INTERVIEW WITH DAIRIKU OKAMOTO

性別を中和した、疑問が残るコレクション。JWアンダーソン、2013年秋冬。DAIRIKU・岡本大陸。

大窓から光が射し込むDAIRIKUのアトリエを訪ねると、デザイナーの岡本大陸さんがいつもコレクションのコアにおくさまざまな映画のシーンや、現在形の関心の向きがあるという90年代の雑誌や広告からスクラップされたイメージ、独特な言い回しのワードが手書きされたポストイットがふたつの壁面を覆い尽くしていた。「次のシーズン(2022年春夏シーズン)のサンプルが到着し始めたところで、少量ですが、レディスのアイテムもやるんです」と言う。年代を問わず自身にとって印象深いコレクションを尋ねて彼が即答したのは、大ぶりのフリルが波打つ、JWアンダーソンの2013年秋冬メンズコレクションだった。

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「ずっと好きなラフ・シモンズや、90年代のコレクションも頭をよぎったのですが、僕自身が今、服を作る立場として、メンズやレディスという隔たりなくひとつのブランドとしてやりたいというマインドセットが強くなっていることもあって、気持ち良いほどに分かりやすく、性を中和したこのコレクションが湧き上がってきたんだと思います。服飾専門学校に入学する直前で新鮮な感覚で色々なコレクションをみていた中で、レディスを思わせるスタイリングの異色さとリアリティのバランスに衝撃を受けたのを覚えています。東京のCANDYやZOZOTOWNに取り扱いがあったんですが、僕が住んでいた関西では実物を見れなかったのが今でも悔しいですね……」

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タイトでテリのあるヘアスタイルのメンズモデルが、マイクロパンツからロングブーツにはしるフリルをまとったルック画像を一緒に見返しながら彼は、「あの当時流行っていたと思うボンディングなどハリのある素材が存分に活かされているし、ニットにほんのひとつまみのプリーツが入っていたり、無彩色で中間的なカラートーン、いやらしさのない肌の見せ方が、かえって上品にもみえる。この頃のJWアンダーソンのコレクションは、全体を黒のスラックスで統一(2014年春夏シーズン)していたり、単調だけど、クリーンで見易く、強いことをやっているのに気持ちがいいんです。丸みのあるシェイプ、シワの入り方、ジャケットの肩にタックを入れてふわっとしたボリュームを作ったり、これまで様々なデザイナーがやっていた表現とは違って、メンズも、レディスを思わせるスタイルを受け入れていいんだ、『何を着てもいいだ』と思わせるパワーがあったと思います」

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「もともと中性的なファッション、もっというと、中間的なものが好きなんです」と言って、現在のコレクションにも緩やかにつながる自身の嗜好を振り返っているようだった。「世代というより僕個人の話ですが、テーラードを知る前というか、ラフ・シモンズやJWアンダーソンの服を着るようになる前の高校生の頃にケイスケカンダのフリルの服を着ていたんです。今思えば、フリルが女性のものだという認識も薄かったし、アンダーソンに共感するのは必然だったのかも。性差の話になると、色の分別で言われる時代があったじゃないですか。ピンクは女性の色だ、とか。でも、僕も僕のまわりもメンズでピンクを着ることに違和感はないというのがリアルだった。今ではもう声高に言われることはありませんが、あのコレクションは、メンズとレディスの服の垣根ってなんなのか『もう関係ない』と言っても良いんじゃないかっていうレベルにあった」

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スマートフォンをスライドする手を止めた彼はおもむろに、「でも今改めて見てみると、ファーストルックが宇宙人に見えてきますね」と笑いながら話を続けた。「映画を観て、疑問が残る作品ってあるじゃないですか。たとえば、1960年代のアメリカ映画を観ても、同時代に生きていないし当時の政治の波に打たれている感覚もわからない。だから『100%理解できるか』というと、それはもう嘘ついてるやんと思うんです。それでも、難解な疑問が思考からこびりついて離れないというのは、自分に引き寄せて分かりたい、知りたいっていう欲だと思うし、興味が尽きないってことの証なんだと思うんです。昔見た時と、今改めて見ると感じ方に違いがあるように、8年ほど経った今、『唯一のモチーフだった“丸”も“作られた形”だ』と発見できたり、『むしろ未来的だったんだ』と勝手に想像してこうやって話ができるコレクションは、時代を経ても観てみたいと思える映画のような魅力があるし、純粋に良いなと思うんです」

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岡本大陸

1994年、奈良県生まれ。バンタンデザイン研究所ファッションデザイン学科の在籍中に自身のブランド、DAIRIKUをスタート。2016年に「Asia Fashion Collection」のグランプリを受賞し、2017年秋冬コレクションをNYのファッションウィークで発表。

Text_ TATSUYA YAMAGUCHI