ARTIST INTERVIEW Vol.01

Interview with Daiki Tsuneta

常田大希

完璧な人間なんて存在しない。彼に会うまではそう思っていた。常田大希。YouTubeでは2億回再生という数字を叩き出し、今や日本を代表するバンドとなったKing Gnu(キングヌー)のリーダーであると共に、新たなプロジェクトmillennium parade(ミレニアム・パレード)を立ち上げるなど、八面六臂の活躍をみせる今最も注目すべきアーティストだ。音楽やアートに対する深い造詣と、そこから生まれる非凡なるクリエイティビティ、そしてクールな容姿と圧倒的な存在感。彼に欠けているものなんて何一つ見つからない。それでも、彼はいう。「世界で戦える日本で初めてのアーティストになりたい」と。現状に一切甘んじることなく、さらにそのずっと先を見据えている彼の目には、一体何が写っているのだろうか。話題の3DCG作品『攻殻機動隊 SAC_2045』の主題歌である「Fly with me」のリリースを機に、話を伺った。

常田大希

--- 今回はKing Gnuとのリーダーとしてではなく、様々なクリエイターを巻き込んでいるプロジェクト millennium paradeについて詳しくお聞かせてください。King Gnuとの活動とは主にどう異なるのでしょうか?

日本の音楽業界という枠組みの中で活動していこうというのがKing Gnuです。だからあえて意図的に日本の大衆的なフォーマットであるJ-POPを作っています。でも、俺の音楽のルーツはそこじゃない。もっと自分自身の音楽観のルーツに根付いたクリエイティビティを表現するためのプロジェクトがmillennium paradeなんです。

--- それはKing Gnu結成以前から考えていたことなのでしょうか?

どちらも同じぐらい長いのですが、millennium paradeはここにきて本格的に始動したという感じですね。日本でJ-POP以外のことをしようとすると、どうしても規模が小さくなりがちなので。King Gnuで大衆歌を作りメインストリームでの戦い方をしているからこそ、millennium paradeのような音楽活動もしやすくなる。millennium paradeではもっと違うことに挑戦したいんです。日本のメインストリームにもアンダーグラウンドに収まらない、ポップアートのようなイメージで、突き抜けたことをやっていきたいと思っています。

--- そのmillennium paradeの紡ぎ出す世界観ですが、サイバーパンクや80年代のSF作品の影響を強く受けている印象を受けました。

そうですね。millennium paradeのMVは、俺も所属しているPERIMETRON(ペリメトロン)というクリエイティブ・チームで作っているんですけど、俺も含めチームのメンバーが『AKIRA』や『攻殻機動隊』に影響を受けているので。いずれも80年代や90年代の作品ですが、俺らはネット世代なので年代はあまり関係ない。“リアルタイム”という感覚がほとんどない世代なのかもしれません。

常田大希
COAT : Raf Simons 2005A/W (archive store)
JACKET : Maison Margiela 2000s (archive store)
PANTS : Yohji Yamamoto 1993S/S (archive store)
NECKLACE : Maison Margiela 2007A/W (archive store)

--- 『AKIRA』や『攻殻機動隊』以外に強く影響を受けた映像作品は何でしょうか?

(スタンリー・)キューブリックの作品ですかね。どの作品も良いですが、一番好きなのは『2001年宇宙の旅』かも。でも、キューブリックの作品から直接的に影響を受けているというよりは、キューブリック本人の作品を作るときの姿勢や、マインドセット的なものを尊敬しています。

--- 4月22日に発売された最新シングル「Fly with me」は、『攻殻機動隊 SAC_2045』の主題歌としても大きな話題を集めていますが、どのような経緯で制作に至ったのでしょうか?

急に『攻殻機動隊 SAC_2045』の音楽担当から主題歌を作って欲しいという連絡があったんです。それで最初は2曲作って送りました。1曲は『攻殻機動隊』らしさを考えた曲、もう1曲はあえて独自の解釈を打ち出した「Fly with me」です。これまで『攻殻機動隊』の音楽は菅野よう子さんやコーネリアスが手がけていたので、そういうサウンドを意識すべきかと思い1曲目を作りましたが、今だと少しインパクトに欠けるかなと。それで、今俺らが生きているこの時代を強いサウンドで表現すべきだという思いから「Fly with me」を作りました。結局、俺らの熱量が「Fly with me」の方が圧倒的に高かったので、それが両監督含め音楽担当や制作チームにも伝わって、こっちになりましたね。

--- 「Fly with me」はミュージックビデオも衝撃的でした。こちらはどのように制作されたのでしょうか?

1年ほど前からPERIMETRONのメンバーたちと、各々がスキルをあげてきたこのタイミングで極限まで気合いの入ったCG作品を作ろうという話をしていたんです。俺らのここまでの集大成的な作品を作ろうと。それで、佐々木(集)と神戸(雄平)という二人の監督を軸に、設定からキャラデザまでいちから作り上げました。制作に半年以上かかりましたし、コストも過去最高クラスになってしまいましたが、ずっと残る作品になったと思います。アーティストは世の中にパンチを食らわせ続けないといけません。そして、そのひとつの始まりとなるのがこの作品です。

--- millennium parade やPERIMETRONは、映像ディレクターなどのメンバーも内包しているのはなぜでしょうか?

何かひとつのプロジェクトをやるにしても、その大元の企画というか、根底にある哲学をきちんとコアメンバーで共有しておきたいんです。だからプロデューサーやディレクターも仲間達で固めたかった。何かを発信していく上で、自分一人で出来ることなんて限られていますから。信頼出来る仲間がマスト。今ようやくその活動が形になってきました。

常田大希
COAT : Raf Simons 2015A/W (OR NOT)
SWEARTSHIRT : Maison Margiela 2000s (archive store)
PANTS : Comme des Garçons Homme Plus 2008A/W (archive store)

--- シングル「Fly with me」には今回のMVの監督をしたメンバーと、『攻殻機動隊 SAC_2045』の神山健治監督、荒牧伸志監督とのトークセッションを収録したDVDも同梱されるそうですが、そのセッションの中で印象深かったことを教えてください。

先にも話しましたが俺らは『攻殻機動隊』シリーズに影響を受けているので、『攻殻機動隊』が何をコンセプトに、何を描こうとしているのか、どのような作り方をしてきたのかを両監督から聞けたのが良かった。勉強になりました。「Fly with me」のミュージックビデオは、これまで影響を与えてくれた『攻殻機動隊』という作品に対する俺らのひとつのアンサーとして作りました。実を言うと、今回「Fly with me」MVの裏テーマは「『攻殻機動隊』よりヤバい作品を作る」ですから(笑)

--- シングル「Fly with me」にはSteve Aoki(スティーヴ・アオキ)のリミックスも収録されていますが、これはどのような経緯で実現したのでしょうか?

Steveも『攻殻機動隊』のファンなのを知っていたので、頼んでみたら快諾してくれました。Steveの音楽観が良い方向に出たリミックスになっていて、さすがだなと思いました。Steveって本人もすごく面白いんですよ。彼ってもともとはハードコア界隈の人で、一周回って今の音楽に行き着いているんだなと。でもあの盛り上げ方や音の作り方はある意味ハードコアですよね。

--- 「Fly with me」が無事発売されましたが、今後挑戦したいことや今進めているプロジェクトについて教えて頂けませんでしょうか?

「Fly with me」は制作期間も、規模も、クオリティも、思い入れもヤバかったから、今は俺も含めてみんなちょっと燃え尽き症候群気味にはなっているかもしれません(笑)。それぐらいの熱量で作ったので。でも、もちろんまだまだやりたいことは沢山あるし、チームのメンバーともよくそういう話はしています。大編成のオーケストラを交えての公演なんかも計画してます。

--- これまでmillenium paradeとしてDIORとコラボレーションをしたり、ソロ名義ではN.HoolywoodのNYコレクションのショー・ミュージックを担当したりと、ファッションとの結びつきも強い印象を受けます。とあるインタビューでは、「川久保玲さん〈Comme des Garcons〉の“黒の衝撃”のようなことを音楽の世界でやりたい」と語っていましたが、日本から世界基準の音楽を作っていきたいということでしょうか?

そうですね。残念ながらこれまでに前例がないので。今のところ世界基準で活躍しているミュージシャンは日本から出ていない。もちろん坂本龍一さんや久石讓さんがいますが、彼らは映画音楽という側面から評価されているという印象が強い気がする。俺らは80年代にComme des GarconsYohji Yamamotoら日本のファッションブランドが世界に衝撃を与えたように、音楽で世界中の人々に衝撃を与えたいと思っています。

--- 80年代と違って、今現在はファッション業界も音楽業界もありとあらゆる表現方法が確立されています。“新しいこと”を作ることはすごく難しいことではないでしょうか?

確かに今は完全にサンプリングの時代ですからね。でも、世の中の流行はある。今ってビリーアイリッシュやジェイムス・ブレイクらのような、ミニマムなサウンドが世界的に流行っていますよね。だから俺は逆にうるさいぐらいのサウンドを作りたいと思っています。それも、いろんな美意識が交錯している日本やアジアの街並みのような音を作りたい。良くも悪くもカルチャーがごった煮状態になっているから、それを音楽や映像を通して表現したいですね。それが俺らの柱です。

常田大希

--- ファッション業界では、その80年代のComme des Garconsのアイテムを始め、“アーカイブ(=受け継がれていくもの)”という価値観や認識が定着しつつあります。音楽業界にとっての“アーカイブ”とはどのようなものだと思いますか?

音楽でいうと“クラシック”ですよね。俺はずっと“クラシック”となる表現をしたいと思って活動しています。時代を超えて残っている音楽というのは、ちゃんと意味がある。それを作るにはどうしたら良いかと日々考えています。少なくとも同時代性は必須だと思う。今生きているこの時代をきちんと表現していないと、後世に遺る作品にはなりえませんから。

--- King Gnuやmillennium paradeのみならず、その他の活動もあり、日々何かを作り続けていると思いますが、いつの日かそのクリエイティブの源泉が枯渇し、空っぽの状態になってしまうのではないかという不安や焦燥はありますか?

それは全くないですね。でも、「今までと違う」という衝撃を与える作品を作ることに対する苦労や不安はあります。正直言って、上質な音楽を作るのはそんなに難しいことじゃないんです。ただ、人々に新たな衝撃を与える音楽を作るのは難しい。それには作り手側にもう一歩踏み込んだ別の考え方や、より強烈なパワーが必要になってきますから。

--- 最後の質問です。新型コロナウィルスで世の中が一変してしまいましたが、心境の変化や音楽に対する影響はありますか?

ミュージシャンたちもみんな大変な状況で、いろんなアクションを起こし始めていますよね。でも、どこか浮き足立っている気がする。俺もライブが中止や延期になったりして多少の不安はありますが、それでも今まで通りのビジョンで前に進んで行こうと思っています。時代に左右されずに、自分たちがやりたいことをやるだけですね。

常田大希
Fly with me

millennium parade『Fly with me』

https://millenniumparade.lnk.to/HniNL

01 Fly with me
02 Fly with me – Live
(Sony music labels)

Fly with me

millennium parade × ghost in the shell: SAC_2045 『Fly with me』

https://jvcmusic.lnk.to/millenniumparade_flywithme

https://mllnnmparade.lnk.to/FWMCD

01 Fly with me
02 Fly with me – Steve Aoki Neon Future Remix
(Flyingdog)

Photography_ TOMOYUKI KAWAKAMI
Styling_ KEISUKE MATSUOKA
Hair & Make-up_ TAKAI
Text_ SOHEI OSHIRO
Translation_ FUMIKA FUJIBUCHI