創造に命を懸けた天才の劇的な半生
モードの反逆児 ALEXANDER McQUEEN
ファッションという枠を越え、世界中の人々に影響を与えたデザイナー達を追ったドキュメンタリー映画。ヴィヴィアン・ウエストウッド、マルタン・マルジェラ、ドリス・ヴァン・ノッテン、カール・ラガーフェルドなど、これまで多くのドキュメンタリー映画が公開されてきたが、この4月5日(金)に天才デザイナー、アレキサンダー・マックイーンの半生が紐解かれる。
経済的にも不安定で不景気の続いていた90年代のイギリス。その一方でロックミュージックやグラフィティアートなど、英国の若者のカルチャーが世界的に浸透していった。ファッションもその一つで、93年に鮮烈のデビューを果たしたアレキサンダー・マックイーンも、英国ファッションカルチャーの立役者の一人だ。
リー・アレキサンダー・マックイーン。労働者階級の街に生まれ、その日暮らしもままならない情勢でありながら、失業保険を資金にし23歳でファッションデザイナーとしてのデビューを果たす。
本映画では、そんなALEXANDER McQUEENデザイナーのリー・アレキサンダー・マックイーンの半生を綴った作品であるが、過激で唯一無二のクリエイティブに裏打ちされた、氏の苦悩と溢れる感性の真実が、彼の言葉と彼の人生に大きく関わる人との話によって描かれている。
ロンドンの労働者階級の街イーストエンドに生まれ育った青年の原点を、母親のジョイスが明かす。学校へも行かず仕事もなかった 16 歳の時、仕立て職人が人手不足と聞いて老舗 テーラーで働き始め、服作りの才能に目覚めた。やがてマックイーンは単身イタリアに乗り込み、ロメオ・ジリのアシスタントを務めるのだが、ジリが生意気だったマックイーンのエピソードを披露する。帰国後、セント・マーチンズ美術大学での卒業コレクションを発表し、そのコレクションが『VOGUE』エディターでファッション界に多くの影響を与えたイザベル・ブロウの目に留まったことから、氏の人生が劇的に変わっていく。
前衛的で強烈なコレクションは賛否両論を呼び、世間の話題をかっさらっていった。若い時代に培ったテーラリングの高い技術と、氏の織りなす独特な世界観が功を奏し、GIVENCHYのクリエイティブ・ディレクターに就任し、一躍時の人に。老舗メゾンのクリエイティブの一方で、自身の名を冠するブランドでは、さらに過激さを増し、”モードの反逆児”と名付けられ、さらなる名声を手に入れる。氏が活躍していく中で、ロンドンのカルチャーも盛り上がりを見せ、Cool Britanniaのムーブメントが起こる。多くのデザイナーやファッションに影響を与えた『トレイン・スポッティング』もこの頃に公開され、英国のエンターテインメントが絶頂期を迎えることとなった。
輝かしいクリエイター人生を歩む中で、悩みやプレッシャーも多く、ドラッグに手を出してしまう。トム・フォードの誘いもあって、アレキサンダー・マックイーン社の株51%をグッチ・グループに売却し、傘下に。LVMHグループの傘下であるGIVENCHYは、これを知り、契約満了を待たずして解任することに。GIVENCHYのディレクターを退いた2000年代では、セカンドラインMcQを立ち上げ、PUMAやティム・バートンとのコラボレーションなど様々なクリエイティブで本領を発揮し、デヴィッド・ボウイやレディー・ガガの衣装デザイン、ビョークのミュージックビデオの監督までも手掛けていく。しかしながら、2010年に自らの命を絶つ選択をすることとなる。ファッションとしての一時代を作り、英国の発展に貢献し、大英帝国勲章を受賞するまでに至った人生。いかにして現代のおとぎ話のような成功を果たし、なぜ燃え尽きてしまったのか―? 『ピアノレッスン』の作曲家マイケル・ナイマンの音楽に乗せて、伝説となったショーとその裏側が映画では公開される。天職と謳った幸福と、理由に迫る、どんなドラマよりも劇的でエモーショナルなドキュメンタリーとなることは、言うまでもない。
服を着ることだけなら誰でもできる簡単なことだろう。しかしながらお洒落をする、となると身に着けるブランドを知っていると知らないとでは大きく変わってくるもの。そういった意味ではデザイナーズドキュメンタリーは、お誂え向き。今のストリートシーンにも影響を与えているブランド・デザイナーを知り、自身のファッションをより楽しんで頂きたい。
作品情報
映画『マックイーン:モードの反逆児』
公開日:2019年4月5日(金)
監督:イアン・ボノート、ピーター・エテッドギー
音楽:マイケル・ナイマン
出演:リー・アレキサンダー・マックイーン、イザベラ・ブロウ、トム・フォード他
Text_ HAYATO HOSOYA