ハイブランドからストリート、そしてファストファッション企業に至るまで多大な影響を与えてきたが、今こそ彼のクリエーションに潜む根源的なマインドと、次の世代を見据えた新時代のDIY精神に注目すべきタイミングなのかもしれない。マスクをしたミステリアスな彼に初めて会ったときと同じく、独自のワードとテンションで語られる彼の言葉に、耳を傾けてほしい。

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Dr Noki

ハロー! すごいご無沙汰しているけど、元気でしたか?  今はどこにいて、どんなプロジェクトをやっているのでしょうか?

親愛なるYasu。僕たちがCOVID-19という未曽有の事態に入り込んで一年半の月日が経過したね。これまで当然と捉えてきた行動の自由や、コミュニティ間を動き回る権利を奪われてしまったわけだけど、それをとても心地良く感じている。この事実に感謝しつつ、僕はNokishop.com やインスタグラムの@nokiofficialに注力しながら、与えられた時間を有効活用できている。再びウェブの世界で作品を展示し、NOKIの歴史であり原点ともいえる「カスタム・ビルド・ブランド・マッシュアップ」を人々に閲覧してもらえる場所を提供しているんだ。余った時間にはパズルに熱中しているよ。NOKIのコラージュスキルを高めるために、(色彩を見て)目のトレーニングをしている。

僕が初めてNOKIの作品に出会ったのは15年以上前。大阪にあるH100というショップで、ヴィンテージTシャツ数点を使い、マーブルボール(ビー玉)が中に詰められた細いスカーフを購入した時です。NOKI自身がリメイクし始めた、つまりDIYアーティストとして活動し始めたのはいつのことなのでしょうか?

フラストレーションを募りに募らせた結果生まれたのが、僕のテキスタイルアート。ロンドンのショーディッチに住んでいた、レイヴシーンが盛り上がっていた1996年頃だった。時折ひどくトクシック、つまり有害なこともあった。だから僕にとっては、心が沈んでいくのを止めて癒してくれる、いわばセラピーのようなものだったんだ。クローゼットに詰まっていた、当時持っていた流行のブランド品のレイヴファッションを取り出しては切り刻み、それを再び繋ぎ合わせて作ったものを商品として、SOHOのThe Pineal Eyeで売り出したんだ。「なんだそれ、どこで見つけたの!?」と、みんな興味津々だったよ。僕は「これはNOKI。自分でカスタム・ビルドしたんだ」と答え、そこから新しい“ミーム”スタイルのNOKIが誕生したというわけ。

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NOKI CANVAS

ミッキーマウスやスターウォーズといった、キャラクタープリントの入ったヴィンテージガーメントにスラッシュや編み込みを入れ、細部までこだわってカスタマイズした作品をハンドメイドで生み出す。最近ではその手法を真似るデザイナーも増えましたが、元々はNOKI独自の非常にアイコニックなスタイルだと思います。この独特なスタイルのインスピレーション源は何だったのでしょうか?

自然と始まったんだ。NOKIの「カスタム・ビルド」スタイルが、今ではそんなに珍しくなくなったことを嬉しく思う。ほかの“カスタムビルダー”やファッションコミュニティで活躍する人たちに多く取り入れられ、NOKIのカスタム・ビルドの元来の目的ともいえる大切なメッセージが理解されている。それこそが「埋め立てゴミ減少」で、新デザインによる生み出される「埋め立てゴミ増加」を防ぐことだ。

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NOKI CANVAS

その「埋め立てゴミ減少」のコンセプト、そしてNOKIの“真の”カスタム・ビルドのプロセスについて聞かせてください。

古着やセカンドライフのマテリアルから来るもの。キャンバスピースやアートアパレル、何を作っていようがサスティナブルなリソースから来ていなくてはダメ。それこそがNOKIの根幹ともいえるスタイルで、先進的なモダニストこそが僕のアートの基礎ともいえる。これらのマテリアルが生きたパーツのように見えてきたら、今度はそれが頭の中で3D化されてカスタム・ビルドのアイディアが湧き出てくるんだ。だからガーメントにハサミを入れこむ際には、自分が何をすべきかの判断がしっかりできている。これはまた、大切なヴィンテージのガーメントのクオリティを落とさないという意味でも、非常に重要なこと。それだけに、自分が持っているこの特別なスキルをとても誇りに感じている。長らくこの技法を使ってきたけど、これまでにNOKIのカスタム・ビルドを作る上で台無しにしてしまったブランドや服は一つもないよ。

イーストロンドンにあるリサイクル会社LMBと提携していると聞きましたが、どのような形で一緒に仕事をして、彼らがNOKIのプロセスに与える影響はどんなものなのでしょうか?

LMBはロンドン東部にあるテキスタイルリサイクルプラントで、2008年から、僕の使うテキスタイルのほとんどはそこからソースしている。ロス・バリー氏経営のファミリービジネスで、ロスは僕のやろうとしていることをすごくよく理解していて、100%サポートしてくれる。僕が作るすべてのカスタム・ビルドは、ヴィンテージや使わなくなったテキスタイルで制作されることが肝要。だからこそ、このムーヴメントがパワフルであり、母なる地球への愛情、そしてその地球で20世紀に起きた産業化により作り出された様々な商品に敬意を表しているんだ。20世紀のブランド品を21世紀のために使う。これをしていることにとても大きな誇りを感じている。新しくできた安いテキスタイルを使う、まるで“密造者”のようなことをしている輩もいるが、過去のブランド品を利用して作り出すのが僕のやり方。この二つの手法は経済的、そしてモラル的にも大きく相違することを理解してもらいたい。「ファッション業界」と「被服業界」。個人的には、二つは似て非なるものであり、相反する業界だと考えている。

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LOVE BOX show in 2010

あなたのクリエイティヴのプロセスとアイディアを見ていると、単なるデザイナーではなくアーティストやアクティヴィストを見ているかのような錯覚に陥ります。NOKIの作品はアンチファッションでありアンチ消費社会であり、ストリートアートのようにアンチグローバリズムだからなんだと思います。

それはありがたい見解だよ。僕自身も自分をファッションデザイナーとは考えていないんだ。制作しているのはテキスタイルのコラージュアート。過去25年に渡ってクリエイトしたNOKIのガーメント一つ一つが、世界に一つしかないカスタム・ビルドのコラージュなんだ。キャンバス、インスタレーション、そしてアートアパレル、色々な形で作ってきた。ストリートのスタイルで新しいアイディアを可視化したいと常に考えていて、それをするにはアパレルをカスタム・ビルドするほかない。スタイリングや重ねるだけではダメ。その一歩上のレベルにするためには、スペクトルの反対側にあるブランドを縫い合わせてモンスター級のトラックスーツ、すなわち自由なユニホームをレイヴシーンに持ち込む。そして人々をコンフューズ(混乱)させつつ、同時にコンフォート(心地よく)したい。例えば、Yasuがさっき話していたスカーフは、毎日見ることで一般人を「消費狂い」に追い込むような、街のいたるところにあるビルボードに対する僕なりのステートメントなんだ。Marble(マーブル=ビー玉)を中に入れたあのアートピースは、「Don’t lose your marbles(中に入れたビー玉を失うな=狂わないように注意しろ)」というメッセージが込められている。僕は作品に愛情とユーモアを吹き込むことで、消費者をグローバルマーケティングからポジティヴに守ろうとしているんだ。ユニークであること、それこそが我々が最終的に追及することだからだ。

2000年代前半にあのスカーフを購入したあの頃、まだレーベル名はNOKIだけだったと思います。今では「DrNOKI's NHSt」に変わりましたよね。NOKIが「NHSt」という、より明確なサステナビリティのコンセプトを強調するようになったきっかけは何だったのでしょうか?

12年近く前のこと、Fashion Eastのプラットフォームに参画した2008年に「DrNoki’s NHSt - NOKI HOUSEpital of Sustainable Textiles」を立ち上げた。ファッション業界が僕のテキスタイルアートに関心を持っていたからそれに乗じたかった。アイディアはいたってシンプル。消費に飢えた人たちにより、多くのブランド品が埋め立て地に捨てられていた。僕はそれらを直して、ネガティヴなエネルギーをポジティヴなものに変えていった。カスタム・ビルドして、新しい生命を取り戻し、再生して、再発明して、そういったアパレルのために新たな力強いクローゼットを作り出してあげたかった。消費者の飢えを、また新しい武器に変えたんだ。

INTERVIEW WITH DR NOKI INTERVIEW WITH DR NOKI

過去25年間で、サステナビリティの概念は変化している? それとも変わりは見られていない?

ファッション業界は、公害の2番目のホットスポットになってしまった。正直予想もしていなかったことだ! それだけに過去25年間に渡って、サスティナブルなテキスタイルから、新たなアイディアをカスタム・ビルドしていってガーメントを作りだし、エコサイド(環境・生態破壊)にポジティヴに対応できたことをとても嬉しく思う。ただ現在は、ファッション業界でも気候変動について大きな動きがあるし、どこの部分で貢献していくかは個人次第。ファッションは武器と化して、消費を助長するその引き金を手にしているのが、我々業界の人間だ。ファッションのロシアンルーレットみたいな状況とでもいうのかな。だから僕は空砲だけを作りたい!

より多くの人たちが新コレクションよりも、過去のデザイナーズアーカイヴに興味を示すようになっています。この動きをどう考えていますか? そして、NOKI自身は誰か特別に敬愛するデザイナーはいるのでしょうか?

個人的には、あまり賛同できることではない。ファッションはフューチャリスティック(未来的)であるべきで、ノスタルジックであるべきではない! 人間の頭の中にある理想形、つまり完璧な時間と場所にある状態の中で残されたのが、アーカイヴだ。誰かのアーカイヴや、ぼったくりともいえる超高値のヴィンテージの服といった内容のノスタルジアを利用する際、コレクションの中ではメランコリックなエネルギーが引っ張り出されてきてしまう。「これで正しいのかな?」「元々作品を作ったアーティストはどのように考えて作ったのかな?」「過去の人が残したレガシーを自分のエゴを満たすためや、利益を出すためだけに手を加えているのではないか?」と考えるかもしれない。計算高いし、人間らしさもない。だからこそ僕は、ルチオ・フォンタナの名前を挙げたい。ルチオが使っていた刺したり切り裂いたりするアートは、僕が志向して、自分のアートをカスタム・ビルドする際に使うアサンブラージュと同じ。テキスタイルをカットしている僕は、ネガティヴなエネルギーと、サブリミナル効果を呼び起こすようなノスタルジアも断ち切っているんだ。もう一人挙げなければならないのが、ポップアーティストのレイ・ジョンソン。ハガキを使ったアートのセオリーで問題提起していた。この二人の存在は、20世紀初頭に第一次世界大戦が勃発したころに起こっていたダダのアートムーヴメント(ダダイズム)を理解する上で、僕にとっては大きな役割を担っていたんだ。彼らのアサンブラージュとコラージュこそが、NOKIのすべての基礎。だから僕も「無人地帯」の戦場を歩き回りたいと感じている。

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from book “NOKI” (2018)

最近のニュースとしては、写真家のアクセル・ホーデ作の『NOKI』が出版されました。素晴らしい内容の一冊だけど、本を制作することになった経緯を聞かせてください。

まずアクセル・ホーデと、アートディレクターのケイティ・グランドに大きな拍手を送ってほしい。ケイティが僕とアクセルを引き合わせたのは15年以上前のことなんだ。アクセルはいつもこう言ってくれていた。「準備ができたらいつでも、新しいNOKI SOB(サステナビリティ・オブ・ブランディング/セクシャリティ・オブ・ブランディング/サフォケーション・オブ・ブランディング)とマスクを持って来てくれ」とね。そうすればいつでも写真を撮ってくれる。また、彼が突然スタジオに顔を出して写真を数枚撮って帰っていくようなこともあった。15年以上の年月を必要とし、出版社にはフェティッシュとは一線を画しているマスクを着けていると言われ、ヴィジュアル的なコンセプトの面でもなかなか理解してもらえなかった。それが最終的に出版されることになった。NOKIの本を信じて出版してくれた、Art Paper Editionsにもとても感謝している。

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from book “NOKI” (2018)

また2年前に『LOVE』マガジンとコラボレートした際には、ウィリー・ヴァンデルペールのエディトリアルで14の限定版商品を発表していましたよね?

あれもまた、ケイティ・グランドの思い切りの良さから生まれたもの。以前『LOVE』のフロントカバープロジェクトでTシャツを制作した際、ウィリーと一緒に仕事をしたんだ。不要のストックとなったTシャツが35枚送られてきたため、僕がそれをカスタム・ビルドしてNOKIのミニコレクションを作り、ウィリーに撮影してもらった。その作品は『LOVE』のウェブサイトを通じて販売され、売上は慈善団体に寄付された。それは非常にクリーンでポジティヴな、無駄のないサーキュラーエコノミー(循環経済)だった。僕はこのアイディアを「NOKI UPFusion」と呼んでいる。このUPFusionをサステナビリティファッションの女王キャサリン・ハムネットとも行ったよ。「Perishing Collection(ペリッシング・コレクション=滅びゆくコレクション)」という題名でね。

個人的には、ここにきて世界がNOKIに追いつき始めた気がしています。絶対に不可避であるサステナビリティという概念、さらにCOVID-19に起因するフェイスマスク着用のトレンドも。NOKI自身は、現在の世界をどう見ていますか?

一般生活が追いつき始めてきていることを嬉しく思う。サステナブルテキスタイルの先駆者として過ごしてきたこの25年間は、最高にエキサイティングなものだった。でも実際は、僕が頭の中で描く構図はもっと壮大で、目標は「ベッドルーム・アトリエ」なんだ。自分なりのNOKIをカスタム・ビルドして、僕を感動させてほしいんだ! みんなが先駆者となり埋め立てゴミの問題を提起して、僕が想像していなかったほどの効果を出してほしい。21世紀のモダニストになってほしい。「ファッション」に関心を持つのか、「被服」に興味があるのか。だがこの二つには決定的な違いがある。あとは、自分で判断するしかないんだ。

INTERVIEW WITH DR NOKI INTERVIEW WITH DR NOKI
from book “NOKI” (2018)

これまで20年以上活動してきたわけだけど、NOKIが考える未来とは?

僕が持つ次のビッグアイデアは「the NX4S」。A Murphy Shoe社とコラボして制作するカスタム・ビルドのスポーツスリッパなんだけど、詳しくは、僕のインスタグラム@nokiofficialを見てほしい。ファッションウィーク2022用のコレクションが展示されている。また、マティ・ボヴァンと「RENT-MATOKI」というコラボもしている。彼のスタジオから出て余ったマテリアルや、不要になったテキスタイルを使い僕がカスタム・ビルドした作品だ。2021年末か来年頭にはNokishop.com でレンタルが、mattybovan.com で購入が可能になる。作品を借りてくれる人たちによって、僕たち自身がマッシュアップとロックンロールといった感じで触発される。これは我々にとってのサーキュラー・エコノミーでもある。そして、それらのガーメントをもう一度カスタマイズして、再び「RENT-MANOK」する。あとは、本格的なNOKIスクールのオープンを支援してくれるファッション・フィランソロピスト(慈善家)を探し出すこと。学校名はもう決めてあって「NESTT-NOKI Education in Sustainable Textile & Technology(NOKI サステナブル・テキスタイル&テクノロジー教育)」。生徒たちには、NOKIのルールを作るために一般的な概念やルールを破壊する手法を知ってもらう。ファッション界にポジティヴなエネルギーを送り込むカスタム・ビルドの一大勢力を作り出し、埋め立てゴミを大きく減少させるんだ。今後、ノスタルジアという「ダークサイド」を侵略するのに貢献してくれるNESTTの生徒は、すでに2人いる。Nurse Naoya(ナース・ナオヤ)とNurse Karthur(ナース・カーター)だ。彼らは今後、多くの埋め立てゴミをなくしてくれるだろう!

Dr Noki

Instagram: @nokiofficial
TikTok: @nokizine
Noki Shop: https://www.nokishop.com/

Interview text_ YASUYUKI ASANO